第16話 説明1
翌朝、オレはみんなと朝食を摂りながら今日の予定を確認する。と言うか、確認されている。
「ねぇ、あっくん?今日はこれからどうするの?」
「え?・・・ちょっと用事が出来たから、出掛けるかな。」
「用事、ですか?」
姉さんに答えると、何か引っ掛かった様子の白井さんが真剣な表情で訪ねてくる。どう答えたものかと思案しながら視線を外すと、そこには静かに佇むアリスの姿。どうやら、本当にみんなには見えていないらしい。
「えぇ。特許関係で急な打ち合わせが入りまして・・・。」
「そうですか。・・・。」
何だろう?白井さんの沈黙が怖い。このまま沈黙が続けば、ボロを出す可能性がある。そこでオレは、
少しだけ話題を変える事にした。
「姉さんと夏帆はVoEを楽しんで来てよ?」
「そうだねぇ。折角だし、今日はあっくん抜きで頑張ってみようかな。」
「秋人の分も、私がハンバーガーを食べる。」
夏帆さん、オレの分まで食べる必要は無いんですよ?そんな事を言えるはずもなく、オレは姉さんと夏帆にお小遣いを渡す。普通は逆だと思うかもしれないが、長年染み付いた習慣というものは恐ろしい。既にこれが普通なのだから。
不審に思われている事を悟りつつ、オレは何食わぬ顔で朝食を終えて自室へと戻る。オレも詳しい話を聞いていないのだから、しっかりと確認する必要がある。
「アリス、何時に何処へ行けばいいんだ?」
「10時に最寄りの駅に行って。そこで接触して来る予定。」
「誰が?」
「担当者。」
はぁ。せめて名前とか外見とか教えてくれる事を期待したオレが馬鹿だった。人間と同じ容姿をしてるせいで、常識人と接している錯覚に陥るのが問題なのだろう。
今の時刻は午前8時。駅までならば大して時間は掛からない。それまでの間、色々と情報収集すべきだろう。
「あと2時間近くあるから、その間に色々と教えて欲しいんだけど?」
「わかった。何が聞きたい?」
「全部・・・と言いたい所だけど、とりあえず・・・そうだな。まずはアリスとリンクして出来る事。アダムとイヴの破壊方法。あとは、アダムとイヴがどうやって人間を殺そうとしているのか。」
他にも聞きたい事はあるのだが、1度に言われた所で整理し切れないだろう。まずは3つに絞って聞き出そうと思い、質問してみた。するとアリスは感情に乏しい表情で説明を行う。
「1つ目の答えは、簡単に言えば眠っている脳の力を呼び覚ます事が出来る。2つ目は、その力を使うか、兵器の類を用いて。3つ目は「待った!」何?」
あまりにも簡単過ぎる説明に、思わず話の腰を折った。どう考えても説明が不十分である。
「脳の力って何?」
「有り体に言えば、人間が魔法と呼んでいる力。」
「魔法!?」
話が予想外の方向に飛んでしまった。魔法使いと呼ばれる者達はいるが、まさかオレも仲間入りするの!?
「私が手助けするから、情報処理能力も向上する。身体能力も。」
「いや、その前に魔法ってどんな!?」
「それは私にもわからない。魔法と呼ばれている力は、個人の資質に由来する。発現するまで不明。」
不明って・・・いや、待て。魔法の力でアダムとイヴを破壊するって言ったよな?警備が厳重な場所に行って、無事に帰って来られる程の力があるって事になる。破壊対象が2ヶ所もあるんだから。しかし、一般人は魔法についてほとんど知らない。これは政府が秘匿している為である。
どのような能力があるのかが知れ渡ると、保有者の安全に関わるという最もらしい理由で。表向きの理由にも納得出来るのだが、やはり軍事利用されている事が大きいというのが世間での噂だ。いきなり関係者の仲間入りを果たすのであれば、情報は多い方が良いだろう。
「ちなみに魔法ってどんな事が出来るんだ?」
「色々。有名なのは炎を操る者や水を操る者。自然現象を操る物や、全く未知の物まで。挙げたらキリが無い。ちなみに現在の最強は、電気を操る者。ナノマシンに影響を与えられる力は脅威。」
まぁ、電気信号の塊みたいなもんだしな。力の規模にもよるけど、関わり合いになりたくないものだ。それにしても魔法か・・・ゲーマーには堪らない響きだ。
「ん?さらっと言ったけど、情報処理能力の向上?」
「それは秋人だけ。」
「何で?アダムとイヴにも可能なんじゃないの?」
「現在普及しているナノマシンには、そこまでの能力は無い。秋人の体内にあるナノマシンは別物。雪音の特別製。そして、そのナノマシンに適合する者はいない。だから秋人だけ。」
オレだけ?ふっふっふ。オレは神に選ばれし・・・言ってて恥ずかしくなって来たからやめておこう。
「・・・秋人は残念な子。」
「ぐふっ。」
しまった!思考がバレバレなのを忘れてた!!出来れば黙ってスルーして欲しかった・・・。こんな時は話題を変えるに限る。
「魔法はどうやったら使えるようになるんだ?」
「話題の切り替え方が不自然。でも私は優秀な人工知能。流されてあげる。」
「いちいち言わんでよろしい!」
どうにも調子が狂う。自分で優秀とか言っちゃってる時点で痛い子なんじゃないだろうか。
「痛い子は秋人。私は違う。」
「かはっ!!」
は、八方塞がりじゃねぇか・・・。ごめんなさい、許して下さい。
「一般的に力の発現に関しては不明。私としては、脳に刺激を与える方法を提案する。」
「ここでスルー!?しかも刺激って何さ!そもそも、それが魔法を使えるようになる方法なの?」
「さぁ?普通は自然に発現するもの。可能性の1つとして提案したに過ぎない。」
さらっと人を実験台にしないで貰えませんか!?もうやだ・・・誰だよ、こんな人口知能を開発したのは。
「良くわかってないんだな?もう魔法はいいや。それより3つ目は?」
「・・・それは推測の話になる。」
その目は何だよ!?悪かったよ、話題の転換が不自然で!これ以上は精神的に耐えられるかわからないんだから仕方ないだろ!!
「アダムとイヴは様々な分野の研究者に対して接触し、人類の道徳に反する研究を完成させた。最も危険な物が、人口生命体の生成。」
「人口生命体?クローンとか?」
「少し違う。遺伝子操作をした複数の動物や植物を合成させる事。所謂キメラ。」
「はぁ。確かに危険ではあるか。」
熊とかライオンなんかが暴れまわるだけでも危険だしな。猛獣のいいとこ取りでもされたらヤバイか。
「秋人が考えている事も間違ってはいない。でも、事実はもっと危険。」
「どういう事?」
「異常に繁殖力の高い、ゲームに登場するような生命体が産み出された。それを解き放つ。」
「確かに脅威だけど、軍隊が対処すればいいだろ?」
ゲームとは違って、剣や弓で戦う必要は無い。銃やミサイルで攻撃すればいいのだから。
「通常であればそれで済む。でも、アダムとイヴはそれと併用する方法を思いついた。」
「併用?」
「全人類のナノマシンをハッキングし、ゲーム内の生命体、所謂モンスターを強制的に視覚情報へと反映させる。」
ほぉ。そんな事まで出来るのか。でも、ゲームで人は死なないと思うぞ?
「ゲームの情報に慣れた所で、実際にモンスターを解き放つ。」
「え?それって・・・」
アリスの説明に、オレは恐ろしい想像をしてしまった。ゲームの映像だと思って油断している人々は、まさか本物だとは思わない。そして対処が遅れる。虚実織り交ぜる事で、確実に混乱する事だろう。モンスターだと思って攻撃しても、それがゲームの映像ならば倒せないのだ。無駄撃ちした所で本物が攻撃してくるなど、悪夢以外の何物でもない。
「秋人の想像通り。そして私が掴んだ情報はここまで。恐らく、他にも何か仕掛けるはず。より確実性を上げる為に。」
「パンデミックだけでも脅威だってのに、他にもあるのかよ・・・。」
アリスの説明に、オレは頭の中が真っ暗になった。そもそも、現在の軍隊や兵器のほとんどがナノマシン、つまりはアダムとイヴにリンクする事で効果を上げている。自動的に照準を合わせたり、兵器の効果範囲を瞬時に割り出す。これによって、恐ろしいまでに強力無比な作戦行動を執る事が出来るのだ。
もしも、それさえも手玉に取られる事となれば・・・軍隊など正常に機能しないだろう。到底勝ち目の無い相手を敵に回した、回った事になる。
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