第49話 怒れる獅子


ダンジョンボスの部屋から地上に戻る最中にステータスを確認した所、ガリラ十階層を制覇したことで新たに魔力充填なるスキルをゲットしていた。

しかもこれはレベルがない。つまりユニークスキルだろう。ダンジョン三つ目制覇だから良いスキルをくれたってことかな。


能力は魔力が存在するもの同士の魔力を移すことができるみたいだ。例えば俺の魔力を魔石に貯めることが出来たり、魔石の魔力を魔石に移したり出来るみたいだ。ただ小魔石にはほとんど魔力を貯めることが出来なかった。貯めるならボスが落とす魔石じゃないと容量が小さいみたいだ。


あとはフーカと魔力を受け渡しをすることも出来た。フーカの魔力量は少ないけど、前回の結合ダンジョンのようなギリギリの場面ではヒール一回分だとしても助かるからかなり良いスキルだ。

ちなみにルナには渡しても意味がなかった。ルナの魔力回路は俺と繋がっているらしく、ルナが回復しても俺が回復しても同じみたいだ。


これからはボスの魔石に余った魔力や小魔石の魔力を貯めていこう。もしもの時に役立つだろう。ただ小魔石は一番の稼ぎ頭だからなぁ。今回の分だけはスキルの確認に貯めてみたけど、今後は資金を見ながらになりそうだ。


そんなこんなしながら五階層まで戻って来ると前から冒険者の風貌の男が走って来ていた。

このダンジョンは既に制覇しているので魔物に襲われているわけでもないのに全力疾走だ。


「お、お前がジンだな!!」 

息を整えることもせずに汗まみれの男が詰め寄って来た。汗が飛び散りそうなので、フーカを手で後ろへと誘導する。


「お前の奴隷が拐われた! うぐ!!」

男の言い終わる前に俺は男の胸ぐらを掴んでいた。


「どういうことだ!!」


「ぐっ、いいから最後まで聞けぇ! いいか! お前の奴隷が連れ去られて、それを止めようとしたフィロさんが重傷だ!! いいから早く街に戻れ! って置いてくな!!」

男の話が終わる前に俺達は走り出していた。


「フーカ、着いて来れるな?」

「はい!」


ボス戦で消耗したフーカの体力が心配だが、後ろから追い掛けてくる冒険者がいる以上転移の指輪は使えない。いや、いっそ使うか?


「(バカなこと考えていないで走りなさい。まずは事実を確かめてからよ)」

ルナの言葉で少し落ち着いた。確かに初めて会ったヤツのことを信じきるわけにはいかない。だけど、嫌な予感がある。ダンジョン自体は停止しているし、既に五階層まで戻って着ている。フーカにはちょっと無理をしてもらおう。



それから教えに来た冒険者を振り切り、ダンジョンを出て森に入ったところで転移をして街近くの森へとショートカットした。

それから街に駆け込むと俺達を待っていた冒険者に指示されて医療院に辿り着いた。


医療院は冒険者で溢れていたが、誰かが一括すると人垣が割れ道ができた。その道を進むと一つの病室へと向かい、待っていた青年が扉を開けてくれた。


「ジンにゃん。やっと来たにゃか。……ダガンはどうしたにゃ?」

「教えに来た冒険者なら振り切って来た。リムリはどうした。フィロは?」


俺が前に進むとミニャが道を譲り、そこには血まみれのフィロが横たわりこちらを見ていた。


「ジン、ゴメン、なさい。リムリを、守れなかった……ごめんなさぃ……」


目に大粒の涙を浮かべるフィロにその場にいた全員が息を呑むのがわかった。


なぜフィロが謝る、なぜフィロが泣く。悪いのは俺だ! リムリは貴族から狙われているって知っていたんだ! それなのに俺が守らず、フィロに押し付けてしまったんだ! 悪いのは俺じゃないか!


「ッ! フィロすまない! 俺が軽はずみなことを頼んでしまったから。――ありがとうッ! こんなになるまで俺達の為にありがとう。だからあとは――任せてくれ!」

俺の言葉に体の力が抜けたフィロは僅かに微笑んでくれた。


犯人は間違いなくあの豚野郎だろう。なぜだ? なぜこんな真似ができる? フィロが奴隷だからか? 貴族は他人の奴隷を簡単に殺すと聞いた。ダメだ、頭が沸騰しそうなぐらい怒りがこみ上げて来る。それなのに、こんな状態のフィロを前にしているのに、俺は冷静だ。――豚を殺す方法が次から次に浮かんでくるのだから。


「(落ち着きなさい! ジン! 怒りに身を任せてはダメよ!)」


分かっている。リムリの命が掛かっているんだ。失敗は許されない。


「ジン様」


そんな悲しい顔をするなよフーカ。安心しろ、すぐにリムリを取り戻してやる。


「じ、ジンにゃん、落ち着くにゃ。リムリのことは冒険者ギルドの方からも」


落ち着け? このまま待てと? ……は?  



「――――ふざけてんじゃねぇぞッ!!!!」


ヤバい頭が沸騰しそうだ。

憎い、あの豚の近くにリムリがいると思うだけで怒りが抑えれない。


「ッ俺の家族に手ぇ出してただじゃ済まさねぇ!! 俺の家族を守ろうとしてくれたヤツに手ぇだしてただで済ませれるわけねぇだろがっ!!!」


「落ち着け! ひっ」

俺を止めようと近付いてきた冒険者が俺の顔を見るなり悲鳴を上げたがそんなこと気にしてる場合じゃない、そうだ、先ずやるべきことがあるだろう。冷静になれ俺! 優先順位を間違うな。


「……すまんが全員出て行ってくれ、俺達だけにしてくれ」

いきなりの俺の発言に皆が戸惑っていた。時間がないんだ。抵抗するなら力ずくで追い出す。


「みんな、お願い。ミニャ」

「分かったにゃ。皆出るにゃ、さっさとしろにゃ!」

しぶしぶ皆が出て行く中、未だ部屋に残っている奴がいた。


「お前らも出てけ」


「え、いや、しかし」

「大丈夫。お願い」

「し、しかし、く、数分だけです、それ以上はダメですよ」


抵抗していた最後の二人がフィロに言われて出て行く。白衣みたいな服を着ていたが冒険者なのだろうか?


部屋には俺、ルナ、フーカ、フィロの四人だ。

時間はない。早くリムリを助けに行かなくてはならないんだ。


「ルナ、頼む」

「了解。初めまして、フィロ。ルナは何度も見てたんけど、ね」

「ぇ? 精霊?」


ルナが姿を見せフィロは驚くが同時に納得したような様子だった。


「時間がない。急いでくれ」

「りょーかい。それじゃ動かないでね。――癒せ精霊の息吹、リカバリー」


ルナの魔法が発動しみるみる内にフィロの怪我が治っていく。魔力量が大幅に増えているからどうにかなるだろう。


「う、嘘。これ、上位魔法? まさか、精霊王? いえ、精霊神様?」

「そうよ。ルナは精霊神ルナ、今はジンのパートナーよ。よろしくね」


フィロの裂傷はあっという間に治ってしまった。腕の傷と胸の傷が完治まではいっていないが魔力を使い果たすわけにはいかないので、今回はここまでにする。


「全部終わって魔力が残ってたら完全に治すよ。それより、時間がないんだ、フィロ。俺はどこに行けばいい。どこに行けばリムリを救い出せる?」

俺の言葉にいろいろ言いたい事があったみたいだが、それを飲み込み真っ直ぐに俺を見た。


「東門から出て真っ直ぐ行ったところに青色の大岩があるわ。そこから南に向かうとクロボロを放牧している牧草地があるわ。その先の丘の上にブリッタの屋敷があるわ。リムリはそこのはずよ」


「分かった。ありがとう。リムリの為に無理してくれて本当にありがとうな。この恩は必ず返すよ」


行くべき場所は分かった。東門から抜けた先ならさっきのダンジョンが近いだろう。


「ルナ、フーカ」

「はい!」

「いつでもいいわよ」

フィロにはルナの姿も見せたし今更隠し事もないだろう。時間が惜しいし、ここでいいだろ。――転移!



「……フィロ姉、ジンにゃんは?」

「もう行ったわ。――出会って数日だけど最初に会ったときとは比べ物にならない成長ね」


「え? フィロ姉? その体? え、えぇ?」


「アンタもジンの治癒魔法は知ってるんじゃないの? ダンジョンから帰った時にフーに使っていたんでしょ?」

「そ、それは知ってるけど、あの怪我をこの一瞬で? うそでしょ」


「なんだ! フィロさん治ったのか!」

「マジかよ! みんな! フィロさんは無事だ! ギルド長の早とちりだったみたいだ!」

「にゃん!? 私のせい!!」

「そう言うことにしときなさい。さぁ、私達も行くわよ」


「にゃん? どこに?」

「決まってるでしょ? あの男、ただじゃおかないわよ。ジンが殺さなくても私が殺すわ」

「え? フィロ姉、左手動くの?」

「ええ。ジンが一緒に治してくれたみたいね。久しぶりにまともに体が動かせるわ。ミニャ、私の装備持ってきて」

「ッ! はいにゃ!」


「さて、お礼参りに行くとしましょうか!」



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