第44話 フィロ姉さん

「それじゃ、行って来るぞ。夕方には一度戻るから。あんまり頑張り過ぎるなよ?」

「リムリン、行ってきます。頑張ってね」

「何かあったらフィロかミニャの所に行きなさい。あの二人なら無下には扱わないでしょう」

「うん。私は大丈夫。みんなの方が危険なところ行くんだから気を付けてね。フーちゃん任せたよ」

リムリに見送られて俺達はダンジョンを目指す。


「(あの家ならその辺の強盗じゃ侵入も出来ないわ。安心しなさい)」

「(そうだな。……一応フィロに声を掛けて行こうか)」

「(はぁ、それでジンが安心するなら良いんじゃないの?)」

そういう訳で開店前のフィロの店に寄ることにしたのだ。


「したのだ。じゃないわよ! 私だって奴隷なのよ? 一応店主の世話もしてるんだからね?」

「いや、すまん。でもこの街で頼れる人物はフィロしかいないんだよ。なんちゃって猫娘は強さ以外あてにならんし。フィロはちっちゃいけど強いんだろ? それに以外と世話焼きだし、ちょっと気にかけてくれるだけでいいから頼むよ」


「ちっちゃいは余計よ。はぁ、いいわ。ご近所のよしみで様子見ぐらいしてあげるわよ。でも、ジンもリムリを信頼してあげなさいよ」

「信頼はしているさ。でも、子供を家に残していく親の気持ちになってくれ。それもまだ二日目だぞ? 初めてのお留守番なんだぞ?」

「はぁー。あんたって……。もういいわ。ジンお父さんはさっさと仕事に行きなさい。あとの事はフィロ姉さんがやってあげるわよ」

「すまん恩に着る。帰りにまた寄るよ」


すごい疲れた顔をしているフィロに礼を言って改めてダンジョンに向かうことにした。



「ここがガリラ十階層ですか?」

ミニャに聞いたダンジョンの近くに来るとダンジョンの入口付近にスーツを着た中年の男性が立っていたので、確認してみた。


「はい。クジョウ様ですね? ギルド長から連絡は受けています。一応一通り説明するように言われていますのでご説明します。――このダンジョンは現在五階層までは攻略されており、そこまでの地図が作成されています。代金はギルド長が負担するとのことですので、こちらをどうぞ。魔物は大抵が大鼠(ジャイアントラット)で下の階層で黒熊(ブラックベア)の目撃情報があります。お気を付けください」


既に冒険者が入ったダンジョンの場合はその攻略進度を教えてもらうことができ、地図書きができる冒険者なら地図を作り、ギルドに売るので、地図を購入することができるダンジョンもあるそうだ。魔物の情報は無料で教えてもらえるとのことだ。

五階層まで攻略済みとはいえ、ダンジョンは制覇されるまで絶えず魔物を生み出すので潜る時は一階層から攻略をする必要がある。だけど、地図があれば最短距離を進むことができるので楽だな。


「ありがとうございます。他に冒険者が入っているってことは?」

「大丈夫です。基本的に浅いダンジョンはひと組しか入りません。ダンジョンの入り口に私の様に警護の者がいる場合はその者が把握しておりますが、誰もいない場合は入られる時にこの様に入口に印を付けて下さい。出る時はこれを消すことを忘れないようにお願いします。これで複数のチームが同時に入ることを防ぎますし、救援隊が必要な場合などスムーズにいきます」


「分かりました。フーカも覚えて置いてくれな」

「はい! ダンジョンに入る際は私が書きますね」

俺は知らなかったが実は、最初のダンジョンに入る際もフーカはこの印を書いていた。その為、ミニャ達救援隊の到着が早かったらしい。

「それではご活躍お祈りしております」



ご主人様達が出掛けて私は新しい家に一人になった。


「ふぅー。ちょっとわざとらしかったかなぁ」


ご主人様は普通の人と奴隷の扱い方が違うとは商会にいた時から分かってはいたけど、ここまでとは思わなかった。

「奴隷にこんな大金持たせる主人って他にもいるのかな? お店を任せてるなら分かるけど、雑用の奴隷に金貨って」

渡された麻袋を見ながら、先ほどのやり取りを思い出して笑ってしまった。フーちゃんも初耳だったのか呆然としていた。


「私もあんな顔してたのかな?」

出来るだけご主人様の希望にそった奴隷を演じようと思ったけど、むしろ素の自分をさらけ出す必要があるとは思わなかったなぁ。

フレンドリーにそして明るく接する様にしないと。フーちゃんはまだまだ硬いから私がもっと普段のフーちゃんを引っ張り出さないと。

でも、奴隷の常識が邪魔をするんだよね。正直昨日の夜も、朝のご飯もご主人様と一緒に食べるなんて心臓が破裂しそうなくらい緊張したものだもん。


「それにルナ様が精霊神様ってどういうことだよね」

伝説、おとぎ話、空想、精霊神は本当に存在するのかって言われていたのに、まさか私の前に現れるなんて。それもご主人様に仕えてるって自分で宣言していたし。

「本当に何者なのかな? ジン様は」

たぶん私如きが考えても答えは出ないんだろうな。私に出来るのは少しでもご主人様のお役に立つこと。先ずは掃除! そして帰られる前に食材の買出しとすぐに作れる様に準備しないと。

「フーちゃんとミニャさんがある程度綺麗にしてくれてるから、私はそれを更に綺麗にする!」


水も朝方フーちゃんと汲みに行っているので掃除にも料理にも抜かりはない。

「それにしてもフーちゃんは本当に強くなってたなぁ」

水汲みに行く時、通常のバケツを持って行こうとした私に対して、フーちゃんは樽を抱えてきた。フーちゃんでも冗談するんだって思っていたら本当に樽に水を張って持ち帰ってしまった。 


「普段持つ荷物はもっと重いはずだからこれくらい大丈夫だと思ったの」

なんでもないことの様に言っていたけど、雑用奴隷なら大人の男でも樽で水を汲みに行くことはないと思う。

それにご主人様は破格のアイテム、アイテムボックスを持ってるからフーちゃんが持つ必要はないと思ったけど、人目がある場所では持つ必要があるかららしい。

フーちゃんはダンジョンで頑張ってる。なら私はこの家で頑張らないと。掃除を終わらせたら、今日はちょっと豪勢な食事を用意しよう。お金は自由に使っていいって言われてるし、少しぐらいいいよね? よし! そうと決まったら頑張って掃除するぞぉ!


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