第12話 同居人追加1

結局勉強会を中断し、それぞれが好き勝手に話し合う事となった。それから豪華な昼食をご馳走になってお開きである。帰りも朝倉さんに送って貰い、まずはオレの家に集まった。


夏帆の引っ越しは朝倉さん主導で行われる為、オレ達の出る幕は無い。やる事と言えば、家のセキュリティに夏帆を登録する程度だ。まずは夏帆を連れて、リビングで登録を行う。それから夏帆に割り当てた部屋を登録する。


「すみません、私の部屋はどちらでしょうか?」

「え?・・・白井さんも住むんですか!?」


まさかのメイド長押し掛け宣言である。しかも、さも当たり前のように言われたよ。


「お嬢様のお世話を仰せつかっておりますので、出来ればご用意頂けると助かります。」

「白井さんも独身でしたよね?今更ですが、未婚の男女が1つ屋根の下というのはどうなんでしょう?」

「ふふふ。私は秋人様であれば問題ありませんよ?むしろ大歓迎です。」


素敵な笑顔で言われ、思わずドキッとしてしまった。これが大人の魅力か!冗談なのか本気なのかわからない所も、一層魅力的である。メイドに手を出してしまう主人の気持ちも、白井さんを見ていると理解出来る。それ程の美人なのだ。勿論、間違っても手を出したりはしない。


「・・・駄々をこねても仕方ないんでしょうね。わかりました、では白井さんも登録しましょう。それと、朝倉さんも一緒に来て頂けますか?」

「私ですか?」

「夏帆を迎えに来ますよね?その間、外で待ってるのもどうかと思いますし。この際一緒に登録してしまいましょう。」

「ですが・・・わかりました。」


朝倉さんが拒絶しようとしたのがわかったので、オレは視線を姉さんに向けた。それを理解してくれたようで、朝倉さんも了承してくれた。困った時の姉頼みである。姉さんを使って脅迫しているようにも見えるが、手間を省く為だと思って諦めて貰おう。口にはしていないのだから、問題は無い。


リビングにて、白井さんと朝倉さんの登録も済ませる。そのまま朝倉さんは夏帆の手伝いに向かい、オレは白井さんと共に、割り当てる部屋へと向かう。しかしそこは元々、オレの生みの親が使っていた書斎である。一般の女性が使うには沢山の資料が邪魔だった。


「凄い量の本ですね・・・。」

「幸い男手もありますし、全部オレの部屋に運んでしまいましょうか。」

「え?秋人様のお部屋ですか?その・・・入り切るでしょうか?」


オレの部屋を見た事の無い白井さんには、入り切らないと思われたようだ。舐めてもらっては困る。1部屋分の荷物を運び込むだけのスペースは確保しているのだ。


「問題ありませんよ。これでも整理整頓していますから。」

「あっくんの部屋は、整理整頓とは言わないと思うよ?」


自慢げに告げたのだが、後ろから物言いがつく。姉さんは何が不満なんだ?


「小春様、一体どういう意味です?」

「う〜ん、行けばわかるかなぁ・・・。」


姉さんが説明に困り、白井さんはさらに首を傾げる事となった。仕方ないので、オレの部屋のドアを開ける。すると室内を見回した白井さんが絶句してしまった。


「・・・・・。」

「ね?整理整頓とは言わないでしょ?ベッドと机しか無いんだもん。散らかりようが無いんだよ。」


姉さんの言い方は気になるが、他に置く物が無いのだから仕方がない。読書は電子書籍なので場所を取る事も無いし、テレビはリビングで事足りる。視界に映し出してもいいだろう。とにかく勉強する為の机、睡眠とゲームの為のベッドがあれば充分だ。


「だって、他に置く物なんて無いでしょ?」

「それはあっくんだけだよ!!」


そうなのか?まぁ、人それぞれって事だな。時間も有限だし、反論はやめてさっさと運び出してしまおう。



彰と朝倉さんだけでなく沢山の人の手を借り、膨大な紙の本や家具を30分程で全て運び出した。オレの部屋を空けた方が速かったという意見もあるのだが、男の部屋よりはいいと思っての判断だ。まぁ、オレの部屋には秘密の仕掛けがあるので、下手に起動されると困るというのが本音である。


「夏帆ちゃんの部屋は問題無いとして、白井さんの家具を用意しないとだね。」

「姉さんの言う通りか。折角だし、白井さんに選んで貰おうか?」


夏帆の分は美冬姉と同様に、客室のベッドを充てがった。それ以上のベッドは我が家に無いので、購入する必要がある。ちなみにオレが選ぶとシンプルな物になるので、姉さんに尽く却下される。


「使用人の家財道具はこちらで用意致しますが?」

「あぁ、我が家に置く物ですから大丈夫ですよ。」


話を聞いていた朝倉さんが申し出るが、白井さんがいなくなっても我が家に置いておく事になるだろうから断っておく。というか、皇家に任せておいたら、どんな物が運ばれて来るか不安になる。


「そうですか・・・。それでは秋人様のお宅ですから、秋人様に従わせて頂きます。」


恐らく会長から指示があったのだろう。朝倉さんがすんなり引いてくれたので助かった。細かい部分はメイドさん達が済ませてくれたので、あとは・・・最も大切な問題を解決しておこうか。


「ありがとうございます。それと白井さん?この家ではメイド服禁止でお願いします。」

「な、何故ですか!?」

「何故って、貴女。庶民の家にメイド服の女性が出入りしたら、変な噂がたつでしょうよ。」


オレの言葉に、白井さんが絶望したような表情で答えたので理由を説明してあげた。すると、全く予想もしていなかった返答が・・・。


「・・・ございません。」

「「え?」」


白井さんの言葉の意味が理解出来ず、オレと姉さんが声を揃えた。


「ですから無いのです。」

「・・・何が無いの?」


何が無いのかわからずにいると、姉さんがストレートに聞いてくれた。


「メイド服以外、持っていないのです!」

「「・・・はぁ!?」」


白井さんの告白に、またしてもオレと姉さんが声を揃える。万人が同じような反応をするはずだ。私服はどうした!?まさかの休み無し?だとしたら皇財閥とは、とんでもないブラック企業である。オレが変な想像をしていると、またしても姉さんがストレートに聞いてくれる。持つべき物は、遠慮の無い姉である。


「お休みの日とかは?」

「・・・住んでいるのは皇家ですので、下手な格好をする訳にもいかないのです。住み込みのメイドは全員このままですけど・・・。」

「「・・・・・」」


姉さんの問い掛けに、プライベートもメイド宣言である。流石のオレ達も、これには絶句してしまった。あの姉さんを絶句させたのだ、白井さんグッジョブです!いや、アホな事を考えている場合ではない。頭を抱えると、白井さんが申し訳なさそうに伺って来る。


「あの・・・やはりダメでしょうか?」

「申し訳ありませんが、その服装は許可出来ません。とは言ったものの、どうするかなぁ・・・。仕方ないかぁ。よし!白井さん、一緒に出掛けましょう!!」

「え?あの・・・どちらへ?」


困惑気味に、何処へ連れ出すつもりなのか尋ねられた。別に変な場所へ連れ込もうというのではない。


「家具を買うついでに、白井さんの服を買います。」

「え?すみません、生憎持ち合わせが・・・。」

「こちらの都合でお願いしている事ですから、オレが支払います。姉さんは、白井さんに服を貸して貰える?」

「う〜ん、私や美冬ちゃんの服だと少し小さいかも・・・。」


そう言えば、白井さんは長身である。170センチ程だろうか?姉さん達の服を着るのは無理そうだ。メイドさんを連れて外出するのは、非常に人目を引くだろう。しかし背に腹は変えられない。


「仕方ありませんので、そのままの服装で行きましょう。」

「は、はい!よろしくお願いします!!」


白井さんを引き連れ、ガレージへと移動する。今回の乗り物は2人乗りの『フライングバイク』である。



ちなみに人口の減少と自家用車離れが相まって、運転免許の取得は15歳から可能となっている。人工知能が制御してくれるので、危険は無いとの建前もあるらしいが。


ただし、このフライングバイクは少し違う。操縦者の意思で、マニュアル操作が可能となっているのだ。緊急時には人工知能が制御する仕組みなので、ヤンチャな若者にとっては憧れの的である。普通は高くて買えないのだが・・・。



あまり時間も無い事なので、少し飛ばして5分程で目的の店に到着する。白井さんが後ろから抱き付いていたので、背中に幸せな感触を味わったのはオレだけの秘密である。


「ここ・・・ですか?」

「はい。姉さんが常連なんですよ。というか、女性服のお店はここしか知らないんですよね。」


白井さんが訪ねて来るが、この店以外は知らない。残念ながら、女装の趣味も無ければ彼女もいない。姉さんに連れられて何度も訪れているこの店以外、さっぱりわからないのだ。そして、何かあった時にフォローして貰えるというのも強みである。そのまま店内に進もうとして、白井さんが固まっている事に気付く。


「・・・・・。」

「どうかしました?」

「その・・・・・お高いのではありませんか?」

「え?う〜ん、姉さんには『魅力的な女性はこういうお店を利用するもの』と教わっていますから・・・普通ではないですか?」

「そ、そうですか。(小春様、素晴らしい教育です!帰ったらお礼を言わなければ!!それに魅力的と・・・。)」


高いと言われれば高いような気もするが、あまり疑問に思う事も無かった。支払いは当然オレなのだが。白井さんが俯いてしまったが、どうしていいのかわからないので店内に逃げ込む。


「いらっしゃいませ、八神様。本日は・・・本日はどのようなご用件でしょうか?」

「こちらの女性に服を選んで頂きたいのですが?あぁ、ちなみにこの方は白井さんと言って、皇財閥のメイド長さんなんですよ。」

「っ!?かしこまりました。それでは何着程ご用意致しましょう?」


生暖かい目で見られたので、白井さんの紹介をしてみた。店員さんは白井さんの肩書に驚いたようで、真剣な表情に変わる。レイヤーさんを連れて来た訳ではないからね?


「え〜と、じゃあ10着で。足りなければまた来ますけど、おススメがあれば追加して頂いても構いません。それと、あまり時間が無いので30分以内には店を出たいのですが?」

「かしこまりました、お任せ下さい。それでは白井様、あちらで何点か試着して頂けますか?」

「は、はい。」



白井さんが店員さんに連れられて行くのを見送り、オレは休憩スペースで勉強を再開する。既に計画は狂いまくりである。空いた時間は全て宿題に充てなければならない。彼氏であれば洋服選びに付き合うのだろうが、オレは彼氏ではないので大丈夫だろう。センスも無いと言われた事だし・・・。

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