第57話 フィロの苦悩

仲良く帰って行くジン達の後ろ姿を見送っているとミニャが隣にやって来た。


「ふにゃー、こうして見るとホント家族みたいだにゃー。フーカがもう少し成長したら勘違い者続出にゃね」

案外勘違いじゃすまないかも知れないけどね。あと数年もすればフーカは間違いなく美人になるわ。リムリはあのままの姿だから両親と子供で完璧ね。あぁルナ様もいるのか。……姑?


「フィロ姉、なんか失礼なこと考えてないかにゃ?」

「…………別に。それより姉はやめなさい。今はギルドの仕事中でしょう。それにアンタはもう私より大きくなってるんだから姉呼ばわりしないで」

「それは無理にゃ。フィロ姉はいつまでも私の姉にゃ。……小さくて可愛い姉にゃ」


こいつぶっ飛ばそうかしら。なんで私の周りには小さい人を可愛がる人ばかりなのだろうか。


「ギルド長!! やっぱりこれ、魔法によるものですよ!」

ジン達を見送っていると後ろから大穴を調査していたギルドメンバーから声が上がった。


「ミニャさん、やっぱりこれってアイツがやったんですかね? 流石にこりゃ、ヤバいですよ」

大穴を調べているのはギルドの職員と冒険者だ。これが魔法によるものという事はジン以外にありえないと思っているのだ。……実際にはルナ様だと思うけど。


「憶測で言うなにゃ。下はどうにゃ?」

「今カムさんが調べてます。……本当にカムさん一人で良いんですか?」

「いいにゃ。カムは仕事がしたくて堪らないって言ってるにゃ。今後、カムの手助けをすることはギルド長の命令で禁止するにゃ」


「ちょっとぉ!! ギルド長、さっきのことは謝りますってぇ!! お願いだから誰か手伝ってぇ!!!」


穴の底からカムの悲鳴が聞こえているが、皆降りるつもりはないみたいだ。……流石はギルド長、完璧な統制。っと思っていよう。


「カームー。早くしないとロープ回収するにゃーよ! さっさと調べろにゃー」

「人でなしぃ!!」


カムの悲鳴は無視して改めて大穴を見てみる。――かなりの大きさだ。私が小さいからそう思ってるわけでは決してない。


穴の底には今カムが引きずり出している屋敷の残骸らしきものが僅かに見える。しかし地面と同化してしまっている残骸はなかなか掘り出せないようだ。

恐らくルナ様の魔法は伝説の重力魔法なのだろう。ここ数十年で使えた者は皆無であり、伝説と言われる超高等魔法だったはずだ。

それをこの規模で。……流石は精霊神と呼ばれる存在ね。

この街、いえ、この帝国の全戦力を用いてもルナ様には勝てないでしょう。一体どうやってジンはルナ様の協力を得たのかしらね。


「ミニャ、この件は領主様にも報告するのよね?」

「そうにゃね。したくないけど、流石にブタが死んじゃったから報告しないとにゃねぇ。はぁ、いやにゃー」


この地方の全てを任されている領主、バレン・ガイアス辺境伯様。歴代最高の領主としてガルドの街でも評判がいい。

自身も貴族としての責務を全うするため深層ダンジョンに入る猛者であり、ダンジョンの管理もしているので冒険者ギルドとのやり取りも盛んだ。

その為ミニャはよく会っていて、その度に成果を求められるのでミニャは苦手みたいだけど。


「……今回の件はブタに全部責任を押し付けれない? 私の名前も出していいから。この件でジンの名前を表に出すのはマズイと思うのよね」

「ブタのせいにするのはいいけど、ジンにゃんの名前を伏せるのは無理だと思うにゃ。さっき報告が来たんだけど、ジンにゃん……ダンジョン制覇してから駆けつけたみたいにゃ」

「ダンジョンを?」


それって一昨日のじゃないのよね? え? 今日の朝から行ったダンジョン?


「確か十階層のダンジョンだったわよね? まさか午前中で攻略してたの?」

「そうみたいにゃ。確かに将校クラスの冒険者チームなら出来ないことはないにゃ。でも、ジンにゃんはフーカと二人にゃ。……フィロ姉は知っていると思うけど他のヤツらにとっては二人にゃ。それで、二度続けて二人だけでダンジョンを攻略したにゃ。これは領主様が絶対飛びつくにゃ」


確かにそれはあるわね。ここ最近はダンジョン攻略が遅れているって話だし、他の冒険者を焚きつけるにも持ってこいね。


「……でも、今回の件でジン達の立場はかなり悪くなるわよね? 流石に貴族殺しを黙殺するわけにはいかないでしょう」

「そうにゃよねぇ。一応ブタの悪事の証拠を集めるにゃけど、どうなるか分からないにゃよ?」

ブタの責任にできれば無罪放免にできるかしら。……無理よね。でもジンに何かあったらルナ様がお怒りになるわよね。


「ミニャ、どうにかしなさい」

「そ、それは流石に私に任せすぎじゃないかにゃー。頑張るけど、無理なものはムリにゃよ?」

「いいからやりなさい。さもないと街に大穴が開くかも知れないわよ」


私たちの視線の先には屋敷を飲み込んだ巨大な大穴があった。



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