第13話 同居人追加2

勉強の合間に確認したのだが、無茶なお願いをした為か、所謂ブティックの店員さん総出で洋服を選んでいた。入店から20分が過ぎた頃、着替えた白井さんを連れて店員さんがやって来る。流石は姉さん御用達の店である。


「八神様?商品のご用意が出来ましたが、全てお持ち帰りになられますか?」

「結構な量ですよね?・・・明日着られる分だけ持ち帰るので、残りは送って貰えますか?」

「かしこまりました。それでは白井様、申し訳ありませんがお選び頂けますか?」

「わかりました。」


またしても白井さんが連れて行かれたが、今度はオレもついて行く。ラッピングはすぐに済むはずなので、会計を済ませなければならない。


白井さんが数着選び、店員さんが梱包してくれる。その間に別の店員さんが会計に立つ。どうやら上下に下着や靴下、寝間着等も買ったようで、かなりの点数である。


「合計60点で、193万8900円になります。」

「あ、秋人様「すみません。時間が無いので、少し急ぎましょうか。」・・・はい。」


白井さんが何か言いたげだったのだが、この後の事を考えて遮る。家具を選んで貰う時間が無くなるのだ。それでは白井さんが可哀想である。ゲームする時間を削れって?それは無理だ。オレからゲームを奪おうとする者には容赦しない。


会計を済ませて店を後にし、白井さんにショルダーバッグを手渡す。


「手が塞がるといけませんから、買った物をこれに入れて下さい。女性に背負わせるのは申し訳ありませんが、次の店はすぐですから。では行きましょうか。」

「問題ありません。では、失礼します。(こんな高価な物を頂けるなんて・・・。お嬢様には申し訳無いですが、第三夫人・・・いえ、愛人の座を狙わせて頂きましょうか。)」


白井さんの様子が少しおかしかったが、問題無さそうなので早速出発する。しがみつく腕の力強さが増したように感じるのは、きっとオレの気のせいだろう。


そこから移動する事約5分。これまた姉さん行きつけの家具屋に到着する。これだけのスピードは、フライングバイクならではだろう。車では渋滞に巻き込まれる可能性があるので、こうはいかない。


バイクを停め、白井さんの荷物を受け取って店内に足を運ぶ。こちらの店はかなりの広さがある為、店員さんが駆け付けるような事は無い。とは言え、時間も無いので足早に目的の場所に向かう。


「まずはベッドを選んで下さい。」

「あの・・・ここから選ぶのでしょうか?」


白井さんが困惑気味に聞いて来た。かなりの種類が置かれているのだが、万人が満足するとは限らないと言う事か。


「気に入った物は見つからないかもしれませんが、この店で我慢して頂けますか?」

「いえ、そうではなくて、値段が・・・」


おっといけない。女性にお金の心配をさせてしまった。説明は大事だったな。


「今日はオレが支払いますから、どれでも好きな物を選んで下さい。」

「・・・わかりました。(ここはヨーロッパの高級家具屋じゃありませんか!?秋人様に押し倒されてもいいように、しっかりしたベッドを選べという事ですね!?)」


白井さんは安心したのか、ここからは速かった。ベッド、テーブル、椅子、ソファ、化粧台・・・必要な物を次々と即決して行く。わずか20分で必要な物を選び出し、店員さんに連れられて会計へと向かう。店員さんに金額を告げられた時、白井さんの口が開いていたのは何故だろう?


気にはなったが、思い出したら聞いてみる事にして支払い手続きをする。



(け、桁が・・・。私の年収・・・。私などの為にこれ程の家具を・・・決めました!一生秋人様について参ります!!)


意図せずメイドを引き抜いた事にも気付かず、オレ達は家具店を後にする。この店は近場ならば当日中に配送してくれるので、当然姉さんのお気に入りである。


結局1時間ちょっとで帰宅という弾丸スケジュールにも関わらず、白井さんも満足そうにニコニコしていたので一安心である。




八神家に到着すると、小春様に声を掛けられました。私とした事が、どうやら感情が表に出ていたようです。


「白井さん、何だか嬉しそうだねぇ?」

「はい!小春様のお陰で、素晴らしい品々を購入して頂く事が出来ました。ありがとうございます。」

「何を買って貰ったんです?」


私が秋人様に買って頂いた物を、御厨様が訪ねられました。そうですね・・・ここは1つ、自慢させて頂くとしましょう。覚えている限りの品をお伝えすると、美冬様のお顔が引き攣っています。


「そ、それ、私の年収より・・・」

「おそらくは。私も感無量で、言葉に表す事が出来ません。」


どうですか?参りましたか?何の不満もありませんし、少しだけ優越感に浸らせて頂きましょう。


「でも、小物とか化粧品がまだだよね?」

「え?流石にそこまでは・・・もしや、小春様は秋人様に買って頂いているのですか?」

「うん!あっくんはお金持ちなのに、全然使わないからねぇ。私が使ってあげてるの!」


小春様、それは『使ってあげてる』のではなく、『使わせている』の間違いではないでしょうか?ご主人様のお姉様に、そのような事は申し上げられませんけど。


「小春ちゃん、秋人君にいくら使わせてるの?」

「ん?う〜ん・・・毎月50万とか?それでも増える一方なんだって。そうだ!明日にでも、みんなでバッグとか買いに連れて行って貰おっか!!早速あっくんにお願いして来るね〜。」


小春様は何処かのセレブのような事をおっしゃった後、素晴らしい提案をなさって秋人様の下へ向かわれてしまいました。想像に胸を膨らませていると、御厨様が質問なさいます。


「か、金食い虫なんじゃ・・・。ゴホン。ところで白井さんは、小春ちゃんの部屋を見ましたか?」

「いえ、拝見しておりませんけど?」


失礼な発言を誤魔化す為、咳払いなさったようですが、私は何も見ておりません。そしてご主人様のお宅にはほとんど滞在しておりませんので、まだ間取りの確認すらしておりませんでした。ですが、隣人などに負ける訳には参りません!・・・話が逸れましたね。御厨様は何をおっしゃりたいのでしょう?


「小春ちゃんのクローゼットには、使われなくなった大量のブランド品が無造作に詰め込まれてるんですよ・・・。」

「・・・・・。」

「お願いしたら貰えそうですけど、秋人君に買って貰う方が嬉しいですよね・・・。私、調べ物があるので失礼します・・・。」


衝撃的な発言に、思わず言葉を失ってしまいました。御厨様?ご主人様に買って頂く品の下調べに向かわれましたね?なかなかにしたたかな方のようです。


どうやら時間を掛けて身の振り方を考える必要がありそうですね。夏帆お嬢様が皇家を自由に出来るまで、私がお仕え出来るとは限りません。となると、秋人様か小春様にお仕えするのがベスト。


小春様にお仕えするのが、最も恩恵に預かれるとは思います。ですが、どなたとご結婚なさるのかは不明。やはり秋人様にお仕えするのが最上でしょうか。積極的にお世話させて頂いて、あわよくば夜の方も・・・。愛人となれれば一生安泰ですね。そうと決まれば、まずは完璧に仕事をこなしましょう!



皇家メイド長、白井美奈子。完璧に見える彼女だが、唯一の弱点は高額商品に弱い所であった。世界有数の資産家に仕えてはいるが、その主が施しをするとは限らない。そういった点で、他人に気前良く金を使う秋人の評価は、いとも容易く限界を突破したのである。いつの時代も、人の欲望には限りが無い。良くも悪くも・・・。





白井さんとの買い物を終え、現在の時刻は15時。部屋に荷物を置き、少しだけ片付けをしてからリビングに向かう。夏帆の引っ越しも落ち着いたらしく、皆が集まっていた。


「ちょっと遅くなったけど、そろそろ出掛けようか?」

「待ってました!」


オレがみんなに声を掛けると、彰が立ち上がる。彰も生粋のゲーマーなので、張り切る気持ちは理解出来る。そんなオレ達に、白井さんが訪ねて来た。


「晩ご飯は如何致しますか?」

「今3時だから・・・6時頃には帰れるかな?その頃には家具の設置も済んでると思うし。」

「秋人、ハンバーガーは大事。」


夏帆さん、貴女の場合は『ハンバーガーが大事』の間違いですよね?しかしどうするかな。買い食いなんてしたら、あまり早い時間では晩ご飯も食えないだろう。


「そうだな・・・8時過ぎでも良いですか?」

「私は何時でも構いま「ちょっと待って!」・・・どうかなさいましたか?」


少し遅めの時刻を伝えると、白井さんが了承しようとしたのだが、姉さんが割って入る。全員が注目する中、姉さんが誇らしげに提案して来た。


「みんなもまだまだだよねぇ。美冬ちゃんと〜、夏帆ちゃん・白井さんの引っ越し祝いがあるでしょ?」

「「「「「「確かに!」」」」」」


そうだった。引っ越した経験が無いのでうっかりしていたが、引っ越しの際は蕎麦を食べる風習があるはず。ならば今晩は外食だな。近くに蕎麦屋があるのかは不明だが、これだけの人数がいれば誰かが知っているだろう。


「ならみんなで引っ越し蕎麦でも「引っ越し肉にしよう!!」・・・姉さん、今何て言った?」


聞き間違いだろうか?多分そうだろう。引っ越し肉なんて言葉は、オレの周囲には存在しない。


「だ〜か〜ら〜、今晩は焼き肉にしようって言ってるの!久しぶりだし!!」

「まぁ、学生2人で焼き肉も微妙だからね。じゃなくて、どうして引っ越しで焼き肉なのかって事!」

「え?・・・食べたいから?」


流石は姉さん、欲望に忠実である。何よりブレない。非常時であろうとも、普段通りに対処出来る所は素直に感心する。裏を返せば、他人が何を言おうと無駄なのだ。言い合う時間が勿体ない。


「はぁ・・・。わかったよ。なら一旦帰宅しますから、それまではゆっくりしていて下さい。帰る前に連絡します。」

「かしこまりました。いってらっしゃいませ。」

「気を付けてね?」


美冬姉と白井さんに見送られ、学生組は我が家を後にした。オレ達の目的地は、VoEの常設イベントが開催されている近所の公園である。広い公園の一角に、VoE専用スペースが設けられているらしい。

いよいよ心待ちにしていたゲームを楽しむ事が出来ると思うと、自然と足が早くなる。

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