第11話 全員集合
色々と紛糾しそうになった作戦会議ではあるが、皇財閥の会長に一任するという事で落ち着いた。他所様の子の人生を決めるというのは、常識では考えられない。しかし、権力者達の間では良くある話であった。
「では、各々意見はあるじゃろうが、ワシに任せて貰うという事で良いかな?」
「「「「はい。」」」」
全員が了承したのを確認し、会長はメイド長に指示を出す。
「白井君。すまんが、夏帆達全員を呼んで来て・・・いや、たまにはこちらから出向くとしよう。子供に気を使わせてもなんじゃしな。」
今までの真剣な表情とは打って変わって、ニコニコと穏やかな笑みを浮かべている。この姿だけを見れば、この人物が巨大財閥の会長などとは誰も思うまい。
メイド長が先導し、会長達がゾロゾロと廊下を歩いて行く。やがて夏帆の部屋の前に辿り着くと、メイド長が室内に向けて声を掛けた。
➖➖コンコン
「お嬢様、会長がお見えです。」
「お祖父様が!?どうぞ!」
➖➖ガチャ
「すまんが、少しの間邪魔させて貰うぞ?」
「お祖父様・・・お父様、お母様も!?」
家族である夏帆でさえ滅多に見られない3ショットに、夏帆が驚きの声を上げる。しかし次の瞬間、シリアスな雰囲気は吹き飛んだ。
「幸之助おじいちゃん、久しぶり〜。」
「小春ちゃん、久しぶりじゃのぉ!それにみんなも良く来てくれた。話が済んだら出て行くから、少しの間だけ我慢して貰えるか?」
全員が緊張しながらも頷く。オレと姉さんは何度か顔を合わせているので、緊張する事は無い。しかし、夏帆の両親の後ろを確認して驚いてしまった。
「父さん!?」
「お母さんも!?」
突然の出来事に、流石の姉さんも驚きの声を上げる。年に数回しか集まる事の無い八神家の集合なのだから無理もないだろう。
「勉強の邪魔をしちゃってごめんね。実は、秋人君に伝えなければならない事があるんだ。」
「オレに?」
「すまんが、続きはワシの口から話そう。」
父さんの言葉を引き継ぎ、幸之助さんが口を開く。姉さんの扱いを見ていると錯覚するが、この人は非常に偉い人である。父さんがどれだけ真剣な表情をしようと、幸之助さんを相手にする程シリアスにはならない。だからこそ、内容が気になって仕方ない。
「一体何でしょう?」
「うむ。夏帆に婚約者がいるのは知っておるな?」
「えぇ。同じ学校にいると聞いてます。」
「共に学生生活を送るという名目は?」
「それも聞きました。」
幸之助さんは、何を言いたいのだろうか?ひょっとして・・・クイズか!?
「ならば夏帆は普段、誰と行動を共にしている?」
「え?ここにいるメンバーですけど・・・まさか彰が!?」
➖➖ガクッ
オレの叫びに、全員が項垂れてしまった。どうやら間違ったらしい。となると・・・誰だ?
「秋人君は自分の事となると、本当に疎いのぉ・・・。夏帆の婚約者とは秋人君の事じゃよ!」
「え?・・・えぇぇぇぇ!?」
会長の言葉に、全員が驚愕した。と言いたかったのだが、オレ1人が大声を上げた。みんなからは白い目で見られている。
「気付いてなかったのは秋人だけだぞ?」
「そうそう。流石の私でも気付いてたわよ?」
彰と紗花が呆れている。マジか!?姉さんと美冬姉に視線を向けると、それぞれ別の答えが返って来た。
「私は気付かなかったから驚いてるわ。」
「美冬ちゃんは仕方ないよ〜。それより、態々それを言いに来たの?」
「いやいや、今日来たのはその続きを言う為じゃよ。」
全員が一斉に首を傾げる。続きってなんだろう?
「秋人君は、夏帆との結婚についてどうじゃ?」
「どうって・・・突然言われても決められませんよ・・・・・。」
夏帆の事は嫌いじゃない。美少女だし、性格だって悪くは無い。普通に考えたら断る理由など見当たらないだろう。しかし、この年齢で結婚など考えた事など無いのだ。当然、そんな考えは見抜かれているようだった。
「脈無しという訳でも無さそうじゃな。ではこうしよう。夏帆よ、今日から八神家で世話になりなさい!」
「「「「「「はぁ!?」」」」」」
会長のぶっ飛び発言に、学生プラス教師組が素っ頓狂な声を上げる。何故だ!?
「秋人君に夏帆の事を知って貰う良い機会じゃ。気合を入れて秋人君を籠絡する事じゃ。万が一秋人君と結婚出来ないようなら、京極の倅と結婚して貰う事になる。拒否権は無いからの?」
「お父様!」
「会長!」
「それだけは絶対に嫌!!」
夏帆の両親が声を荒げ、夏帆がも珍しく叫ぶ。しかし、皇家の者達以外は話について行けなかった全員が首を傾げる。オレはチラリと白井さんを見やったのだが、あまりの驚きに目を見開いていた。
「「「「「「「京極?」」」」」」」
「軍事産業大手の京極グループです。会長がおっしゃっているのは、そのご子息でしょう。長男は既にご結婚されていますし次期当主でしょうから、次男という事になるでしょうね。ちなみにこちらがお写真になります。」
➖➖ピッ
白井さんが、オレ達に画像データを送信してくれた。みんなが画像を確認し、一斉に悲鳴を上げる。
「「「「「「うわぁ・・・。」」」」」」
「これはちょっと・・・。」
「私もこれは・・・。」
彰と美冬姉が遠慮がちに感想を述べる。この2人は言葉を濁している分まだいい。
「あっくんあっくん!この生き物、動物園にいるかなぁ?」
「キモっ!この豚が相手じゃ、夏帆が可哀想だよ!!」
姉さん、動物園にはいません。紗花、そんなにハッキリ言ったら彼が可哀想です。まぁ紗花の言う通り、豚を気持ち悪くしたような見た目である。これ以上は言葉の暴力となるので、説明は控えるが。
「お父様!いくら何でも、夏帆が可哀想じゃないですか!!」
「ワシだってこんなのを婿に迎え入れるのは嫌に決まっておるわ!」
「だったら何故・・・。」
ドラマで見るような、親子のやり取りが始まった。当然口を挟める者はいない為、全員が静かに見守る。オレ?正直、当事者だからなのか、三文芝居でも見せられてる気分だ。一歩引いた所から眺めているような感じ?おっと、まずは続きをご覧下さい。
「流石に京極ほどの相手じゃと、断るのにもそれなりの理由が必要となるのは理解出来よう?実績から考えて、夏帆の相手に相応しいのは秋人君しかおらんかったんじゃよ。」
「・・・なるほど。一応非公開とはいえ、秋人君は様々な新技術を開発していますからね。軍事方面もその恩恵を預かっている分、下手に口は出せないと・・・。」
幸之助さんと友香梨さんの会話の途中ではあるが、彰が小声で問い掛けて来た。
「なぁ秋人?軍事方面って何だよ?そんなのまでやってんの?」
「オレにもわかんないよ。作った物は父さんに全部任せてるし。」
「自分が作ったのに、何に使われてるのか知らないって事!?」
紗花が呆れたように聞いて来た。感情が昂ぶったのか、声が少し大きい。そのせいか、大人達にも聞こえてしまったようだ。智和さんが口を挟んで来る。
「秋人君、自分がどれ程の発明をしたのか理解してないのかい?」
「え?実物を見れば用途は何となくわかりますけど、細かい事は父さんに任せていますから・・・。」
「任せてって言うか、僕が勝手にやってるんだけどね。あはははは。」
そう。オレは作っても面倒な手続きはしない。作って満足したら、それでおしまいだ。身の回りが便利になれば充分である。たまに帰って来た父さんが、一言断りを入れて色々と持ち出している。そう説明すると、美冬姉が言い難そうに聞いて来た。
「軍事利用されてるなら、秋人君の所に入る利益も莫大なんじゃ・・・。」
「あっくんの貯金は1億円だよ〜?」
「い、1億!?」
姉さんが余計な事を口走り、美冬姉が口を大きく開けている。しかし、それは正確な金額ではない。
「オレは1億だなんて一言も言ってないよ?ゼロが8つとは言ったけど、正確な金額はオレも知らないし。」
「「「「「えっ!?」」」」」
全員が一斉にこちらを向く。あまりの迫力に、思わず父さんの方を見てしまった。父さんと視線が合うと、苦笑混じりに説明してくれた。
「あまりの金額でしたから、秋人君には1パーセントしか渡していませんよ。残りは別の口座で管理しています。先月秋人君の口座を確認した時は、9億円ちょっとでしたね。」
「「「「「はぁ!?」」」」」
「ちょっと父さん!息子のへそくりバラさないでよ!!」
まさか父さんにバラされるとは思っていなかった。しかし、あれで1パーセントだったのか。オレも驚きである。
「無駄遣いはいけません!と言いたい所ですが、秋人君の性格では使い切れないでしょうからね。経済を潤す為にも、頑張って使って下さい。」
「そもそも、へそくりなんて可愛い金額じゃないわよ?」
父さんに諭され、母さんに呆れられる。ちなみに、親から小遣いは貰っていない。使い切れそうにないのだ。父さん達には、残りの貯金は自由に使って構わないと伝えてある。しかし両親からは、必要無いと固辞されている。2人もそれなりの給料だと言っていたし、ほとんど帰って来る気配も無いので使い道が無いのだろう。
ふと気が付くと、オレ達が会話をしている間ずっと計算していた夏帆が、何やら呟いている。みんなが見守っていると、クワッと目を見開き力強く提案して来た。
「昨日聞いた時点で100年分。その9倍で、さらに100倍だから900倍。つまり・・・・・食べ放題!?秋人、結婚しよう!!」
「食いもん目当てじゃねぇか!」
完全に目がハンバーガーである。これは後で教えてあげよう。何故世の中にハンバーガーの食べ放題が存在しないのかを。
「はっはっはっ!夏帆よ、しっかり秋人君を落とすんじゃぞ?」
「はい!お祖父様!!」
「小春ちゃん、そういう訳じゃから夏帆の事を頼む。」
「もぉ!しょうがないなぁ。夏帆ちゃんは預かるから、私との約束・・・忘れないでね?」
「勿論じゃ。それではワシらは引き上げるとしようか。白井君、後の事は任せるぞ?はっはっはっ。」
汚ねぇ!オレが断ると思って姉さんに頼んだな!!おまけに、去り際にオレを見てニヤッと笑いやがった。くそぉ〜。
大人達が別れの挨拶を済ませて立ち去る中、オレだけが呆然と立ち尽くしていた。この後、全員が勉強どころでは無かったのは言うまでもない。メイドさん達も忙しそうだったしね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。