第26話 ダンジョン始めます!



朝目が覚めると胸の上にルナが丸まって寝ており、右側にはフーカが俺の腕を抱き枕にして寝ていた。

恐らくフーカは夜にトイレに行って間違えてこっちに来たんだろうけど、ルナは確信犯だな。二人とも随分と無防備な寝顔だ。起きたら慌てるだろうし先に出るか。

「ん? ジンおはよー」

フーカの体から腕を引き抜いているとルナが起きた。

「あぁ、おはよう。ちょっと静かにしとけ。フーカが起きる」

「……この子はまたお約束なことを」

ルナが俺から降りて背伸びをしていた。

「お前もフーカと寝てるはずだけどな? お前がこっちに来たからフーカも来たんじゃないのか?」

「そんなことないわ。フーカがいなくなったからジンのベットに行っただけだもん」

フーカがトイレに行った隙に俺のベットに忍び込んだと。その後フーカも俺のベットに入ってきたのか。


「ぅん。……ぁ、あ! おはようございます! 私が最後に起きるなんて申し訳ありません!」

うん。どっちにしてもフーカは謝るんだな。

「気にするな。それより飯食ったらダンジョン行くぞ。準備しろ」

「は、はい!」



それから昨日買っていたパンを三人で食べて準備完了。フーカは昨日買った装備を付けてバックを担いだ。

料理器具や食材などの重いものは俺のアイテムバックに入れているのでそこまで重くはなっていない。フーカにはまだアイテムバックのことを説明していないのだが、荷物が減っていることに気付いているのだろうか。

街を出て地図の通りに歩くと森の中に二メートルほど土が盛り上がった場所に出た。土のカマクラみたいな形のそれの中には地下に降りる階段がある。


「ここだよな? 地図にもこの辺りには他にダンジョンはないみたいだし」

「警護の方がいるって言ってましたが、誰もいませんね」

そう。ミニャが言っていた警護の者がいないのだ。軽く周りを散策したが人の姿も別のダンジョンも見当たらなかった。

「んー。地図に書いてあるのもここだよな? 近くに別のもないし。ルナ、辺りに人の気配はないんだよな?」

「ええ。獣や魔物の気配はあるけど、人のものは感じないわね」

「どうするかな。とりあえず入ってみるか。一階部分を軽く探索して一度戻って来るか。このダンジョンがどういうものか確かめてみたいしな」

「分かりました。では私が先頭を歩きますね」

「いやいや、俺が前を行くよ。フーカは後ろを頼む。ルナは気配を探ってくれな」

「りょーかい」

「あの、私が前の方がいいのでは?」

「そんなに気負うな。フーカは俺達の後ろで支援してくれればいいよ」


フーカの頭を撫でてからアイテムバックから山賊王の太刀を取り出した。

「え? えぇ! い、今どこから出したんですか! え、ジン様は剣士なのですか!」

「剣士ってわけじゃないけど、俺の武器はこれだ。出した場所はあとで教えてやるよ。さぁ初ダンジョン行ってみようか!」

混乱するフーカを引っ張ってわざとらしくそう言いながらダンジョンに足を踏み入れた。



ダンジョン内は前回と同じで薄暗いけど周りが見えないようなことはなかった。壁の一部がほんのり光っていて、全体を照らしているみたいだ。

 この迷宮に入って遭遇した魔物は蟻を人間サイズにしたようなヤツと兎に角が生えたようなヤツがいた。

 フーカは鉄蟻(アイアンアント)と一角兎(アルミラージ)と言っていた。

アリは通常の武器では切れないほどに硬いとのことだったが山賊王の太刀ならどうにか切断することができた。兎は動きが早いけど、捉えることさえ出来れば一撃で倒すことができた。そして、驚いたことに現在十匹中四匹から魔石が現れた。

「また魔石が出たな。これだけでも結構な稼ぎになるな」

「はい。あと素材が少し出ています。私が以前にダンジョンに入った時はこんなに出なかったのに流石はジン様です」


 普通はダンジョン一箇所制覇するまでに一個魔石が出れば儲け物って話なのだが、既に四つ手に入れている。ちなみに魔物から出たアイテムはフーカが拾ってバックの中に入れている。

 魔物もそれほど強くはないし、このまま六階層まで行けそうな勢いだ。

「油断はしないでね。ダンジョンでは何が起こるか分からないんだから」

「はい。すみません」

 心を読まれているみたいだ。フーカも随分慣れたようでクスクス笑っていた。

「さて軽く体験もしたし、一度入口に戻ってみるか。一応声をかけろって言われているし、制覇してから失格って言われたら嫌だぞ」

「そうね――右の通路からアリが二匹と兎が一匹来るわ」

 ルナのセンサーは抜群だ。魔物からの奇襲は完全に防げるし、近くにいる敵の居場所が分かるからこちらは準備万端で向かうことができる。

「よし、兎はフーカに任せるぞ」

「はい!」


 二匹目の一角兎を倒した時に、フーカから兎の相手は自分に任せて欲しいと言われていたのだ。

 実際に兎が一匹の場所に行って一戦戦わせてみたが、フーカの動きは素早く、俺よりも早く倒してしまった。

 アリの相手は武器の性能的に無理があるので俺がやるしかないが兎相手はフーカの方が適任なので任せることにした。

 アリが通路から出てきた瞬間太刀を振り下ろし首を切断する。甲羅は硬いが関節部分は割と薄いのだ。それでもただの鉄の剣などでは相当に苦労することになるだろう。

「よし! 一匹目。フーカ先に兎を頼む!」

「はい!」


 兎は動きが早いのでアリ相手に集中していると横から突き刺される恐れがあるのだ。その為、先に始末する必要がある。

 俺が下がり入れ替わりにフーカが飛び出す。もちろんバックを担いだままだ。下ろすように言ったのだが、大丈夫と言って聞いてくれないのだ。

 だが、実際にバックを担いだままでもフーカの動きは素早く兎と交差するように動いた時にはフーカのダガーが兎を切り裂いていた。


「よし、よくやった! あとは俺が――「ジン! 魔物よ! え? 下から来るわ!」なに!?」


 ルナの声にアリから視線を逸らし、後ろに飛ぶと俺がいた場所の地面が崩れて下から牛の様な頭が出てきた。

「こいつはミノタウロスか。でっけぇ、二メートル超えてるだろ! フーカ下がってろよ!」

 崩れた穴から出てきたミノタウロスは棍棒のようなものを持っており、俺に狙いを定めているみたいだ。

 初めて戦う敵とは絶対に油断しない。正面から戦わず回り込んで切り刻んでやる。

 足に力を込めボスに接近した時と同様にミノタウロスの後ろに回り込み背後から切り込もうとした時、ミノタウロスは背を見せたまま棍棒を振り上げ、地面に叩きつけた。


「な、なにを! ってヤバイ! 崩れる! 奥に逃げろ!」

 言った時には既に遅く俺の足場はすでに崩れ初めていた。ルナは飛んでいるので問題ないがフーカは俺の元に駆け寄っていた。


「ジン様!」


 崩れ落ちて行く俺に飛びつき一緒に落ちていく。

 デジャヴを感じながら一瞬見た穴の奥は結構な深さがあるようだった。






ジン達がミノタウロスに出会い地下に落とされた頃、冒険者ギルドはちょっとした騒ぎになっていた。


「ナロクが殺られたって本当か!」

「あいつは引退したって言っても軍曹ランクの冒険者だったんだぞ! 魔物に遅れを取るわけねぇぜ!」

「ナロクはダンジョンの警備やってたんだろ? なら魔物以外いねぇだろ!」 

朝方にギルド職員の一人が森の傍で死体となって倒れているのが発見された。それにより一時ダンジョンへの立ち入りが禁止され冒険者はギルドに集まっていたのだ。


「盗賊の仕業じゃねぇのか? 近くの森で暴れている奴らがいるんだろ?」

「あいつらのいる方角じゃねぇよ。地図ぐらい見れるようになれよ」

「盗賊に襲われたとしてもむざむざ殺されるようなヤツじゃなかったよな」 

皆が憶測を話している中、黙って受付の席に座っている猫娘の姿もあった。


「ミニャさん! 分かったぜ! ミニャさんの予想通り例の魔物の仕業だ!」

 ギルドの扉を盛大に開けた男が大声でそう叫んだ。

 その言葉を聞いて受付嬢はゆっくりと立ち上がる。

 周りにいた男たちもおおよその事態を把握したのか。黙って自分たちの長である少女の姿を見つめた。


「ミニャさん! 大変だ! あのガキどもやっぱりいねぇ! 門番の話じゃ朝一に森に向かったって言ってる! たぶん入れ違いになったんだ!」

 続いてやって来た男の言葉にその場にいた全員が最悪の想像をしていた。

「彼なら問題ない、にゃ。フィロさんが認めた者がそんなに簡単に死ぬわけないにゃ。討伐クエスト並びに救援クエストを緊急発令にゃ! 軍曹以上の冒険者チームには救援を、将校クラスのチームには私も入り討伐を敢行するにゃ! 総員一時間後にダンジョン入口に集合!」


「「おおおおおぉぉぉ!!!」」

 冒険者ギルト内に男達の雄叫びが響き渡っていた。






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