第64話 ガイアス邸
「でぇっけぇ」
ミニャに案内され馬車で揺られること数時間、ようやく到着した場所にはブタの屋敷を丸呑みにできるほどの巨大な屋敷があった。
「ここがストール地方の領主である、バレン・ガイアス様のお屋敷です」
ミニャが語尾を封印しているんだが、なんか違和感だ。前は語尾がある方が違和感だったのに今では語尾が無いことの方が違和感に感じるなんて……俺も毒されたものだな。
「……時にミニャよ。こんなにデカい屋敷に住むにはどれだけの悪行を重ねればいいんだろうな」
「だからそういう事を言うな!! もう屋敷の前なんだからね!」
ッチ、語尾が出なかったか。ミニャもかなりテンパってるな。周囲を気にしすぎだろう。そんなに領主は怖いのか?
「ミニャ殿、ここからは私が案内を致します。クジョウ様、執事のセバ・スチャンと申します。どうかよしなに」
「はい、よろしくお願いします。セバスチャンさん」
「セバ・スチャンです。それではこちらにどうぞ」
ハッキリと訂正して扉の方へ歩き出すセバスチャン。うん、やはりセバスチャンはセバスチャンだろう。
「ジンにゃん。お願いだから怒らせたりしないでにゃ。私が後で怒られるにゃ」
まぁそれくらいなら問題ないだろう。俺には被害ないし。
「ジン様、あまり苛めてはダメですよ。一応命の恩人なんですから」
「フーカちゃん! 君はいい子にゃ! もっと言ってやって! あの恩知らずの主人にッ!」
「ほほう。なら恩返しに良い事を教えてやろう。………………セバスチャンが扉を開けて待ってるぞ」
俺の言葉にバッと振り返り確認したミニャが少し涙目でこちらを睨んでいた。
「さっきの間はセバさんが扉開けるのを待ってたわね! もっと早く言いなさいよ!」
「それは違う。俺はセバスチャンが振り返るのを待って教えただけだ。ほら急がないとこめかみがピクピクしてるぞ?」
「ふにゃ! 急ぐにゃ! ジンも早くにゃ!」
俺の嘘を信じたミニャはなぜかフーカの手を掴んで玄関へ猛ダッシュしていた。
「ふむ。それじゃ俺達はゆっくり行こうか」
「はい。ん、ご主人様」
リムリが手を出して来たので繋いでゆっくりと屋敷を眺めながら歩き出す。ミニャの叫び声を無視して、フーカと視線を合わせない様にしながら。
「「ようこそ、ガイアス邸へ。バレン様がお待ちです」」
双子の美女メイドが揃ってお出迎えしてくれていた。兎人族だ。うさ耳が可愛いぞ。あと首とお腹の間に大変素晴らしい物が二つ並んでいる。イイネ!
「(ジン?)」
「ジン様?」
「ご主人様?」
「……何も言ってないぞ?」
俺は思うことも禁止されているのだろうか? よく考えるとハーレムって女性陣の方が強くないのかな? 団結するし。
「ほらジンにゃん。変なこと考えてないで行くにゃよ」
ミニャはもう堅苦しく話すのを辞めたみたいだ。流石は猫、飽きっぽいな。
「うるさいにゃ」
こいつもか……。俺はそんなに顔に出るの? と言うか皆、顔に出てるのを読んでるってレベルじゃないからね? 読心術だからね?
「「それでは皆様、こちらへ。すでにバレン様はお席にお付です」」
メイドは声を揃えて話さないといけない規則でもあるのだろうか? セバスチャンが案内するって言ってたけど普通にメイド二人が先頭を歩いてる。
こそっと盗み見るがセバスチャンの表情は変わっていないようだ。
「クジョウ様、私の顔に何かありましたかな?」
「いえいえ、何も。ちょっと間の悪い表情でも浮かべてるかなとか期待してませんよ?」
「ジンにゃん? 私を怒らせたいにゃか? 私が怒られたらうん倍にして返すにゃよ?」
「ミニャ殿。怒るとは心外ですな。私達は貴方が立派になられるように手助けをしているだけですよ?」
「はい。ゴメンなさい」
項垂れるミニャを見ているとちょっと可哀想に思えてきた。
「――ジン様」
「あぁ、ちょっとやり過ぎたな。よし、領主相手には可能な限り真面目に対応してやろう」
「お願いだから領主様には変なこと言わないでぇ」
最近ミニャの泣き顔をよく見るな。と、着いたみたいだ。
メイド二人が扉を片方ずつ持ちこちらを伺っていた。そして、
「「クジョウ・ジン様、御一行をお連れしました」」
俺たちの顔を見渡してから声をかけ扉を開けた。
その部屋は以前テレビで見た王室の様な作りだった。
鮮やかな壺や黄金の置物、宝石をあしらった宝剣等が互いに干渉しないように配置され、一切の妥協を許さずその空間は存在していた。
見る者を圧倒するものとはここまで繊細で優雅なものなのか。
「どうやら気に入って貰えたようだね」
部屋の奥、長広いテーブルの最奥に一人の男が座ってこちらを見ていた。
バレン・ガイアス
耳長族LV61
領主LV14
アルテミスの弓(神)
・森の加護LV8 ・鷹の目LV5・指揮LV7・狙撃LV3
領主、バレン・ガイアスか。強いな。ステータスじゃなく、肌で感じる気配が強敵だと教えてくれる。
ダンジョンのボスが相手でもこんな風に感じたことなかったけどな。寄生種と対峙した時か? だけど俺もあの時から成長しているはずだけどな。
長い耳に柔らかい眼差しだが、その眼光はアオイに通じるものがある。四十歳ぐらいの風貌だが、この世界のエルフはやはり長寿なのだろうか?
「初めまして。九条ジンです。本日は直接お会いできる機会をお与えて下さり、ありがとうございます」
どう挨拶すればいいのか聞いてなかったな。とりあえず頭下げとけばいいだろ?
「ははは、そう畏まる必要はないよ。もっと気楽にしたまえ。言葉使いも普段のものでいい。ここは公の場ではないのだからね」
「……そうですか? ならそうさせてもらいます。堅苦しい言葉使いは慣れていないもので」
「りょ、領主様。この男をあまり調子に乗らせない方がいいですよ」
「これミニャ、私の客人にそういう事を言うものではないよ。お前はまだまだ教育が足りていないな。もっと貴族の作法を教えるべきだな」
叫びこそしなかったが、ミニャの表情は明らかに悲鳴でも上げているかのようだった。
ご冥福をお祈りします。
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