第61話 最強の鍛冶師
「……嘘だろ? ッ、イッテェ」
俺の全力の拳を真正面から受けても、アオイは微動だにしなかった。――いや、動きが止まったのか。
拳を引こうとすると全身に電気でも走ったような痛みが駆け巡る。
……左腕が動かねぇ。肩か鎖骨が折れてるな。
「ジン! 大丈夫!」
正直ヤバいな。カムイのお陰で一命は取り留めたが、衝撃は突き抜けたみたいだ。左肩からの袈裟懸け斬り、切れてはいないけど、衝撃によるダメージはあるみたいだな。
魔力はカムイ一発で切れてる。ここまでやって仮面一つ壊せないのか。
そう思った時、
「――――やるわね」
アオイの声が聞こえた。その声は先ほどまでと違い落ち着いたものだった。
そして、
「結構本気で斬ったんだけど、よく反撃できたわね」
仮面にヒビが走り崩れて落ちた。
「っ、こりゃ、勝てんな」
仮面が崩れた瞬間、凄まじいまでの圧力を感じた。抑えられていた力が開放されたような、溢れ出す波動に身震いして鑑定をすると、
霧島 葵
人族LV357
鍛冶師LV59
エクスカリバー(真)
・勇者・????・????・????・????・????
・????・手加減・????・????・神の加護・????
どこのラスボスだよ! ルナよりレベルが上だぞ。チートふざけんな!! ぶっ壊れ性能反対!!
仮面が壊れたことで多少は鑑定が使えるようになったのか? あの仮面は鑑定防止なのか。いや、力を抑える為か。
「これほどの力、ルナも知らないわよ。あなたは一体」
「私は葵、それだけよ。……ゴメンなさい。力を制御する仮面を用意してみたんだけど、副作用で感情の制御が効かなくなったみたいね。私は九条クンと戦うつもりはないから安心して」
戦うつもりないって、今の今まで死闘を演じていたんだけど……。いや、これだけのレベル差だ。アオイにとっては戦いでもなかったか。
アオイが本気なら最初の一撃を避けられるわけがない。それに最後の一撃、これだけレベルの差があって武器はエクスカリバーだ。いくらルナのカムイがあったとは言えこの程度の怪我で済むわけがない。アオイのスキルに見えてる手加減が俺が生きてる理由だろうな。
アオイは何事もなかったようにエクスカリバーを仕舞い、溢れていた波動は収まって行く。
真の所有者にしてはエクスカリバーを制御できていない気がするけど?
……あの仮面がないとエクスカリバーを制御できないのか?
「――その剣、制御できていないのか?」
「ええ。今の私じゃ振り回されて戦いにもならないわ。困ったものよ」
隠すこともなくそう言うアオイから圧迫されるような力の波動は完全に消え去った。
本気で戦う気はないみたいだな。さっきまでと雰囲気が違い過ぎる。さっきまでは喚き散らかすヒステリック女だったのに、今は無口無表情のクール女に様変わりしている。
感情の制御が出来なくなる仮面って、何の罰ゲームだよ。
……とは言え、俺のせいでフィロが大怪我を負ったのは間違い事実だ。理由はどうあれ、主人であるアオイがキレても仕方がないだろう。理由はどうあれ。
「――先ずは謝る。俺達のせいでフィロが危険な目にあってしまった。本当にすまない。俺に出来ることなら何でもするつもりだ」
「……何でもねぇ。なら貸しにしときましょう。貴方が偉くなったら利子付けて返してもらうわ」
この主従は同じこと言ってるな。俺を偉くして何させるつもりだ。
「ジンをここに呼んだのはそれが目的?」
「フィロの件を言っているなら違うわよ。あの子は気にしていないし、私が余計な事したら怒るもの。まぁ、今の一撃でフィロの件はチャラにしてあげるわ」
一応俺も一撃入れたんだけどそれに付いてはノータッチか。ダメージにもならなかったのか。自信失くすぞ。
「それじゃ、なんの用だったんだ?」
「んー、もういいわ。大体わかったし。お疲れ、帰っていいわよ」
俺達にもう興味はないと言わんばかりにアオイはテクテクと壁の方へ歩いて行く。
え? マジで終わり? は?
「待ちなさいよ! こっちは全然納得行ってないわよ!」
「納得する必要はないでしょう? 私の用事は終わったの。だから帰っていいって言ってるのよ? ――それともまだやる?」
それは勘弁して欲しいな。もうカムイの効果も消えているし、仮面を外したアオイに勝てるとは到底思えない。
「いや、帰らせてもらうよ。また話す機会もあるだろう」
「そう。帰りは転移を使いなさい。ここの出口は私専用になってるからね」
アオイはチラリとこちらを見てそのまま壁の前まで進んだ。すると、壁が歪んで入口が現れた。
「それじゃ、また会いましょう、九条クン」
「あぁ、またいずれな」
アオイが壁の穴を潜るとすぐに壁は元に戻り、この場には俺とルナの二人だけになった。
周りに出口らしいものはないし、転移が無ければ出ることもできないのか。転移のこともバレているとはな。
「ジン大丈夫? 魔力が回復するまでまだ結構掛かりそうよ。魔石使う?」
「大丈夫だ。どうにか我慢できるし、朝には回復できるだろ」
「……強かったわね。あんなのがいるなら深層迷宮も攻略できるでしょうに」
確かに。先日の寄生種より遥かに強いだろう。深層迷宮がどの程度か分からないけど、アオイより強い存在がいるとは思いたくないな。
「あれが神具の所有者の実力って言うなら調子に乗っちまうのも分かるな」
俺が使っているのは精々八割の力ってとこだろうな。やはり正規の所有者が使うと真の力が使えるのか? ……エクスカリバーが特別ならいいけど。
「あれは別格よ。神具というより彼女の実力が飛び抜けているわ。たぶん、全盛期のルナでもキツいでしょう」
まぁレベル300超えてたしな。なんで鍛冶屋なんてやってんだよ。
「とりあえず帰るか。フーカ達が心配してるだろ」
転移は店の廊下でいいか。部屋に転移してまた落ちたら笑えん。
「なんだか、どっと疲れたわ。貴族はどうなったのかしらね」
そういやそのつもりで家を出たんだったな。
「ッ、行ったみたいね」
寄りかかる壁の先にあった気配が消え去った。
「本当に転移も使えているみたいね。まったく、どれだけチートなのよ」
私が彼ぐらいの時は死に物狂いでやってたのに、彼はどれだけ急成長しているのかしらね。
僅か数日で私の一撃を受け止めるなんてね。力が制御されていたと言っても大尉クラスぐらい軽く殺せる威力だったと思うけどね。
手加減のスキルで死にはしないけどあの一撃なら確実に昏倒していたはずなのに。
精霊神が何かやったんでしょうね。あれも卑怯よ。初回からナビゲートの最強精霊が付いてるってズルいでしょ。神具も複数扱っているみたいだし、あのインチキ神め、チートにも限度があるでしょ!
「っ、く。……ふぅー、ちょっと暴れすぎたわね。危なかったわ」
あの仮面は失敗ね。力を抑える代わりに自制を解き放つってどんな罰ゲームよ。あぁ、なんか色々口走った気がするわ。恥ずかしい。
本当は軽く今の実力を確かめて、詐欺神≪ヘルトス≫の狙いを探りたかったけど、彼は何も知らないみたいだしね。流石に精霊神を締め上げるのは今の私には荷が重いわ。
「まったく、剣を振るうだけでこれはないでしょうに」
床に広がった血だまりを眺めながら私はゆっくりと座り込む。
あと数分仮面を壊されるのが遅れていたら結構危なかったかも知れないわね。
まさか素手で壊されるとは思いもしなかったけど。女の顔を何だと思っているのかしら。
「はぁ、疲れた」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます