第7話 ゲーム説明2
予想通りミーナとサラが姉さんの下に詰め寄り、矢継ぎ早に質問を投げ掛ける。当然MMO初心者の姉さんは、バカ正直に答えてしまうのだった。
「アルスのお姉さんってホント!?」
「はい。本当ですよ〜?」
「本物のお姉さんって事よね!?」
「本物ですよ?(血の繋がりは無いですけど)」
「さっきアルスの事、『あっくん』って呼んでたよね!?」
「はい。あっくんは私の大切な弟ですから。」
「仲間内じゃアルスは学生って噂だけど、お姉さんも?」
その質問はマズイ。姉さんが素直に答えそうだったので、間に割り込む事にした。
「ストップ!クランメンバーの詮索禁止!!」
「えぇ〜!いいじゃん、別に!!」
「そうよ!減るもんじゃ無いんだし!!」
「ならリーダーに報告させて貰います。」
「「っ!?」」
メンバーにとってのリーサルウェポンでもある『リーダーに告げ口』という、最強のカードを切る。対抗策を持たない2人は、一気に大人しくなった。
オレが所属するクランのリーダーは、非常に厳しい人である。ルールを守れないメンバーなど、あっさりと切り捨ててしまう容赦無い人だ。それでもメンバーが従うのには、それなりの理由がある。
確かにルールには厳しいのだが、普段はとても思いやりがある。好ましい人柄なのだ。そしてリーダーの存在以上に大きな理由。それは、オレ達のクランが頂点に君臨しているという事だろう。
イベント毎に貰える報酬というのは、ゲームを楽しむ者達にとって非常に価値のある物である。それが1位ともなれば、その価値は計り知れない。そんなクランから追い出されるなど、誰しも想像したくなかった。
「いい?ゲーム内では個人情報を明かさない事!犯罪に巻き込まれたら嫌でしょ?」
「そうなんだぁ。これから気をつけるね?」
その後も最低限守るべきルールやマナーの再確認をして、やっと一息つく。一段落したのを見計らったミーナとサラが声を掛けて来た。・・・まだいたんだ。
「それでそれで?ハルちゃんをIW3に連れて来たのはどういう事?」
「ハル?・・・あぁ、姉さんはハルって名前にしたのか。姉さんもVoEに登録したから、その練習ですよ。」
ミーナに言われて姉さんの名前を確認すると、表示が『ハル』となっていた。安直な気もするが、名前くらいなら大丈夫だろう。そして、キッチリと目的を告げておく。そうしなければ、クランに引き込まれる可能性があるのだ。
「って事は、アルスも登録したんだ?」
「2人は登録しました?」
オレがVoEを楽しみにしていた事は、リーダーしか知らない。しかしオレが姉さん『も』と言った事で、サラは気付いたらしい。別に秘密という訳でもないので、バレても構わないのだ。一応オレも、2人がどうするつもりなのか確認しておく。
「私達はやんないよ。」
「体力に自信無いもんねぇ?体を使うゲームは若者に任せるよ。」
「2人だってまだ若いでしょ?それはともかく、オレは姉さんにバトルについて説明して来るよ。」
「あら?私達も行くわよ?」
実に年寄り臭い物言いだが、ミーナもサラも20代なのは確実だ。それも20代前半だろう。まだまだ若いと思うのだが・・・。しかしこれ以上女性の年齢で話を続けるのは危険な為、本日の目的でもあるバトルに向かうと告げた。
予想外だったのはサラ・・・とミーナが付いて来ると言った事だろう。この2人、一体何しに来たんだ?
「何で2人が来るんです?」
「「面白そうだから!」」
そうですか。まぁ、ここで言い争ってる時間も無いし、4人で行くとしよう。
そのままの足で街を出て、ほんの数分でだだっ広い平原のど真ん中に辿り着く。少し離れた位置にスライムを発見したので、立ち止まって説明する。
「視界に色々と表示されてると思うけど、一番大切なのが自身のHP。これが無くなるとゲームオーバーだから。」
「え!?それって、もうゲームが出来なくなるって事?」
あぁ・・・姉さんは1度もゲームした事が無いんだった。誰でも知っていそうな事だが、それさえも知らない。これはちょっと面倒かもしれない。とりあえず、懇切丁寧に指導するとしよう。
「HPが無くなると、最後にセーブした場所で生き返るよ。ただ、色々とペナルティが存在するから、とにかく死なない事だね。」
「セーブ?」
しまった!余計な単語を使ってしまったじゃないか!!予備知識の無い人に教えるというのが、これ程難しいとは思わなかった。慎重に言葉を選ぶ必要があるな。
「色々と気になるとは思うけど、今は戦闘に関してだけ教えるから。え〜と・・・あれはスライムと言います。敵です。近付くと襲い掛かって来るから、躱しながら攻撃して下さい。以上!!」
「「わかるかぁ!!」」
ミーナとサラにツッコまれたが、姉さんなら理解出来ると思うよ?
「わかったわ。」
「「わかるんか〜い!!」
ほらね。何年姉弟やってると思ってるの?って、この2人は知らないのか。しかしこの2人、本当に息ピッタリだよな。常に一緒にいるし、クランのみんながデキてるって言うのもわかる気がする。
今それはどうでもいいとして。姉さんはオレの言った事を実践する為、スライムへと近付いて行く。そんな姉さんを心配して、オレの横に立っている2人が声を掛けて来た。
「ねぇアルス?ハルちゃん1人で大丈夫なの?」
「いくらスライムが最弱と言っても、初心者1人じゃ死ぬ可能性もあるわよ?」
「いや、問題無いと思います。だって姉さん、現実世界でも強いですから。」
VRMMOは仮想空間だが、現実世界における生身のステータスが反映される。体内のナノマシンが細胞の異常個所を探す際、筋力等のデータも測定している事で可能となっている機能だ。
そして姉さんは、幼少の頃から空手を習っている。同じ道場に通う日本チャンピオンより強いらしいので、安心して見ていられる。大会には興味が無いらしいので、その事実を知る者は多くない。
飛び掛かるスライムの攻撃をヒラリと躱し、すれ違い様に腰の入った正拳突きを繰り出すと、スライムの体が飛び散った。まさに一撃必殺である。その光景は、横で見守っていた2人にとっても衝撃的なものだったようだ。
「嘘っ!?」
「一撃!?」
ウサギとは言え、獣人特有の身体能力の高さと相まって、姉さんの破壊力は相当に上がっている。これがその辺の女子であれば、キャーキャー騒いで話にならなかった事だろう。
「あっくん見てた!?」
「あっくん言うな!!」
相変わらずのバカ姉である。他人の話など聞きやしない。しかし、夜も更けて来たので構っている時間も無い。その後も少しずつ説明を続けながら、姉さんは地道にスライムを倒して行く。
現実の時刻は23時を少し過ぎた頃。説明も戦闘も充分に行った事で引き上げる事となった。朝までプレイするというミーナとサラに別れを告げ、オレと姉さんはゲームからログアウトして休む事にした。
翌朝、普段通りに起きたオレは日課のジョギングをしてから3人分の朝食を用意する。女性陣のリクエストにより、フレンチトーストとサラダである。ライス派のオレとしては、出来れば米が食べたい。と言う訳で、オムライスも作っている。
ちなみにオムライスはオレのおやつである。おにぎりにしてから、卵で包んで持って行くのだ。考案した人を讃えたい。
朝食を配膳していると、ずっと調理風景を眺めていた2人が感想を述べる。
「あっくんの手際の良さは流石ね。」
「味は勿論だけど、この見た目だもの。お金穫れるわよね・・・。」
「感想はいいから、早く食べちゃって。夏帆が来るまでそんなに時間無いよ?」
オレが促すと、2人が食べ始める。まだ少し時間はあるのだが、女性は準備に時間が掛かる。
オレもおにぎりを作り終えて朝食に参加し、賑やかに食べ終えると2人は支度に向かう。その間に後片付けを済ませ、リビングにいる2人と合流した。オレがソファに腰を下ろすと、何かを思い出した姉さんが声を掛けて来た。
「そう言えばVoEの説明聞いてなかったよ。昨日のゲームと同じかなぁ?」
「基本的には同じだけど、出来ない事の方が多いかな。」
「そうなの?」
「うん。実際に体を動かすからね・・・空を飛んだり転移したりは出来ないでしょ?」
純粋なゲームとしてならば、面白さという点ではVRに軍配が上がる。それは姉さんにも理解出来たようだ。
「でも、だったらどうしてARMMOが人気なの?」
「実際に体を動かすから、スポーツ感覚で楽しむ人。よりリアルを求める人。大まかにはこんな理由。でも実際には、ARのうま味を求める人が多いかな?」
「「うま味?」」
姉さんだけでなく、美冬姉も食い付いて来た。美冬姉がゲームするとは思えないが、教師として気になるのだろう。学生の間で何が流行ってるのか、知っておくのは必要なのかもしれない。
「ARは実際に遊ぶ場所が必要でしょ?」
「時々街中でイベントが開かれてるのを見た事がある。そっかぁ、アレってARだったんだ?」
世の中には様々なゲームがあり、入れ替わりで1日中街のどこかでイベントが開催されている。当然姉さんも目にしているので、頷いてから説明を続ける。
「アレって実は、近くの店舗がスポンサーになってるんだよ。」
「ゲームにスポンサー!?」
美冬姉には信じられない様子だった。ゲームで収入を得るプロゲーマーも存在するのだが、流石の教師も知らない事はあるようだ。
「身近な所だと、店舗近くのスペースを提供して、参加者への景品にクーポンを配ったりするかな。当日限定のクーポンだったりするから、貰った人達が足を運ぶでしょ?」
「通販だけだと、実店舗が成り立たない・・・か。考えているのね。」
今のご時世、買い物はネットが主流である。体内のナノマシンを通して、巨大サーバーを務める人工知能にアクセスしている。これにより、服の試着や家具家電の配置といったシミュレーションも可能となった。
店舗に足を運ぶ事無く商品を選ぶ事が出来、大きな家具を自宅に置いた時の状況さえも、大した労力を掛けずに知る事が出来る。
その逆に、店舗に足を運んで商品を選択する事で、視界に自宅を映し出す事も出来る。家に居ても店舗に居ても、自由にシミュレーション可能なのだから、ナノマシンの恩恵は計り知れない。当然その先に繋がる人工知能も・・・。
「あ!夏帆ちゃん着いたって!!」
「それじゃあ行きましょうか?」
連絡を受けた姉さんが声を掛け、美冬姉が立ち上がる。家のセキュリティを確認したオレ達は、外で待つ夏帆の下へと急ぐのであった。
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