第29話 寄生種
「ッ! コイツがボスか!!」
そこには女王蟻がいた。体長八メートはありそうな馬鹿でがい蟻が。
「ここまで大きいとちょっと気持ち悪いわね。そっちにも蟻が二匹いるわよ。軍隊蟻とも鉄蟻とも違うわ」
女王蟻のそばから二体の蟻が出てきた。
「恐らく
最強の蟻ねぇ。今の俺なら恐るるに足らん。
「フーカは全体を警戒しろ。基本的に俺が戦う。ルナは支援任せたぞ」
「はい!」
「りょーかい」
二人に笑いかけて蟻に疾走する。先ずは兵隊蟻から仕留める。
俺が動き出すと同時に機敏な動きで兵隊が前に出てきた。他の蟻より素早いがそれでも遅い。仕留める!
邪魔な両腕を切り飛ばして首を切断しようと蟻の腕に剣を走らせるが、その一撃は兵隊蟻によって完全に防がれていた。
「な! ッチ!」
俺の動きを止めたところに、もう一体が横から鎌状になっている腕を振り下ろして来たので後ろに下がった。
どうやらあの鎌状の腕でフルンティングの一撃を受け止めたみたいだ。
「どんだけ硬いんだよ! でも殺ってやる!」
再び接近して今度は突きを放つが、蟻は鎌を上手く使い受け流していく。受け流されたまま力任せに横に振り抜くと今度は鎌で軌道をずらし受け止めていた。さっき防がれた時も同じようにしていたのか。
「蟻に剣術で負けたか。素人とはいえ悔しいな」
俺の剣を受け止めた蟻と俺に攻撃をしてくる蟻を見切りながら更に数合打ち合ったが蟻の連携が邪魔で攻勢に出れない。
「ジン様! 私が片方受け持ちます!」
ダガー片手に蟻の反対側に来たフーカが防御担当の蟻を攻撃して注意を引いていた。防御担当と言っても攻撃をしてくるし、今までの蟻とは比べ物にならないほど強い。正直フーカには荷が重いが……。
「――フーカ三分任せる。それまでに片付ける!」
視界からフーカを消し、目の前の蟻一匹に集中する。もう一匹の蟻はフーカが絶対に止める。なら俺はそれを信じて一秒でも早くこの蟻を殺す!
アイテムボックスから山賊王の太刀を取り出し、右手に山賊王の太刀を左手にフルンティングを持つ。
「行くぞアリンコ! 武器二本持ってるのが自分だけだと思うなよッ!」
二刀流の戦い方なんて知らない。だけど力の指輪のお陰で片手でも軽々振ることができる。神具二本の乱舞をくらえぇやぁぁ!
半ばヤケクソで太刀を振り回し剣を振り回す。地面に刺さり土ごと蟻をぶっ叩き、続けざまに逆の剣で切りつける。蟻は手を出すことができず俺のなすがままになっていた。気づくと蟻の片腕がなくなっていた。
太刀で片腕を押さえフルンティングで首を切り飛ばす。甲殻が硬くなっていたわけではないので簡単に斬ることができた。
腕さえなければ防御もできない、防御ができなければフルンティングの敵じゃない!
「フーカは!」
フーカはギリギリところで粘っていた。万全の状態なら軽く翻弄していただろが、今や満身創痍だ。動きにキレがなく、体もふらついていた。しかし、それでも全霊を持って自分の役割を全うしていた。
すぐさま駆け寄りフーカに襲いかかっている蟻の背後から太刀を振り下ろす。だが、直前で気付いた蟻が素早い動きで防御した。
しかし、その防御している腕をフルンティングで切り飛ばす。
「受けさせなければ斬れるんだよ。――これで終わりだ!」
フルンティングで首を飛ばし、兵隊蟻二匹は倒れた。
「フーカ大丈夫か!」
「はい、大丈夫です」
直撃はもらっていないみたいだが、随分とボロボロになってしまっていた。
「――あとは任せろ。お前のご主人様の格好良いところしっかりと見ておけ!」
「――はいっ!」
女王蟻は最初の場所から全然動いていなかった。本当にコイツがボスなのか? 周りから他の蟻が出てくる様子もないようだ。
「妙ね、さっきまでは大きい気配を感じてたのに大分弱くなってるわ」
「とりあえずコイツを殺せば終わりなんだろ? もし違ったらちょっとキツいが」
これでただの雑魚アリで、こいつの体の下に階段がある、とかだったら流石に限界だろうな。
ルナを肩に乗せゆっくりと女王蟻の元に近づいて行く。
すでに攻撃範囲内に入ったが女王蟻はこちらを気にする様子もない。
「敵意がないヤツを斬るってのもやりにくいもんだな。ふぅー。――これで、終わりだッ!」
フルンティングで女王蟻の腹を切り裂く。ギギギィ! っと鳴き叫び暴れる女王蟻を更に数回斬りつけると動かなくなった。
「これで、終わりか?」
「――――まだ気配が消えてな「ぎぎぎぎぎぎぎぎぎ!」」
ルナの声と同時に女王蟻の方から違う蟻の鳴き声が響いた。
「なッ!」
それは女王蟻の腹から飛び出してきた。
「ぎぎぎ、ギギギギィ!」
「まさか寄生種!? ジン! マズイわよ! コイツを野放しにしたら街ぐらい軽く滅ぶわよ!」
ルナの驚きの声に事態が最悪であると理解してしまった。
「寄生種ってなんだよ! こいつはッ!」
見た目は蟻に似ている。頭が蟻で体は人に近い、ただし体の表面は蟻の甲殻で覆われている。
「通常魔物はダンジョンが産み落とすわ。だけど寄生種は魔物の体内に発生して宿主の体の中で成長し生まれるわ。完全に違う種の場合もあるし、全く解明されていないわ。ただ言えるのは成長しきった寄生種は凄まじく強いってことよ」
「つまり成長しきれていない今、コイツを殺す必要があるってわけか」
生まれたばかりの癖に、さっきの兵隊蟻より強そうだぞ。
蟻人種Lv40 王蟻Lv40
・??? ・???・???
つい癖で鑑定をしてみると何故かステータスが確認できた。一部鑑定できていないが今までは魔物相手に全く表示出来なかったのに。蟻人種になっているからか? 種? 魔物の種類ってことか?
「なんでか鑑定できたぞ。かなり強い。ダメージを負ってるみたいだけど、たぶん勝てないぞ」
王蟻(キングアント)の甲殻に数箇所切れ目が入っている。さっき女王蟻を攻撃した時に王蟻まで切っていたのかも知れないな。
「……ジンはフーカを連れて逃げなさい。ルナが足止めするわ」
「馬鹿言うなよ。魔力も俺に頼っている精霊が何言ってんだ」
「……封印を解けば一時的にルナの力が使えるはずよ。だから」
「今まで使って来なかったってことは使えない何かがあるんだろうが。俺はルナを見捨てるつもりも死なせるつもりもねぇ!」
フルンティングで斬ってダメージが与えられたんだ。殺せないわけじゃない。
山賊王の太刀をアイテムバックに入れ少しでも身軽になる。さぁ頼むぞ、力の指輪、フルンティングッ!
「おおらあぁァァ! ッ! ラァ!、ッくそ!」
切り掛ろうと渾身の力で飛び剣を振るうが、王蟻はスっと体をずらし剣を避ける。そのまま剣を切り返して振り上げるがそれすらも王蟻は軽々と避けてしまう。
そして振り上げ隙だらけになった俺の腹に王蟻の拳が深々とめり込んでいた。
「ごは、ぐ、ゴホッ!」
「ジン!」
「ジン様ァ!」
衝撃に倒れた俺を庇うように前に出るフーカとルナ。
「ギギギ」と鳴きながら近づいて来る王蟻。
どうにか立ち上がろうとするが今までのダメージが足にきてすぐには立てそうになかった。
くそ! 立ち上がることも出来ないのか!
「っ二人共逃げろ! このままじゃ全滅だ! ルナ! フーカを連れて逃げてくれッ!」
跪く俺にできるのは声を張り上げることだけだった。しかし、俺の声を聞いた二人は笑いかけてくれるだけだった。
「ルナより先に死なせるもんですか」
「元より私の全てはジン様に捧げています」
二人は王蟻を睨み、王蟻もまた二人を敵と定めた。
「くそ、ヤメろ! がぁぁ、うごけ、殺させねぇぇ! 絶対にッ!」
歯を噛み締め王蟻を睨む。そして王蟻がその拳を振り上げ、まさに絶対絶命の時だった。
「どうにか、間に合ったみたいね。……にゃー」
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