第62話 おやすみなさい

「ジン様! ご無事だったんですね!」

「ご主人様! 怪我ない! 大丈夫!」


転移して廊下に出ると気付いたフーカとリムリが大慌てで駆け寄って来た。


「あー、まぁ軽くな。明日には治るだろうから気にするな。あと抱きつくの禁止な」


今抱きつかれたら悶絶しそうだ。一応ルナにヒールを使ってもらったが多少痛みが和らいだ程度だった。

ダメだな。リカバリーの優秀さを知ってしまったらヒールが弱く感じてしまう。

ミニャに聞いた話では普通の治療師が扱う回復魔法はヒーリングだと言うし、リカバリーの魔法を知らないみたいだった。



「ジン、ゴメンなさい。あの馬鹿店主がなにかしたんでしょう? ここまで振動が伝わっていたわ」

フィロが申し訳なさそうな顔で頭を下げていた。いや、どっちかと言うと俺が悪いだろう。主人に断りも入れずにフィロを使ったんだし。


「フィロは気にしないでくれ。まぁ、あんなバケモンがいるなら教えていて欲しかったけど」

「え? ――まさか剣を抜いたの! あのバカ! ゴメン、今日はちょっと忙しいからまた明日いい? 明日はダンジョン行くの?」


「いや、貴族がどう動くか分からんから悠長にダンジョン探索もできんだろ? 一応情報収集を考えていたけど」

この世界の常識に欠けてるしな。貴族がどう動くのか知っておく必要もあるし、明日はいろいろ回って見るべきだろ。


「たぶん大丈夫だと思うけどね。ブリッタの評判は他の貴族も知っていることだし。――でも貴族は貴族だから楽観はできないか。あとは領主様か。一応ミニャが話に行ってるわ。明日には大体のことは分かると思うから昼ぐらいに一度来てくれる?」


「分かった。それじゃ、朝から少し情報収集がてら街を歩くとするか。昼には来るからよろしくな」

「ええ。夕食時にゴメンなさい。ゆっくり休んで」


フィロに手を振って店を出て、すぐ隣にある我が家へと戻って来た。



「ふぅー、一応貴族がすぐに動くことはないみたいだな。今日はゆっくり休もう。流石に俺も疲れた。フーカも今日は戦い続きだったんだからしっかり休め。リムリも今日は精神的にも疲れているはずだ。ゆっくり休めよ。場合によっちゃ、明日からは逃亡生活になるかも知れないぞ?」


折角の我が家を捨てるのは勿体無いが貴族が敵に回ってゆっくり生活ができるわけないしな。二人には窮屈な思いをさせちまうな。……場合によっては国を出るしかないか。


「私は大丈夫です。ジン様の方こそ、顔色が優れませんよ。左腕を庇っているみたいですし、やはりお怪我を?」

「私も少しなら回復魔法使えるよ!!」

流石はフーカだ。気づかれないようにしてたんだけどな。


「大丈夫だ。朝には魔力が回復するからルナが治してくれるよ」

「ええ、だから二人は早く寝なさい。二人が起きてたらジンが寝れないでしょ?」

ルナが諭すように優しく声を掛けるが二人はルナを見て頬を膨らませていた。


「うぅ、ジン様! 今日は一緒に寝てもいいですか!」

「あ、ズルい! ご主人様! 私も一緒に!!」

「え、いや、俺も今日は疲れて……」

「同じ部屋で寝るだけですから!」

「私とフーちゃんはソファーでいいですから!」

「二人共、ジンが困るでしょ、添い寝はルナに任せてお部屋にお戻りなさい」


いや、添い寝はいらないけど。まぁ、ルナは小さいから大丈夫か。だけど、二人がこんなに言い寄って来るのも珍しいな。貴族のこともあるし、今日ぐらいいいか。


「ならフーカはソファーを持って来てくれ。リムリは布団な」

手伝ってやりたいところだけど、流石に今の状態じゃ無理はできん。


「ちょ、ジンッ!」

「「やったー!」」


ルナの驚きを無視してフーカとリムリは大喜びで部屋に駆けて行った。


「はぁ、いいの? その怪我じゃ寝てるだけでも痛いと思うわよ?」

「ん? 二人を追い出そうとしていたのはそのせいか? まぁ、大丈夫だろ? ヤバそうだったら夜中にでも治療してくれ」

「まったく。ジンはルナが居ないとダメね! ふふふ、ほんとルナが居ないとね」


何やらニヤニヤしている精霊様はほっといてさっさと部屋に戻ることにする。ルナにはああ言ったが、実は結構ギリギリだったりする。

骨折だけじゃなく内蔵まで損傷しているのかも知れないな。……俺もまだまだだな。もっと強くなって皆を守れるようにならないと。


それからソファーと布団を運び込んで来たフーカ達をベットに押しやって俺はソファーを占領することにした。

いろいろ文句を言われたがフーカがソファーを俺ごとベットの傍まで移動して、とりあえず納得していた。


リムリはベットの方から俺に回復魔法を掛けてくれていた。リムリも大変だったんだから止めるように言ったのだが、笑顔で断られてしまった。

正直結構痛かったので、痛みが和らいで助かっているけど。


ルナも回復魔法を使おうとしていたので魔力が貯まるまでは使うなと釘を刺しておいた。

こんなところで張り合われたらいつまで経ってもリカバリーが使えないだろ。


リムリの回復魔法はルナほどではないが、しっかりと傷を癒してくれているみたいだ。痛みが和らぎ、徐々に瞼が重くなる。


「……リムリ、むりするなよ……あしたに、そなえて…………」


「……ジン様寝っちゃった?」

「うん。たぶん無理してたんじゃないかな。私の為にたくさん頑張ってくれたんだもん」

「リムリ、あとはルナが見てるから休みなさい。明日は忙しくなるかも知れないわよ。フーカもよ」

「まだ魔力があるからギリギリまでやるよ。むしろルナっちが早く休んで魔力回復させなよ」

「ルナの魔力はジンに依存しているからルナが休んでもあまり意味がないのよ。リムリは明日に響くからほどほどにしなさい」

「うぅぅ、二人とも回復魔法使えてズルいです。私もお役に立ちたいです」

「フーカはダンジョンで役に立ってるでしょ。明日戦闘になったら嫌でも戦うんだから、早く寝て体力を回復させておきなさい」


「……はい」

「リムリも明日に備えなさい。ジンが心配するわよ?」

「う、それズルい。はぁ、分かりました。寝ますー。ご主人様に変なことしたらダメだからね」

「しないわよ。さっさと寝なさい。……今日はお疲れ様、おやすみなさい」


「「おやすみなさい」」








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