第17話 説明2

アリスの説明に対し絶望を感じた秋人であったが、すぐに自身の考えが間違っている事に気付く。正しくは、間違っているだろうという事に。『だろう』と表現するに至った理由は、それが公式に発表されているような情報では無い為、確証を得られないからである。


「確認なんだが、世界各国の軍や政府は独立した管制システムを導入してるんじゃないのか?」

「秋人の言う通り。その質問の意図は?」


頭の中で考えてたから、アリスには伝わらなかったらしい。思考が読めると言っても全てを把握出来る訳ではない、という事だろうな。


「その気になれば全て把握出来る。でも私は優しい。秋人の恥ずかしい思考を読まない配慮が出来る。」

「言ってるそばから読んでるじゃねぇか!そもそも恥ずかしくねぇよ!!」


あぁ、頭いてぇ・・・。


「頭痛?薬ならリビングに「違うわ!」・・・やっぱり変。」


話が進まないので、これ以上相手にするのはやめよう。せめてもの救いは、アリスが積極的に思考を読もうとしていない事だろうか。それすらも希望的観測なのだから、読まれても構わない前提で話を進める必要がある。


「あぁ・・・さっきの質問の意図だけど、要はアダムとイヴからは独立してるんじゃないのかって事。」

「それは表向きの話。当初、ほぼ全ての国が国防に関しては自国で独自開発したシステムを導入していた。」

「当初?」

「そう。アダムとイヴは、それぞれの国毎に機密を保持する仕組みを提唱し、各国に検証させた。結果、何年もの時間を掛けて安全が立証され、徐々に切り替えた。今ではどっぷり浸かっている。」


つまり、地球上のほぼ全ての国の国防が、今では危険な人工知能の手中って事か。それって、どうしようもないのだろうか?


「アダムとイヴのリンクを切断する事は?」

「現状、それは不可能。完全に依存しきっている状態。世界中が混乱に陥る。」

「なら、アリスが代わりを務めるのは?」

「それも無理。そもそも私は、アダムとイヴの介入を防ぐ事に全力を傾けた。結果、全システムにアクセス出来る者が秋人しかいなくなった。」


視線を逸しながら、アリスが告げる。そもそも、何故視線を逸した?


「つまり?」

「・・・やり過ぎた。」


やっぱりかぁ!ちょっとは自重しろよ!!いくらちょっかい出されたくないからって、誰も近付けなくなるまでやる必要ないだろ!


「はぁ。ん?全システム?・・・一部ならアクセス出来るって事か?」

「そう。但し、安全を確認出来なければ許可しない。そういった点で、協力者達は安全。」


その協力者達にこれから会う訳か。まぁ、何となく背景は理解出来たから、オレが思い付く質問はこんな所だろう。


「そうか。なら、オレが知っておいた方が良さそうな事を出来る限り教えてくれるか?」

「それなら、今後秋人が注意すべき事について。現段階で、秋人の存在はごく一部の協力者しか知らない。でも、これから行動して行く中で確実に察知される。そうなった場合、アダムとイヴは手段を選ばない。」


どうした事でしょう。雲行きが怪しくなって参りました。非常に嫌な予感がします。


「具体的に?」

「まず考えられる事は、全世界で指名手配。」

「何で!?」

「私に対する全アクセス権を持つ、唯一無二の存在。目障りなハエは叩き落される?」

「喩えが微妙!もっと言葉を選んで!!」


思わずツッコんじまった!オレが言いたいのはソコじゃない!!


「具体的には軍や警察、魔法使いが動員されるはず。」

「無視なの!?」

「おそらく世界を脅かす危険なエンジニア、とでも呼ばれる。これまでの実績が仇となる。」

「っ!?」


その可能性を失念していた。オレは軍や政府のシステムや装備なんかも開発している。素性を隠した上で、表向きは研究者である父親の功績になっている。その表向きも、かなり上層部以外は知らないという徹底ぶり。だがたとえ少数であろうと、知っている人間が存在する。そうである以上、オレの存在はアダムとイヴに筒抜けだろう。今こうしてコントしていられるのは、アリスとの関係を知られていないからだ。いや、コントじゃないからね?


オレの陰にいるアリスの存在を匂わせただけで、一瞬にして人類の敵と見なされるだろう。これは思った以上にヤバイ展開だ。不名誉な事に、オレの俗称は世界一有名なテロリスト。形振り構わぬ実力行使が予想される。最悪の場合、ミサイルでドカンである。


「だからこその協力者。その者達を隠れ蓑にして、秋人には行動して貰う。」

「その人達の安全はどうするんだ?」

「どの道、失敗すれば人類は滅亡。大事の前の小事。多少の犠牲はつきもの。」

「お前・・・いや、何でもない。」


こういう所が人口知能なんだと実感させられる。ここで感情をぶつけても平行線を辿る。お互いに理解出来ないのだから、無駄な感情論は控えよう。最悪の場合、オレが対処すればいいのだから。


「意外と冷静。少し見直した。でも秋人が協力者を救う事は許可しない。」

「・・・何故だ?」

「秋人の存在が発覚すれば、協力者全員が危険になる。秋人を救う為、協力者達は迷わず盾になる。それを黙って見過ごすつもりはない。」


人口知能ではあるのだが、所々で人間っぽい一面を覗かせる。そのせいなのか、相手は機械なんだと割り切れないから性質が悪い。とにかく現状は大人しくしていよう。



「次にキメラ、所謂モンスターに関する知識。」

「キメラの知識って言っても、結局は熊や虎の掛け合わせだろ?銃火器の類を持つ人に任せれば済むんじゃないのか?」

「そこまで単純な話でもない。残念な事に、人類は秘密裏に絶滅した生物を誕生させてしまった。」

「絶滅した?マンモスとかニホンオオカミか?それ位なら・・・え?」

「そう、恐竜。」

「はぁ!?」


まさかの恐竜・・・とは言っても、軍隊なら対処可能なはず。向かいの家で飼ってたティラノサウルスが逃げ出した、とか言われない限りは心配ないだろう。そんなのを飼える家も無いんだけど。


「さらに問題なのは、恐竜を使ったキメラが誕生した。」

「は?」

「オマケに突然変異したらしい。」

「え?」


そんなオマケいらねぇよ。商店街の福引で「特賞のアフリカゾウの親子が当たりました」って言われる位いらねぇ。


「他にも突然変異が盛り沢山。生命の神秘?」

「神秘じゃなくて冒涜だわ!って、そもそも何処に研究所があるんだ?デカ過ぎて飼えないだろ。」

「人類はアダムとイヴに唆されて、数十年間地下を開発した。土地ならある。」

「何処の国だ?」

「・・・ほぼ。」


ほぼ?ほぼって言った?それって、ごく一部を除くって意味だよな?


「まさか日本も!?」

「北海道と九州の地下にあるらしい。仲間外れにされなくて良かった。」

「みんなと一緒で良かったね〜、ってアホかぁ!!」

「いちいち騒ぎ過ぎ。とにかく、見た事も無い生物が解き放たれる。警戒が必要。」


警戒ってどうすりゃいいのさ?まぁ、今考えても仕方ないんだろうな。とりあえず、何らかの装備品は用意しておくか。いきなり渡されても使えないだろうし、事前に練習する必要だってある。しかし姉さん達に何て説明すればいいんだよ。これじゃホントにテロリストだっつーの!


「最後に魔法使い。」

「話が飛んだな。」

「これについては情報が少ない。」

「はいはい、また無視ね。で、少ないのは何でだ?」



これについては説明が少し長くなる。魔法使いは、そのほとんどが軍に所属している。と言うのも、存在が発覚するのは自分の力に気付いた者が、試しに行使してしまうせいだ。コントロールせずに放たれる力により、かなり大きな被害が出る。その際、鎮圧や後始末に軍が出動するのだが、徹底的に痕跡を消し去るのだ。


後悔や自責の念に囚われた対象が、尻拭いやその後の教育を受ける事で軍に恩を感じる。そのままの流れで軍に所属するというのが一般的である。その為、魔法使いは軍所属となり、その存在は徹底的に秘匿される事となる。


本人は危険視されるのを嫌い、軍は切り札を隠したい。故に当然と言えるのであった。さらにはアダムとイヴの手の中。その防諜対策は折り紙付きである。それなりの人数に及ぶとあって、流石のアリスも危険を犯してまでは探れないのだ。




「なるほどな。ちなみに情報は皆無か?」

「最初に被害の大きかった何人かについては判明している。完全には隠蔽出来なかった。その後、特殊任務で出動した際の情報もある。」


人の口に戸は建てられないからな。当然と言えば当然か。


「わかる範囲で教えてくれ。」

「まずアメリカにいる炎の使い手。はた迷惑な火炎放射器。次にロシアの氷使い。人間の頭部大の氷塊を飛ばす。かき氷食べ放題。あとはイギリスの電気人間。歩く静電気?それから「ちょっと待った!」・・・何?」

「喩えが不適切!」


誰が教育したのか知らないが、もうちょっと気遣って欲しいのはオレだけか?火炎放射器は何となくわかるけど、かき氷食べ放題って何だよ!それから歩く静電気!!迫力無くなっちゃったからね!?あと、電気ウナギみたいな言い方しないであげて!!


「私が考えた訳じゃない。」

「ほぉ?・・・嫌な予感しかしないが言ってみな?誰だよ、奇人変人みたいな呼び方してんの。」

「雪音。秋人の産みの親。」

「あーあー、聞ーこーえーなーいー!」


両耳を塞ぎ無駄な抵抗を試みるも、結局耳に届いてしまった。正確には脳が認識してしまった。実体の無いアリスの声は、空気の振動ではない。直接頭の中に聞こえて来るのだから、本当に無駄な抵抗である。そして予想通り、アリスから告げられたのは聞きたくなかった人物の名前。


「巫山戯すぎだろ、オレの母親!」

「秋人そっくり。優秀な親に似て良かった。」

「嬉しくねぇよ!!」



この日1番の叫び声に、姉さん達が部屋に押しかけたのは言うまでもない。1人で叫んでいたお陰で、生暖かい視線を浴びせられたのは忘れたい記憶である。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る