第4話科学と魔術2

そんな訳で。

 科学的概念も魔術的概念も凌駕する速さで、グラウンドに到着した二人は実技演習の

補修を行う生徒たちに混じっていた。

 魔術実技演習という授業は、その名の通り実技が成績として反映されるため、他の授業よりも評価が厳しく、休むことなく授業に出ていた生徒ですら補修になってしまうことが多々ある科目だ。

 サーシャの所属するクラスからは、彼女とリンの二名しか補修者は出ていないが、それも二人が授業に出なかったことが原因であり成績が悪かった訳ではなかった。

 だがしかし、実際ここには百名を超える人数の生徒たちが集合している。

 つまり、A組に該当しないその生徒たちは他のB組〜G組までの人間ということになるわけだが。

「全く・・・今年は『A組』の補修者が二人もいるのか・・・」

 メガネをかけジャージ姿の美人女性がわざとらしくため息をつく。特徴的な青髪を後ろでまとめてあり、ジャージの上から見てわかる細い体ながらも鍛え抜かれた体が「ザ・体育教師感」を醸し出していた。いや、魔術の教師ではあるのだが。

 腕にした腕章には『教師 ローラ・メリダスト』と書かれている。

「それじゃあ、課題だが・・・。この学園の敷地内に宝石を二百個ほど隠しておいた。その宝石を探してきなさい。今日はちょうど補修者の数が偶数みたいだから二人一組になって一個を見つければいいわ。」

 全員の顔面から血の気が引いていく。

 それもそのはずだ。今いとも簡単に「お宝探しゲーム」かのように言われたが、実際はかなり異なっている。

 ローラは学園の敷地内と言ったが、この学園の敷地はめちゃくちゃとつくほど広い。学園内に九つのグラウンドと、大きなスタジアム三つと、独自の生態系が出来上がってそうな森林と、牧場でも営んでいるかのような草原があるぐらいには広大だ。

 そんな広大な敷地の中に隠された、小さな石ころを探せと言われたのだから、ここにいる生徒の気持ちは、砂漠に逃がしたアリを見つけてこいと言われているようなものだろう。

 さらに言えば、宝石を探知するなんて都合のいい魔術があるはずもなく、本当に自力で歩いて探すしか手段はない。

 『魔術実技』演習とは、一体なんなのか問いたくなってくるような内容だ。

「あぁ、あとサーシャとリンは同じペアね。『A組』連中は別メニューだから。B組とかと同じメニューじゃ話にならないでしょうしね」

「異議あり!異議あああああありぃぃぃ!!!!」

 即座に抗議をしたのは、サーシャだった。

「なに、見つけるのは五個でいいわよ?」

「ちっがあああああああう!!私たちだけ別メニューというのは不公平じゃないでしょうか!?」

「ほうほう?特待生の集まりのA組が、一般受験のB組以降のクラスと同じ扱いでいいわけないでしょ?」

 この学園の魔術科には特待制度がある。

 事前に学園が目をつけていた学生や、受験の際に突出した才能を発揮した学生を、特待生としてA組に振り分ける。

 だからA組には、基本的に天才レベルの生徒しかいない。

 ゆえに補修者が多く出てしまいがちな、『魔術実技演習』においても二人しか出ていない。まあ、その二人さえもサボったことによるものであって、実力面のものではないのだが。

 ともかく、この学園においてのA組とは魔術のスペシャリスト集団と言っても過言ではない認知がある。(もちろん、サーシャはそうは思っていない)

 だが、こう言ってしまえばA組じゃない学生へは才能がないかのように見えてしまうが実際は少し違った意味合いがある。

 そもそもの住む世界が違うのだ。

 A組の生徒は、魔術のためなら自分の命を平気で投げ出しかねない、頭のネジが数本飛んだイカれた連中ばかりだ。

 普通の生徒は、そんな生徒とは友達になれても、自分がなろうなんて到底思わない。

 それに、A組にできることは、それ以外の生徒にはできないが逆もまたしかりだ。B組〜G組までの生徒にしかできないことがある。

 それを生徒たちもわかっているので、A組の生徒をわざわざ妬んだりすることもないし、むしろ友好的に接している生徒の方が多いと言えるだろう。

 実際、サーシャにもリンにも、他クラスにも共に昼食をとったり、休日遊びに行ったりする友人がそこそこいる。

 だからこそ、周りがかばってくれるとサーシャは信じている。

「まあ、俺らがサーシャ達、エリート様と同じってわけにもねぇ。」

 その声に全く邪気は含まれてはいないが、その生徒の顔はニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべていた。。

 その言葉を耳にしたサーシャの肩がピクッと動く。

「まあまあ、からかってやるなよ・・・こいつらなら五個なんて三分で終わるって」

 ピクッ   また一回。

「いやむしろ五個じゃ少ないのでは?」

 ピクッ   また一回。

 次から次へと、顔も名前も知った連中がサーシャを煽る。

 もし、何も知らない人がこの光景を見たら、か弱い小さな女の子をいじめているように思うだろう。

 だが、これはいつものパターンである。

 サーシャが、だんだん武者震いのように震えだした。

 そして、サーシャは、いつも通り爆発して、こう言うのだ。


「だあああああああ!!十個持ってきてやる!!!見てろよお前ら!!」

 

 と、意気込んで飛び出して行ったわけだが。

「で、何か策はあるの?」

 サーシャに勝手に課題を重くされ少し御立腹ぎみのリンが、サーシャに聞くと

「ふっふー。任せなさいな!」

 どこから取り出したのか、二本のL字型の金属棒を持っていた。

「それは?」

「ダウジングロッド〜!」

「だうんじんぐろっど?っていうかなんでダミ声なの??」

 リンは聞き慣れない言葉に首をかしげる。

「ダウジングに使う道具さね」

「だうじんぐ?」

「ダウジングってのは、地下水やら貴金属の鉱脈やらを、振り子やら棒やらの動きを見て発見できるって謳う手法さね」

「それって魔術?」

「んーオカルティック?・・・って、ちょっ!無言で奪おうするのはやめるさね・・・!って、あーー!!」

 リンは無言で二本の金属棒を奪い、どこかへ投げ捨てた。

「真面目にやってよ!誰のせいでこうなったと思ってるの!」

「ちぇ、仕方ない・・・私の大魔術を見せるさね」

 そういって、またどこからか取り出したのはストップウォッチ型の機械に見えるものだった。

「それは・・・?」

「貴金属レーダー。」

「は?」

「だから貴金属レーダーさね。このデバイスから貴金属のみが跳ね返す特殊電波を発生させて、それを検知する機械さね。」

「いやそれ魔術?科学だよね?」

「『大』!魔術。」

 それは魔術もへったくれもない、科学の粋を集めたものだ。ただ彼女はその自分の発明品を頑なに『大魔術』と呼ぶ。

 そんないつも通りの友人にリンは苦笑をしていると、ストップウォッチがピッと電子音を鳴らした。

「おっ、早速反応があるさね!!」

 学園敷地内の森林の方へと駆けていくサーシャ。

 音の強くなる方へ向かっていくと、ピピピピピピピと目覚まし時計のアラームよりも幾分か耳障りな電子音が鳴る。

「うわっ本当に落ちてる。」

 だが、その耳障りな電子音よりも機械が示した場所に目的の宝石が落ちていたことに反応するリン。

 手短に茂みの中で紅く光る宝石を拾い上げ、サーシャは持っていたポーチの中に宝石をしまうと

「あっ音が止まった。」

「このポーチは、この機械から発生してる電波を阻害するポーチさね。これに入れておくと私たちが持っている宝石には反応しないから、落ちているの宝石にだけ反応するさね」

 そういってストップウォッチ型の機械に付いたストラップをくるくる回してみせる。

「へぇ、よく考えてるんだねぇ。じゃあこれがあれば、私たちは歩いてるだけでいいの?」

「そういうことさね。私たちは学園を散歩してるだけで、勝手にこの機械が在り処を教えてくれて、気付いたら宝石が集まっていくって仕組みさね!」

 サーシャがない胸を張ると、突如その機械がピピピピピッとアラーム音を鳴らす。

 その音は次第に大きくなっていく。

 彼女達がその場から一歩も動いていないのに、だ。

「ってなんだこの反応の数!?」

 レーダーの画面には、宝石の在り処を示す点が数十個写っており、それがサーシャ達に向かって徐々に近づいていた。

「壊れちゃったんじゃないの?」

「いやそんなことはないはずさね」

 機械をブンブンと振ってみるが、そんなことでアラームが鳴り止むはずもない。

「これって、もしかして、無理難題を押し付けられた私たちを、宝石さん達がかわいそうに思って自分達から歩いてきてくれてるんじゃ・・・!我ながら天才的な発想だな、うん!」

 無論、そんなことは魔術的にも科学的にもありえない。まず宝石は生物じゃないから歩かない。

 だが、そんな自分の冗談にふざけて再びサーシャが胸を張っていると、その前を魔力による光の一閃が通過した。

 おそらく、サーシャに胸があれば、なくなっていたであろう。

 慌てて、ない胸を引っ込めて光が飛んできた方向へ目を向けると、そこには紅い目を輝かせた影があった。

 二人はその影の正体をよく知っていた。

「待て!あんなの聞いてないさね!?!?」

 だが、その影がこの場所にあるとは聞かされていない。

自動人形オートマタ・・・しかもあんなにいっぱい」

「多分、レーダーに写ってたのは、こいつらの中の宝石が反応したせいさね・・・!」

 眼前に現れた複数の影の正体は、鈍い光を放つ金属の装甲に覆われ、魔力での自立稼働を可能とし、単純な攻撃魔術なら使用することが可能な魔導具———自動人形オートマタ

 コスト的にも非常に安価なため、使い捨ての実践相手としてもよく使われるそれは、もちろんこの魔術を学ぶための学園にとっては、教材として必須のアイテムであり、大量にストックとして保管されていたはずだ。

「あの鬼畜教師!こんなものまで用意してたのか・・・!」

「サーシャちゃんが先生に文句言うからだよぉ〜!!!」

「それにしたってやりすぎ・・・うおっ!!」

 言い切る前に間髪入れずに自動人形オートマタが突進してきた。それを横に飛ぶことで回避し地面を一回転して受け身を取ることで着地をする。

 おそらく、逃げ切るのは不可能だろう。しかし、二人いるとはいえ、この数を相手にしのぎ切れるかは微妙なところだ。

 学校に置かれている自動人形オートマタには、セーフティが付いており、相手が気絶もしくは一定以上のダメージを追えば襲ってこなくなるはずだ。だが、逆に言えば、あの自動人形オートマタたちは彼女たちをボッコボコにするまで襲い続けてくるということだ。

 やるしかない。

 答えは一つだった。


「神秘の精霊よ 我は望む 万物の理を超え 今 我が元に」


 サーシャが詠唱した五節の言葉に反応し魔術が起動する。

 彼女の手元が光ったかと思うと、その手にはいつの間にか二丁の拳銃が握られていた。

 転移魔術。少女がこの世界でたった一つだけ使うことを許されたその魔術は、事前に魔法陣を刻み関連付けしておいた 無機物を自分の元へと引き寄せる魔術で、戦闘においてはなんの役にも立たないと言われてきた魔術。

 だが、もしその呼び寄せたものが剣やら銃やらの武器であれば話は変わってくる。

 サーシャの握った二丁の拳銃を自動人形オートマタへと向ける。

 照準はオートマタの駆動系であり弱点である胴体の中心。

 次の瞬間、閃光と銃声を伴って眼前に迫るオートマタへと弾丸を飛ばす。

 そして、音速で飛んだ弾丸が胴体の中心を捉えるが———ガキン!と金属を弾くような音ともに弾丸を弾いてしまった。

「なっ・・・!?」

 音速で射出される弾丸が弾かれたことに思わず絶句する。

 だが、うろたえたところで自動人形オートマタが接近を止めることもなく、ぐんぐんとこちらへ近づいてくる。

身体強化エンチャント!!!」

 リンが絶叫したかと思うと、サーシャの前に庇うように滑り込むよにして入り込んでくる。

「破ッ!!」

 その動作からの連携で自動人形オートマタへと回し蹴りを入れる。刹那、蹴られた胴体の部分から真っ二つになって地面に落ちる。

 弾丸を弾くような自動人形オートマタのボディを、いともたやすく砕いた怪物じみた彼女の力の正体は足に魔術で身体強化エンチャントを施していたことによるものだ。

 身体強化エンチャントは、文字どおり魔力で体を強化する魔術で、術者の技量にも左右されるが、一時的に鋼をも簡単に砕けるほどの強化を施すことができる。

 そして、この身体強化エンチャントという魔術において突出した才能を持っているのが、このリン・フェイフェイという少女だった。

「遠くのやつは任せたよ、サーシャちゃん!」

 そう言うなり、リンは前方の手近な自動人形オートマタから狙いを定めて次々になぎ払っていく。

 それはさながら、獲物を狩る虎のような速さとパワーだった。

「私も負けてられないさね・・・!」

 パァン!   再び発砲。だが、ガキン!という音とともに弾かれてしまう。

 手に持っていた拳銃を転移魔術で戻し、新たな拳銃をその手に持ってくる。

「ちっ、9ミリパラベラム弾がダメなら44マグナムでどうさね!!」

 新たに握っていたのは一丁のリボルバー拳銃。先ほどの拳銃よりも古い型番ではあるが、装填されている弾が先ほどの弾よりも大きく、先ほどの拳銃の約3倍の威力がある。

 スパァン!という豪快な発砲音と共に音速を超えて飛ぶ弾丸が、自動人形オートマタの駆動系の弱点である胴体の中心を貫く。

 効果があると分かれば、こちらのもの。あとはひたすら撃ち抜いていけばいいだけだったのだが   

 そのひたすらが非常に長く、終わる頃には二人の体力も限界が見えそうなところまで来ていた。

「や、やっと終わったぁ〜」

 リンがバタンと地面に倒れこむ。

「あの鬼畜教師、いったい何体用意したんさね!!!」

 恐らく一人三十体は葬ったであろう、自動人形オートマタの残骸を見ながら文句を言う。

「しかもご丁寧に、自動人形オートマタの表面まで強化しやがって。これでクリアできなかったら学園に猛抗議してやるさね!」

「まあまあ、私が粉々に粉砕しちゃったのはわからないけど、サーシャちゃんが倒したやつからなら宝石が取れるんじゃないかな?」

「ほほう、確かに」

 寝ながら提案してきた親友に名案だと意地悪くニヤリと笑って返した。

 自動人形オートマタは魔力で駆動している。つまり、どこかに魔力を貯蔵しているパーツがあるわけだが、それが彼女たちの言う宝石だ。

 宝石には、魔力を溜め込む特性があり、こういった自立稼働型の魔導具の場合は宝石がバッテリーの役割を果たしている。

 それはここに少なくとも数十体の自動人形オートマタの残骸が転がっており、それは数十個の宝石がここに転がっていることを意味しいているわけだが、全部が全部生き残ってるとは限らない。おそらく拳銃で撃った衝撃で砕け散ってるものもあるだろうし、リンに蹴り飛ばされたり殴り飛ばされた残骸に関しては目も当てられない。

 自動人形オートマタの構造を完全に把握しているサーシャは、自動人形オートマタの装甲を慣れた手つきで観察していく。

「これなら、なんとか分解できそうさね」

 転移魔術で工具を引っ張り出すと、装甲を固定してるネジを丁寧に外していく。

「魔導具なのに、科学工業製品ばかり使って作ってるってのもおかしな話だよね」

「まあそこは仕方ないさね。こうやってネジとかを使うことによって大量生産を可能とするさね」

「そういうものなの?」

「そういうもんさね。昔は、このオートマタも魔導具職人が一つ一つ手作業で作っていたらしいけど、二日で一体が限界だったらしいさね。でも工場で科学製品を使って組み立てることで、一日に何百体と生産できるようになったさね。」

「ほえ〜、すごいんだね、科学って。」

「まあ、不可能を可能にするのが科学さね」

 サーシャはリンに解説しながら、自動人形オートマタの胴体の装甲についたネジを手際よく外し、ゴタゴタしている基盤のようなものの中から宝石だけを丁寧に外していく。

 それを何十回か繰り返すと。

「一応、リンがやった方も見てみるさね」

 そう言って無残にも真っ二つにされた自動人形オートマタの、その断面から手を突っ込みゴソゴソと漁り始める。

「んー・・・・おっ!これだ!」

 満足げな声を出して胴体から手を引き抜く。

「って、この宝石ヒビ入ってて、アクセサリーとしての価値すら皆無さね」

 数瞬前からは想像もできないような、暗い声を出しつつ、手に持っていた宝石をそこらへんに放り投げた。

「全く。銃弾でも撃ちぬけない装甲を簡単に破壊するし、おまけに中に入った頑丈な宝石ごと砕くとか、一体どんな力さね。」

「とは言われても、魔力で身体強化してるとしか言えないしなぁ・・・」

 魔術とは、本来は体内の魔力と発動する魔術を詠唱によって関連づけし、空気中に漂う魔力に影響を与え発動させるものだ。

 対して、身体強化とは身体の強化したい部分に、体内の魔力を集中させることにより、一時的なパワーの増加を促すものだ。

「しかも、それで詠唱いらないとかズル過ぎるさね」

「まあ、正確には一言だけ発してるけどね」

「それでも、私みたいに何節もブツブツ唱えるのと比べたら全然早いさね」

 身体強化の仕組みは魔術のそれとはかなり異なる。

 一般的にサーシャ達のいう魔術は、超簡易的な儀式を行っているようなものなので仕組みは難解に見えてしまいがちだが、術者自身の負担も非常に少なく、魔力消費も空気中に存在してる魔力に九割ぐらいは補助されているので、そこまで難しいものではない。

 比べて、身体強化の場合は、必要な魔力を全て体内で補わなければならないため、魔力消費量も通常の魔術と比べ物にならないほど多く、魔力保有量が少ない術者では、あっという間に魔力が枯渇してしまう。

 さらに、身体強化は非常に繊細な魔力操作を必要とするため、魔術を勉強したから使えるというわけでなく、文字どおり血の滲むような努力をしなければならない。

 その点で、リン・フェイフェイという少女は、魔力保有量が人よりも多く、魔力操作の技術も天性のものを持っており、まるでこの術を使うために生まれてきたような才能の塊といってもいいだろう。

「確かに身体強化って発動も早いし便利だけどさ、乙女が怪力ってのもどうなのかなって思うこともあるよ?」

「金属の装甲を簡単に破壊するとか、怪力ってレベルじゃないさね。もはやただのゴリラ女さね」

「何か言った・・・・?」

 リンの横の樹齢がそこそこありそうな大木が、枝でもあるかのような感覚で折るかのような気軽さで倒される。

「いや、きっと空耳さね・・・」

 ちなみに、一見して友達想いで温厚そうに見える彼女だが、クラス内では「怒らせたらヤバい奴ベスト3」に入るほど沸点が低いところがある。

「それで、宝石は何個集まったの?」

「えーっと・・・ひー、ふー、みー、・・・三十二個さね」

 宝石は思いの外、砕けずに残っていた。

 クラスでも一番コスい女ことサーシャが思考を凄まじい速度で回転させ、とある答えを弾き出し、それを小声でつぶやく。

「これを売れば小遣いの足しに・・・」

「サーシャちゃん?ダメだよ?ちゃんと先生に渡さなきゃ」

「何個かもらって売ってもバレないって!」

 そう、これは宝石だ。売ればそこそこの値段になるものだ。大人の魔術師は使い捨ての石ころぐらいの感覚だろうが、遊びたい盛りだがお財布事情は寂しい中学生にとっては金同然だった。

「ダーメーでーす!没収!!」

「あぁっ!」

 良からぬことを考えるサーシャの持っていた宝石を、リンがポーチごと没収する。

「とりあえず、先生のところ行くよ」

 それから、サーシャは終始文句を言っていたが、リンはそれに構うことなかった。

 集合場所になっている場所へ到着すると、彼女達ともう一人を除いて誰もいなかった。

 おそらく、他の生徒はまだ宝石を探しているのだろう。

「げっあんたたちもう戻ってきたの!?」

 予想よりも早く帰ってきた二人を見て、驚きの声を上げたのは魔術実技演習担当教員のローラ・メリダスト。

「しまったなぁ。A組相手なら二十個とかにしとくべきだったかぁ・・・」

 ぼやくローラに、にまーっと二人は少女は年相応に喜びながら宝石の入ったポーチをローラに手渡した。

「どれどれ・・・ひー、ふー、みー、・・・・・・・・三十二個!?」

 目を剥くローラにさらににまーっと嬉しそうに笑った二人みせた。

「先生の罠だって打ち破ってやったさね」

「罠?まあ、いいわ。あなたたち二人は合格よ。」

「「やったーー!」」

 少女たちのハイタッチが響いた。

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