第58話 家族

「――転移完了っと。家の中にも転移できたな。この家の作りなら弾かれるかと思ったけどな」

何やら色々と仕掛けがあるみたいだが、流石に神具には勝てなかったか。


「ただいま。そして、おかえりなさい、ご主人様」

「あぁ、ただいま。ふぅ、やっと帰って来れたな。まぁ、まだ夕方だから予定通りか」


転移の指輪のお陰で移動が楽だな。他の人にバレないようにだけは気を付けないとな。


「ただいま。――いきなりフィロの前で使ってたでしょ? 口止めいるんじゃない?」

指輪を眺めていただけなのに俺の心を読むのは止めて欲しいな。

「分かっちゃうんだから仕方ないでしょ?」

この精霊神様はナチュラルに心の声に返答し始めてるんですけど。 


「ただいまです。リムリン、ご飯の準備できてないよね? 急いでやらないと」

「そうだった。……せっかくご馳走用意して待ってようって思ってたのに」

リムリが肩を落として項垂れていたので頭を撫でておく。


「気にするな。また今度頼むよ。今日はアイテムバックから食材出すから料理お願い出来るか?」

「もちろん! すぐに用意するね。フーちゃん手伝ってね」

リムリは気を取り直してフーカと一緒に食材を抱えて台所に行ってしまった。


「ジンも装備を外したら? ……大丈夫よ。もうあの子達は見ていないわ」

……敵わないな、まったく。


「ふーぅ。……気を抜いたら手が震えるな。はは、覚悟、決めてたつもりだったんだがな」


フーカ達から離れ、ようやく肩の力が抜けた。直接ブタの首を切り飛ばしたわけじゃないのに手に感覚が残っているみたいだ。


「大丈夫よ。ジンは間違ったことはしていないわ。ルナが保証してあげるわ」

小さな体で俺の頭を抱きとめてくれる。はは、ルナには全部お見通しか。


「…………次、また誰かが同じ目に会ったとしても、俺は同じことをやるぞ」

「ええ。ルナも今度は間違えないわ。ジンだけに怒らせたりなんかしないんだから」

「……今回のことで貴族と敵対することになるかも知れないぞ?」

「いいんじゃない? ジンは貴族嫌いなんでしょ。ならルナも大っ嫌いよ。誰が相手だろうとルナ達はジンの味方よ。――だって家族なんでしょ?」

はは、くそ。目が潤む。抱きついてやれ。


ソファに倒れ込むようにしてルナを抱えたまま寝転がった。

「くすぐったいわよ」

「少しぐらいいいだろ」

ルナの体に顔を押し付けて目元を隠す。……どうせだから匂いを嗅いでみると、凄くいい匂いがする。あぁ、ヤバい、これすげぇ落ち着く。


「……ジン?」

「…………」

「寝ちゃった?」


いや、起きてる。でも今は動きたくないだけだ。もう少しだけこのまま、


「いいわ。ゆっくりお休みなさい。今日は頑張ったものね」


ルナの匂いに包まれたまま、意識を失う俺の頭を優しく撫でてくれる気配があった。




「ジン様寝ちゃったんですか?」

ジンの頭を撫でていると台所からフーカが顔を出していた。

「ええ。疲れたみたいね。しばらくそっとしましょう」

「分かりました。…………負けません!」

ジンの寝顔を優しい表情で眺めていると思ったら、頬を膨らませて台所に戻って行った。


まったく、あの子は。でも、あと数年もしたらフーカは美人になりそうよね。私もうかうかしてられないわね。


「ご主人様寝てるんですね。わぁ、可愛い。――なんだか、ルナっちには気を許してるよね」

フーカと入れ替えに今度はリムリがやって来た。フーカと違い堂々と寝顔を眺めジト目でルナを見てくる。

「これが真のパートナーの実力よ」

「また言った! むぅ、私も負けないからね」

ジンの頬を軽く突っついてリムリも台所へ戻って行く。二人共まだまだ子供ね。……ジンの影響かしら、ルナも二人のことが娘みたいに思えてきたわ。



「――――ジンが守りたいって言うなら例えヘルトスを敵に回したってジンの家族を守るわ。ふふ、ルナのことはジンが守るのよ?」

「……ルナも家族だろ? 絶対に守るさ」

「起きてたの?」

「知ってただろ?」


もちろん。ジンのことなら何だって分かるわ。だから、


「ジンは家族を守ったのよ。恥じることも恐れることもないわ。胸を張りなさい。貴方は正しいことをした。ルナが保証するわ」


「――――ありがとう」


ジンの頭を撫でながら子守唄を歌う。フーカ達の料理ができる間のわずかな時間だけど、久しぶりにジンと二人っきりでゆっくりすることができたわ。



「頂きます!」

「「頂きますっ!」」


リムリとフーカの料理を皆で囲んで食べていく。


「うん! 美味い! 流石はリムリとフーカだ!」

大した物は渡していないのに普通に店で出せるレベルだ。うん。美味い。


「やったね、フーちゃん!」

「うん! ありがとうございます。おかわりもありますよ」

「ルナはそんなに食べれないからね。ジンが食べなさいよ」

「もちろんだ。こんなに美味いんだ、いくらでもいけるぞ」


皆でワイワイ言いながらの食事はいいもんだ。両親がいなくなってからは一人で食べることが多かったからな。

昨日の外食はフィロもいて楽しかったけど、やっぱり家で食べる食事はいいな。落ち着く。


「安心しなさい。これからもずっと続いて行くわよ。そうでしょう?」

「あぁ、もちろんだ。これからもよろしくな。フーカ、リムリ」


改めて宣言する俺にきょとんっとする二人だったが、すぐに満面の笑みを浮かべた。


「はい! これからもよろしくお願いします!」

「私は迷惑かけたから一杯恩返しする! これからもよろしくね! ご主人様!」


そうして俺達の楽しい夕飯の時は過ぎて行った。

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