第63話 執事長セバスチャン


「……おはよう」

「「おはようございます!」」


目が覚めると目の前に可愛らしい顔が二つ並んでいた。

寝顔を眺めていたのか知らないがちょっと恥ずかしいぞ。


「二人してどうした。……ルナは?」

「ルナ様は回復魔法を使って寝ちゃいました。魔力が回復するまで起きていらしたみたです」

「私達には早く寝るように言っていたのに、自分は徹夜してるってどういうことよねぇ、私もご主人様の看病したかったのに」


リムリは俺の枕元で寝ているルナの頬を突っつきならが口を尖らせていた。といっても本気で怒っているわけではないだろうけど。

軽く腕を回してみるが、痛みは感じない。完全に治っているみたいだ。流石はルナだな。


……そう言えば魔力充填があるんだからフーカとリムリの魔力を貰えば良かったんじゃ? ――過ぎたことは考えない様にしよう。


「それじゃルナは休ませておくとして……置いて行くわけにはいかないよな」


起こさない様にそっと腕に抱き抱えると俺の服をギュッと掴んできた。

なんだろう。赤ちゃんを抱いて、イッテェ!


「だ、大丈夫ですか! ジン様!」

「あぁ、大丈夫だ」

思いっきり腕を抓られたんだけど。絶対起きてるだろ。


「ルナっちズルいでしょ。私もお姫様抱っこして欲しい」

「わ、私も……」

え? これってまた全員をする流れですか?


「あー、ルナは寝てるから仕方なくであって。……二人はまた今度な」

「「やったー!」」

瞳をうるうるさせながら見上げてくるのはヒドイと思うぞ。断れないだろ。


「むにゃむにゃ、今日はルナの独占、むにゃむにゃ」

むにゃむにゃじゃねぇだろ!! お前絶対起きてるから!


「はぁ、もういいや。とりあえず飯にするか。って出来てるのか?」

「うん。簡単な物になったけど、フーちゃんと作ってあるよ」

起きると用意してある食事、素晴らしいです。

「頑張りました!」

それは楽しみだ。それじゃ皆で朝食とするか。



『クジョウ・ジン殿!! いるのは分かっています! 扉を開けて下さい!』


部屋を一歩出たところで外から聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「無視だ無視。冷えたら折角の手料理が台無しだ」

「はい!」

「こんなに早く来る方が悪いよねー」


外からの呼び声をスルーして俺達は席に着いた。


「頂きます」

「「頂きます!」」


『……聞こえてるよね? むしろ今頂きますって聞こえたにゃよ!! ジンにゃん!! 開けるにゃ! ゆっくり食事してる場合じゃないにゃ!!』

聞き覚えのある声に聞き覚えがある語尾が追加されたが、気にする必要はないだろう。


「うん。今日のご飯も美味い!」

「ありがとうございます!」

ドアを叩きながら叫ぶ猫娘を無視して俺達は美味しく朝ごはんを食べるのだった。



「うるさいぞ、近所迷惑って思わないのか? ミニャ」

「――やっと出てきたにゃ。時間ないっていうのに。……ゴッホン! クジョウ・ジン殿! 領主、バレン・ガイアス様がお呼びです! 我々と共にお出でください!」

「あ、遠慮します。そういうのは他所でやってもらえると助かるんで。それじゃ、そういう事で」

扉を閉めようとすると足を割り込ませたミニャがすがるような目でこちらを見ていた。


「待ってにゃ、お願いだから一緒に来てにゃ! ジンにゃんが来ないとまた怒られるにゃ!」

少し涙目になっているミニャの後ろに二人の男が立っているのが見えた。


ハルドール・エントス

耳長族LV36

衛兵LV15


セバ・スチャン

耳長族LV53

執事長LV37


一人は傭兵のような男だが、そこらの冒険者より気品がある青年だ。

もう一人、セバスチャンはまんま執事だ。名前も格好も誰が聞いても執事だろう。ただ纏っている雰囲気は歴戦の強者と言わしめる貫禄のある初老の男だ。

俺と目が合うとスっと頭を下げていた。うーん。こうもピシッと挨拶されると無視もしづらいな。


「それで? エルフを連れてなんのようなんだ?」

「だから領主様が呼んでるにゃ!! 大人しく付いて来るにゃ!」

そういやそんなことも言っていたな。ブタの件だろうな。領主も敵に回ったのか? 逃亡しようとしたらその二人が捕らえるってことか。


「……有無を言わさないってか? 領主様も俺の敵になったってことでいいのか?」

「――物騒なことは言わないでにゃ。お願いだから付いて来てにゃ」

後ろの連中に聞こえないようにミニャは小声で呟いていた。どうやらミニャは敵ではないみたいだな。

後ろの二人は領主の兵士で監視役ってことか?


「いいけどフーカ達も連れて行くぞ。……二人に危害を加えようとした時点で俺の敵だからな」

「だから変なこと言わないで! 領主様はただジンとお話がしたいだけだから! ジンは黙って私達に付いて来なさい!」


後ろの様子を伺いながらミニャは声を荒らげていた。何をそんなに興奮しているんだろうな。青年の方は少しイラついているみたいだが、セバスチャンの方は気にも止めていないようだ。最も彼の場合、表情を動かさずにいるだけなのかも知れないが。


「フーカ、リムリ。準備できてるか?」

「はい、大丈夫です」

「いつでもオッケー」


ルナは一応休んでるけど問題ないだろう。念のため家を出る準備も済ませていたしな。

必要な物はアイテムボックスに収納済みだ。


「それじゃ行くとするか」

「……お願いだから変な真似はしないでにゃよ?」


準備万端な俺達を見てミニャが不安そうな顔で伺っていた。


――それは相手次第だと思うぞ?


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