第20話 地下施設1
天羽財閥の令嬢である凛に連れられ、天羽家所有と思しき高級車で移動する事30分。窓の景色を眺め、そろそろ目的地が見えて来る。だが民間人が乗り付ける訳にもいかないだろうと思っていると、予想通りに道を外れる。と同時に予想外でもあった。
何故なら辿り着いたのは駐車場ではなく、小さな雑居ビルの正面。天羽凛と護衛の男性、相場佳祐が降りるべく動き出すのを見て、オレは戸惑いを覚えた。オレが思っていた場所まで、歩くには距離がある。
微動だにしないオレに気付いたのだろう。視線を向けた彼女が声を掛ける。
「着きましたよ?」
「え?一体何処へ行くつもりなんだ?」
「このビルです。」
「は?防衛省じゃないのか?」
「んな訳ないだろ。いいから行くぞ。」
相場佳祐がやれやれと言った表情を向け、さっさとしろとばかりに告げる。いまいち納得は行かないのだが、他所様の車に居座る訳にもいかない。不承不承で車を降り、前を行く2人を追い掛けた。
年季の入った雑居ビルを見回しつつ、小さなエレベーターで待つ2人に警戒して足を止める。
「お乗り下さい。」
「信用もしてないのに、そんな狭い場所に入れと?」
「高校生がどんな生活をしたら、そこまでの考え方が出来るようになるんだよ・・・。お嬢、コイツと奥に並んでくれるか?」
「え?わかりました・・・?」
やはり相場という男は只者じゃないな。オレが警戒している事に気付いたらしい。これが何処かの部屋であれば、逃走の為に出入り口か窓際を確保する。だがエレベーターは違う。出入り口は待ち伏せの可能性があるし、同乗者に背を向ける訳にはいかない。かと言って扉に背を向けていては、止まった際に背後を取られる。
しかし、奥を陣取れば同乗者に逃走を許す恐れがある。そうなれば袋のネズミ。天井の救出口に関しては、メーカー毎に位置が異なるので考慮に入れない。大抵の場合は中央にあるし、そこを使うのはお互いにメリットが無い。オレなら相手が着地する前に対処出来るし、そこから逃げれば追い込まれるだけだろう。
ベストな選択は、背後を取られず彼女を人質に出来るポジション。つまり、奥で彼女と並ぶ事。そんな不利となる位置関係を、自ら進んで提案したのだ。少しは信用してもいいのかもしれない。そう思って彼女の横へと移動する。
彼女の動きを捕らえつつ、相場の手に注意していると、彼は予想外の行動に出る。エレベーターの『開』を押しながら、色んな階の数字を何度か押し始めたのだ。
暗証番号みたいなものか・・・?
突然の行動に驚き、最初の数字を幾つか見逃してしまったが、多分10桁の数字だったと思う。相場が手を離すと、扉が閉まりエレベーターが動き出す。体感で地下に向かっているような気がする。だが入る時に確認した限りでは、このビルに地下など存在しない。それにエレベーターの階数表示も消灯している。
「このビル・・・地下は無いはずだよな?」
「良く見てたじゃねぇか。このビル、周囲の建物が使ってる深さにフロアは無いぜ。」
「周囲の深さ?それって・・・」
「はい。遥か地下深くに、私達の目指す場所があります。」
2人の言う通りなら、多分地下鉄よりも深い場所って事になる。確か地下鉄は40メートル前後だったはずだ。当然同じ深さに作るとは思えない。さっきから中々到着しないのも加味して、最低でも地下100メートル。場合によってはそれ以上だろうな。いや、歴史から紐解けば、自ずと答えは導き出せる。
「・・・地下200メートルの世界、ってところか。」
「「っ!?」」
どうやら正解だったのだろう。2人が息を呑んだのが見て取れた。
「驚いたな・・・何故わかった?」
「確か2000年代に、地下200メートルの都市開発計画があったはず。だが人口の減少により撤回されたと記憶している。実現可能で偶然掘り当てられる心配の無い深度となると、それ位が妥当だと思っただけだ。」
「・・・・・(コイツ、やっぱ普通じゃねぇな)」
「あの・・・?」
オレの推論に警戒感を顕にした相場を観察していると、となりの天羽家令嬢がおずおずと問い掛けて来た。
「何?」
「それって・・・テストに出ますか?」
「は?・・・いや、授業では習わないはずだ。」
「そうですか・・・。」
「「・・・・・。」」
ホッとした様子の凛に、思わず言葉を失ってしまう。この状況下でそんな質問をするとは思わなかった為、面食らってしまったのだ。
どちらかと言えば、余計な詮索を避ける為にも地下施設については一切触れさせないようにするはず。それを主導するのが、資金を提供したと思われる天羽家だろう。無論、他にも資金源はあるはず。
そして当然、巨大財閥の圧力に逆らってまで授業で取り扱う内容でもない。この時点で、横に立つお嬢様の重要度はかなり下がった事になる。
護衛が居るから重要人物なのかと思っていたが、ただ大事にされているだけなのだろう。人質としての価値はあるのだろうが、それは天羽家に対してのみ。他の資金提供者に対しては、然程価値の無い人物と言える。
家族構成如何によっては、隣の令嬢を斬り捨てるかもしれない。そうなった場合、どう立ち回るのがベストか。エレベーターが到着するまでの間、オレは必死にプランを練り続けるのだった。
機械奴隷の魔法使い 橘 霞月 @timokee
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。機械奴隷の魔法使いの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。