第9話科学と魔術7

「本当にやるの?」

「もうここまで来て引き下がれないさね」

「なんか、本当にこれでいいのかなぁ・・・」

「大丈夫さね!」

「いやね?この作戦がうまくいくとね?さっきまで命がけで戦ってた私がバカみたいに思えてくるんじゃないかなぁ・・・と」

「・・・・。」

「無言で目をそらさないで?!」

 実際、サーシャがリンに提案した作戦はそれほどバカバカしく、だがそれ以上に理にかなってるといえば、理にかなっていた。

「もう、これで失敗したら許さないんだからね?」

「大丈夫。絶対に成功させるさね」

 そういって深呼吸をしてから

「行くぞ!」

 サーシャの言葉を合図に、リンが残り少ない魔力を使って身体強化を全身に施し、的に突っ込むような勢いで突進していく。

 自動人形オートマタも先ほどのオーバヒート状態から完全に回復していないのか、少し動きは鈍いものの、赤い目を光らせリンに反応する。

 その巨体から繰り出されたのは、先ほどから何十何百とリンが避けてきた、力強くも単調なパンチ。

 それを彼女は、後ろへ飛ぶことでそれを回避する。

 殴られた衝撃で、地面に小規模のクレーターができるが、リンは特に気にすることなく後ろへの跳躍を続ける。

 先ほどのように、牽制目的の攻撃すらせずに、ただただ後ろに回避を続ける。

 もし、相手が人間の知性を持っていたのなら、この時点で自分が敵の罠にかかっていることを警戒していただろう。

 だが、単純な命令しか遂行できない自動人形オートマタでは気付けなかった。

 自分が誘導されていること。

「サーシャちゃん!」

 いつの間にか壊れたビルの二階に登っていたサーシャにリンが叫ぶ。

 それを合図にサーシャはそこから、自動人形オートマタのバックパックの上に飛び乗り、その巨体に肩車するような形になる。

 自動人形オートマタは、それを察知すると上下左右に体を揺らし、激しく暴れ始めた。

 その大きすぎる太い腕が頭部の後ろまで回らないのか、身体ごと暴れることでサーシャを振り落とそうとするが、彼女は振り落とされまいと自動人形オートマタの首元を足でホールドする。

 そして、暴れる自動人形オートマタの後頭部でサーシャが意地悪く微笑む。

「なぁ、怪物。コンポジションC4って知ってるか?」

 さらに口元を釣り上げたサーシャは、

「まあ、簡単に言えばプラスチック爆弾のことなんだがね?この爆弾の特徴は、粘土状で隙間に詰めて使えるってところと、その粘土に棒状の起爆装置をぶっ刺しておけば、遠くからボタンひとつで簡単に爆破できるところなんさね。さぁ、ここで問題です!その粘土状の爆薬を貴方の隙間だらけの部分に詰めて入れたらどうなってしまうでしょう?」

 だが、自動人形オートマタが喋るはずもなく、ただひたすらにサーシャを振り落とそうと暴れ続ける。

「ぶっぶー!時間切れです!気になる答えは今から実演してあげるさね!」

 サーシャはたった一つの自分の魔術である転移魔術を使って、手元にオフホワイト色の粘土と、一本の棒状のものを引き寄せる。

 それを首の付け根から胴体のパーツに大きく開いた隙間に詰め込むようにして粘土を付着させると、棒状のものをその中心に軽く差し込んだ。

 それを終えると同時に、サーシャは絡みつくようにしていた足の拘束を解くと、怪物が暴れていた勢いでそのまま吹き飛ばされる。

「サーシャちゃん!」

 残り少ない力を使って、リンがサーシャを受け止めた。

 怪物が、こちらへ振り向き突進しようと、バックパックが金切り声をあげている。

「よくもやってくれたな木偶の坊。」

 先ほどとは打って変わって、冷ややかな目をしたサーシャの手にはいつの間にか一つのスイッチが握られていた。

「チェックメイトだ。」

 その言葉と同時にスイッチを押した。


 ドゴン!という爆音とともに、3メートルを優に超える自動人形オートマタは首の付け根を中心に内側から爆散した。

 そして、限界を迎えたリンが倒れたのはそれとほぼ同時だった。

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