第28話 フルンティング
「はぁ、はぁ、はぁ。くそ、どこまで続いてんだよ!」
「ジン! 次、右方向! 軍隊蟻と鉄蟻の混合で十体来るわよ!」
「了解ッ! フーカ無理するな。これくらい俺がなんとかしてやる」
「いえ、まだ大丈夫です! やります!」
既に先ほど料理を食べてから四階層降りて来ている。
ルナの言葉が正しければ既に十階層になるはずだ。もし間違えていたとしても六階層ってことはありえない。
入るダンジョンを間違えていたという事か。くそッ!
「オラァァ! 鉄は俺がやる! フーカは注意を引くだけでいいからな!」
先制で太刀を振り下ろしその勢いのまま隣のアリを斬り裂く。
六階層から既に四時間が経過している。ルナの気配探知を使って出来るだけ戦闘は避けて階段を目指して進んで来た。
しかし、この十階層に入ってからはあちこちに気配があるらしく今まさにアリの群れに押し寄せられているところだ。
「はぁはぁ。力の指輪様々だぞ。握力が持つ限り振り回してやるぞ! コラァ!」
すでにこのダンジョンに入って七時間近くなるはずだ。特にこの階層に入ってから連続で戦闘しているので俺より、フーカの消耗が激しい。あんな小さな体で体を張って注意を引いているんだ。俺が先に根を上げられるわけねぇだろ!
フーカにかく乱されていた最後の二匹を両断して膝を付いた。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「ジン! 大丈夫! くッ! 癒しの光よ。ヒール」
ルナの魔法で体の傷みが和らいで行く。アリ共はそこまで動きが早くないので攻撃をもらうことはないがカスリ傷や太刀を振り回すことでの筋肉疲労が問題だった。
「助かった。フーカにも頼む」
「わ、私はもういいです! 残りはジン様の為に残して下さい!」
ルナには戦闘に参加させず、回復要員としてのみ徹してもらっていた。
ここまで来るのに回復魔法を何度も使っていたのでもう魔力がほとんど残っていなかった。
俺のレベルは既に二十七まで上がっていた。レベルが急激に上がって魔力の回復速度も上がっているみたいだけど、それでも回復が追い付かないほどの連戦を強いられていた。
魔物を殺した数ももう分からないほどだ。冒険者階級が何時の間にか伍長にまで上がっていた。魔物の討伐数も階級に関係するみたいだ。
フーカのレベルも十八になっている。経験値は実際に倒している俺の方が多いみたいで、徐々にレベルに差が出てきている。
「ふぅー。ルナ」
「ええ。癒しの光よ。ヒール」
ルナの魔法がフーカに注ぎカスリ傷などを癒していく。これでまたしばらくは治癒魔法も使えないな。
「ど、どうして! 私の事はもういいのです! 私はこの命尽きるまで戦い抜きます! ですから私のことは捨て置いていいのです! ジン様が生き残ることを考えて下さい!」
「考えているから使わせたんだ。俺が生きて地上に戻るにはフーカの力が必要なんだよ。だから死ぬな! 生きてここを出るぞ」
「うぅぅ。どうして私はこんなに弱いのですか。私に力があれば、大切な人達を守る力が欲しいですッ」
涙を浮かべるフーカの頭をいつものように優しく撫でる。フーカは十分以上に戦ってくれている。きっと強くなる。
「フーカが強くなるまでは俺が守ってやるよ。だからフーカのことを守らせてくれ。一緒に生きてここを出よう」
「うぅ、はい! 絶対にジン様とルナ様と一緒です!」
泣くフーカを立たせて集まりつつある軍隊アリを睨む。
「いい加減鬱陶しいぜ。これだけ集まって来るんだ。ボス部屋も近いんじゃないのか? ボスが女王アリならだけど」
「これだけアリが集まっているダンジョンよ。それ以外ないでしょう。ボス戦まで力を残しなさいよ」
「あぁ。絶対ぶち殺す。俺の家族を泣かせたヤツはタダじゃおかねぇ!」
アリ如きで俺を止めれると思うなよ!!
「ミニャさん! こちらに階段が! それとこれ」
階段を発見した冒険者の視線の先には焚き木の痕と僅かに香辛料の香りが漂っていた。
「食事の後にゃ? クンクン、この匂いはバリタを焼いて食べてみたいにゃね。まさかダンジョンに食材持ち込むとはね、にゃはは、この分だと全然元気みたいにゃね」
ミニャの笑い声を聞きつつも回りに居る冒険者の表情は優れなかった。
「本当に素人なんですかね。戦い慣れてるとしても足でまといの奴隷連れて一人で戦ってるとしたらもう上級者レベル超えてますよ」
「――レイシェン國のスパイでは?」
ここにいる冒険者達はガルドの街でも指折りの冒険者達だ。その彼等でもここまで一人で来れると自信を持って言える者は居なかった。
――いや、ただ一人しか居なかった。
「それはないにゃ。そんな怪しいヤツならフィロ姉が気付かないわけないにゃ。さぁバカ言ってないでさっさと行くにゃよ」
ここまでただ一人掠り傷一つ負わずにやって来た、この街最強の冒険者の号令に一同は疑念を捨て去った。
「ドリャァアァ! オラァァ! はぁ、はぁ、はぁ。とりあえず突破したな」
群がって来ていたアリどもをなぎ払ってどうにか奥へと進んで、小さなスペースに身を隠して休むことにする。
「少し休んだら行かないとな。さっさと進まねぇとこっちの体力が持たねぇよ」
「ルナが警戒しておくから二人は休みなさい。この先に大きめの気配があるわ。ボスかも知れないわ」
やっとか。でも、これが違ったら今の体力からしてもう持たないかも知れないな。
「――ジン様、そちらに何かあります」
「ん? 何が? ……こりゃ、人骨か? かなり古いみたいだけど? ってこれ剣か?」
岩の間のような隙間に人骨が挟まっておりその骨が大事そうに抱えている剣があった。両刃の西洋の長剣だ。それなりに古い骨、しかし、その剣はまだ真新しく見える。これはまさか……。
「ジン様どうしました?」
「もしかしたら、な。すまんが頂くぞ」
骨から剣を抜き取り山賊王の太刀の代わりに装備する。
九条仁
人族Lv29
使徒Lv29
冒険者階級「伍長」
フルンティングLV32(神)
力の指輪(神)
空間の腕輪(神)
・神の使徒・神具鑑定・真実の瞳LV3・スキル鑑定LV1・夜目LV3・威圧LV2
やっぱり神具だ。フルンティングレベル32? ん? 真実の瞳のレベルが上がってる。何か変わったのか?
ふとフィロの店で買った漆黒のコートを見るとコートに付加されている魔法がわかった。
そして改めてフルンティングを見るとこの剣の性能が漠然と理解した。
この剣は敵を倒すほどに強くなる剣だ。今のレベルは元々の持ち主が上げたレベルだろう。この人骨は転生者だったのかも知れないな。
このダンジョンに潜ってここでアリに群がられて死んだんだろう。
まさに今の俺と同じ境遇だったわけだ。
「ジンどうしたの? それ神具なんでしょ? 何かあったの?」
「ああ。真実の瞳のレベルが上がったからか、武具の性能みたいなのが分かるようになったみたいだ。これはフルンティング。敵を倒すほどに成長する剣みたいだ」
「なるほどね。ここなら敵に事欠かないから来たけど、レベルが追い付かなかったみたいね」
ルナが人骨を見て彼の最後を推測していた。俺には力の指輪があるからいいけど普通の転生者なら剣を振り回した経験もないだろう。長期戦になれば性能だけでは越えられない。
「あぁ。山賊王の太刀は何て言えばいいかな、ドロップアイテムの確率が上がる剣、だな。つまり魔石が落ちやすいのはこの剣のお陰だったってわけだ」
金のなる剣みたいだ。大事にしよう。
「そっちのフルンティングが今どのくらいの強さかによってこの後の戦いが変わって来るわね」
「ああ。今はレベル32だけど、使用者じゃないから強さは落ちているって考えるべきだしな」
「……そのことなんだけど。たぶん神の使徒は神具を扱うことができるスキルになっていると思うの。もしくはそれを合わせて幾つかのスキルの複合スキルになっているか、ね。ジンとフーカが使った時の力の指輪の性能の違いが大き過ぎたし。それに前にヘルトスに送った神具も盗賊達は全然性能を発揮していなかったのにジンは扱えていたわ」
「確かに俺も性能が落ちているにしては効果が良すぎると思ってるけど。そうなのか」
「恐らく、よ。本人が使っているところを見た神具じゃないとハッキリは断言できないけど、少なくとも普通の人が使うよりジンが使った方が性能は上よね」
確かにフーカに持たせた時は性能が低すぎると思っていた。まさかそうなのか。
「……今は置いておこう。フーカも混乱してるしここから出て確かめてみよう」
「そうね。じゃあ先ずはその剣を試して太刀より強そうだったらこっちで行きましょう」
「あぁ、それじゃちょっと試してくるぞ」
俺達が隠れている場所の近くを探っていた鉄蟻に飛び出しざまに切り裂いた。
「なんだ? コイツ鉄の方だよな? かなり軽く刃が入ったぞ。かなりの切れ味だ」
「どうやら当たりだったみたいね。山賊王の太刀は補助的な能力の剣だから攻撃力が弱かったのでしょう。それでも普通の武器より上でしょうけど。でも、そのフルンティングは敵を斬る為の武器でしょう。性能が違うわよ」
確かにそうだな。このレベルでこの切れ味、この剣がレベル上がれば最強だろう。……そうか、彼もそう思ってここまで無理をしてきたんだな。うん。――自重しよう。
「よし、フルンティングも問題ないし、もう少しやれるだろう。ボス部屋まで案内してくれ!」
剣の重さも山賊王の太刀より軽いので負担が少なくて済む。近くにいた蟻どもを撫でるように切り刻みボス部屋へ向かう。
ボスの部屋にたどり着くまでに相当の数が道を阻む為に出てきた。
だがこのフルンティングなら関係ない。
「本当にすげぇ剣だ。豆腐でも切ってるみたいに鉄蟻が切れるぞ。しかもレベルがガンガン上がってる」
ボス部屋を目指してから五十近い数を切り捨てたがこの剣のレベルは35になっていた。そしてその鋭さを増している。
「この先よ! ここから明らかに今までと違う気配を感じるわ」
ルナの言葉に一気に駆けて最奥の部屋に入った。
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