第45話 ガリラ迷宮
「よし! これで最後!」
最後の大鼠を切り捨てて背後を振り返った。
「ふー、どうだ? フーカ、結構落ちてるか?」
「はい。ここだけで魔石三個と皮が二枚です。大量です!」
現在はダンジョン二階層。入口で貰った地図があるから迷うこと無く進んでいる。
初めはフルンティングで倒していたのだが、この階層じゃオーバーキル過ぎるので山賊王の太刀に変えた。
このダンジョンでも山賊王の太刀の効果は絶大だ。まだ入って一時間程度だが、魔石二十個に大鼠の皮が十五枚だ。フルンティングで倒してもたまに皮が残るぐらいでほとんど集まらなかった。
「流石は神具だな。破格の性能だ。魔物の強さも大したことはないし、ここからはフーカにも戦ってもらうかな。夕方には帰るつもりだから少し急いで行こう」
帰りは転移の指輪があるから一階層まですぐに戻れるし、地図があるから五階層までは急げば一時間で行けるだろう。
「とりあえず五階層まで敵の強さを確認しながら急いで行ってみよう。ルナ、魔物の少ないルートで頼むな」
「りょーかい。任せて」
ルナには地図を持たせて案内役を任せている。ルナの気配探知を使えば魔物との戦闘を避けながら進むことも出来るし、突然生まれた魔物にも対応が可能だ。
このペースなら夕方までにこのダンジョンを制覇できるだろう。
「前回のダンジョンと比べると魔物の強さも大したことありませんね。ジン様、良ければ私が先頭を進んでいいですか?」
魔石と素材を受け取りフーカの頭を撫でる。一緒に倒して時間短縮を狙おうと思ったけど、フーカのレベル上げも重要か。一応俺が倒した魔物の経験値も少しは入っているみたいだけど、やはり経験は重要だからな。フーカも強くなってるし、任せても大丈夫か。
「よし、なら先頭はフーカに任せるぞ。だけど無理は絶対にダメだからな。俺も後ろに付くから一人でやろうとするなよ?」
「はい! それでは行きますね!」
ルナの案内の元、フーカが走り出す。少し走るとルナから敵が三体いると言われたが、フーカは止まらない。俺もいつでも駆けつけれるように付いて行くが、――無駄に終わった。
「はぁ! てぃ! やぁ!」
まとまっていた大鼠とすれ違いざまにフーカの刀が三回振られ、大鼠は絶命した。
「わぁ! この刀凄いです! 軽いし、スパスパ切れます!」
流石は日本刀をモチーフしただけはある。いい切れ味だ。でも、軽く感じるのはフーカ自身が強くなっているからだろうな。動きもかなり良かった。
前回は満身創痍の状況で戦っていたから気付けなかったけど、今のフーカを見てミニャとフィロが太鼓判を押した理由が分かった。
「よくやったな。フーカも強くなったものだ。でも一人で突っ切るのはダメだぞ? ……まぁ、このダンジョンなら問題ないかな。……よし、どうせだ。フーカの実力を測るのに丁度いいし、このままフーカには先頭を任せる。倒せるって思ったら好きにやれ。ただし、危ないって感じたらすぐに下がること! 危険察知も重要な実力だからな?」
「はいっ! 頑張ります!」
「それじゃルナはフーカのサポートね。ルナの声を聞き逃さないようにね」
「分かりました。よろしくお願いします!」
「それじゃ、改めて、行くぞ!」
「「おぉ!」」
「んにゃー、久しぶりに掃除なんてしたから体が痛いにゃー。今頃ジンにゃんはダンジョンに入ってるかにゃ」
「――ギルド長、真面目に仕事してください。というかいい加減受付嬢は止めて下さいよ。こっちの仕事も立て込んでるんですよ」
「なにを言うかにゃ。ギルドの仕事はカムの仕事にゃ。何のための副ギルド長だと思ってるにゃ?」
「何の為もなにもありませんよ。ギルド長のサポートでしょう! なんで僕がメインで仕事してるんですか!」
「チッチッチ、それは今までのギルドの方針にゃ、私がギルド長になった以上、私のやり方でいくにゃ。つまり、ギルド長はダラダラ仕事するにゃ!」
「そんな話が通るわけないでしょ! ……はぁー、もういいです。ギルド長は有事の際に馬車馬の様に働いて元を取ってもらいますから」
「それでいいにゃ。それじゃ私はダラけるにゃ」
「はいはい。あぁ、これ、頼まれてたロックの悲劇の資料です。全然資料が残ってないので、あまり役に立たないと思いますけど」
「んー、情報はなしかにゃ。いいにゃ、また見つかったら教えて欲しいにゃ」
「了解しました。それで? この資料も彼の為ですか? 最近は随分と彼の為に働きますねぇ」
「何のことか分からないんだけど?」
「素になってますよ。別に僕はいいんですけどね。ただ、他の冒険者の目もあるんですから、あまり贔屓しすぎるのは良くありませんよ? 今回もダンジョンの世話をしたんでしょ? 確かにこの間のバルドさんとの腕試しは凄かったし、その後のダンジョン制覇も初心者冒険者としては快挙です。ですが、ギルド長とフィロさんが目を掛けるほどの人物なのですか?」
「さーてにゃ。これから分かるんじゃないかにゃ。新米冒険者が二度続けてダンジョン制覇したら流石に認めるにゃ、疑っている者もにゃ」
「……知ってたんですね。冒険者の中には救援に向かったギルド長達が制覇したダンジョンをクジョウさんが勝手に自分が制覇したと言っていると噂されています。そしてその声の方が強い」
「言いたいヤツには言わせとくにゃ。実力を測るのも冒険者の努めにゃ」
「……正直、僕は彼が強いとは思えないのですが。腕力は確かに強かったですけど、彼からは強者の凄みを感じませんし、装備の――――そう言えば今朝彼と彼の奴隷を見たんですけど、アオイ工房の装備でしたよ! 曹長クラスの冒険者でもなかなか売ってくれないって言うのに、あれって流石に妬み買いますよ。そうですよ、装備のお陰で――「それ以上は言うなにゃ」……すみません」
「はぁー、まさか他の連中まで装備にお陰って思ってるにゃか? アオイ工房の装備は確かに破格の性能にゃけど、それを操るのは装備者にゃ。フィロ姉が売らないのはその域に達していないからにゃ。他人を妬む暇があるなら修行し直すにゃ」
「申し訳ありません」
「大体にゃ、あの結合ダンジョンから生還できただけで快挙にゃよ? 通常の軍曹クラス冒険者チームじゃ十階層まで到達できてないにゃ」
「つまり彼は一人で軍曹クラスの冒険者チーム以上と?」
「んー、一応二人で、って言っとくにゃ。フーカも随分と強くなってたにゃ。普通に戦ったらカムじゃ勝てないにゃよ?」
「……それは流石に納得できませんけど。そう言えばあの奴隷もアオイ工房の装備でしたよ」
「奴隷じゃなくてフーカにゃ。そう呼ばないと後々後悔することになるにゃよ? フーカはジンにゃんの家族にゃ。たぶん自分以上にお金を使ってるにゃよ」
「は、はは。それは流石に――。……それが本当なら彼は我々の常識からかけ離れていますね」
「そんな考えだから少尉になってもフィロ姉から武器を売ってもらえないにゃ。家族と認識すればおかしくないにゃ」
「うっ。僕は別に奴隷批判をしたいわけでは」
「あーいいにゃ。その手の話はウンザリにゃ。それで、そっちの資料はミノタウロスの方かにゃ?」
「あ、いえ。これはもう一つの案件の方です」
「はぁー着いたなぁ。十階層まで四時間程度って凄いんじゃないのか? まだ昼ぐらいだろ?」
フーカが気持ちいいぐらいスパスパ切り裂きながら走って行くのでついつい俺も競って魔物狩りを初めてしまった。五階層まではあっという間に付いてそこからはルナの気配探知をフル稼働して魔物がいない空間を調べながら進むとすぐに階段を発見し、どんどん下層へと進んだ。
「はぁ、はぁ、はぁ、ちょっと疲れました。で、でもまだ頑張ります!」
「フーカは少し休みなさい。全くジンが本気で動くからフーカが無理してるじゃない。自分が言ったこと忘れたの?」
「面目ない。フーカ少し休め、俺とルナで警戒するからさ」
「申し訳ありません。すぐに回復します」
いくら強くなったとは言ってもこんな小さな体で戦っているのだ。レベルが上がり体力も肉体的にも格段に強くなっている俺に合わせていたら体力が持つわけがないよな。……途中からフルンティングでバスバス斬りながら進んでたからな。
「ゴメンな。これからはもっと慎重に行こう」
「いえ、私が強くなればいいんです。ジン様は私に合わせる必要はありません。どんどんお進み下さい。私は必ず付いて行きます!」
なにこの子、健気なんですけど。とりあえずいつも以上に撫でておこう。
「はぁー、フーカにはジンを抑える役割を担って欲しいんだけどね。二人に突っ走られたらルナはどうすればいいのよ」
「ルナがいるって分かっているから無茶ができるんだよ」
「ルナ様いつもありがとうございます!」
「あれ? 今の会話ってそういう流れだったかしら?」
三人でひとしきり笑い、十階層攻略を再開した。
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