第25話 準備 & フーカその2

「どうにか冒険者にはなれたな」

「はい。ジン様にお怪我がなくて良かったです。私ももっと強くなってジン様をお守りできるようになりたいです!」

 ギルド内でのいざこざに未だ頬を膨らませているフーカの頭を撫でているとルナが神妙な顔をしていた。


「どうした? 何か気になることでもあったか?」

「(……ルナが聞いた話ではダンジョンの十階層でも凄腕の冒険者パーティーが必要だったと思うのよ。成り立ての冒険者にいきなり六階層に行かせるかしら? それもフーカと二人だって分かっていたはずなのに)」

「……ギルドで暴れたしな。ミニャにもよく思われてないのかな? とりあえず慎重に行ってみよう。三日あるし、どうにかなるだろ」

「(また簡単に言って。ルナもいるし、神具もあるから大丈夫だと思うけど、くれぐれも油断しないようにね)」

「(了解)それじゃ、最後にダンジョン内で食べる物とか用意しようか。フーカの出番だ」

「え? 私ですか? えっと頑張ります!」

 驚くフーカだが、君には頑張ってもらわなくてはならないんだよ。兵糧が尽きては戦えません。ダンジョン攻略に何日かかるのか知らないけど、フーカに掛かっていると言っても過言ではない。


 それから市場周りをして簡単な調理器具と食材などを買い集め、宿に戻った。

 ちょうど夕食の時間だったのでそのまま食事を頂き、遠慮するフーカをルナと一緒に風呂場(お湯の入ったタライがあるだけ)に押し込み、一人で部屋に戻って買った物をアイテムバックに押し込んでいく。


 市場での買物と風呂代で残りの財産は金貨二枚、銀貨八枚、大銅貨四枚、銅貨五枚だけになった。

まだ多少の余裕はあるとは言え、明日のダンジョンで稼がないとフーカを養うことも出来なくなってしまう。頑張れ俺、家族を、妹を立派に育てる為に頑張らなくては。

 そう、フーカを一人前のレディに育て上げるのだ! 


「また変なこと考えているでしょう。フーカ、気にしてはダメよ」

「大丈夫です。どんな表情でもジン様は素敵です!」

 今日一日で随分とフーカの好感度が上がっている気がする。とりあえず少し湿っている頭をタオル(ただの布)で優しく拭いてやり、今日は早めに眠ることにした。

「本当に私がこちらを使っていいんですか? ルナ様がお使いになられた方が」

「私が人間用のベットで寝てどうするのよ。私はジンのベットでいいのよ。それともフーカも一緒に寝る? 三人並んで寝たら親子みたいよね」

「……父親と娘二人、か?」

「両親と子供でしょう!」

 その場合フーカがお母さん役じゃないだろうか? 言ったら怒るから言わないけど。フーカも赤くなってるしあまり無理を言わないで欲しいところだ。


「今日はルナとフーカがそっちのベットで寝ろ。フーカも、奴隷だからって床で寝ますとか言うなよ? 俺の奴隷は俺と同じ生活を送ってもらうって決めてんの。慣れろ!」

「は、はい。ありがとうございます」

「はぁ。いいわ。フーカ一緒に寝るわよ。女の子同士でキャッキャウフフな会話しましょ」

 いや、寝ろよ? 明日朝からダンジョンですからね?

 明かりを消してベットに入るとルナの声が聞こえてきたが、すぐに止まった。フーカがベットに入ってすぐさま寝たのだ。

「今日一日大変だったからね。よく頑張りました。いい子いい子」

 ルナの声を子守唄に俺も久しぶりのベットに感謝して眠りについた。





 今日は本当に色んなことがありました。

 朝早くにリムリンと掃除をしている時に貴族の方に斬られて、もうダメだと思っていた私を助けに勇者様が来てくれたのです。

 ハーフの私を助ける為に尊きお力を使って助けてくれたジン様はハーフの私に対しても気兼ねなく接してくれる優しいご主人様です。

 ジン様はこの国のことをあまり知らないみたいで私のことを頼りにしてくれます。とても嬉しいです。でも、いくら気兼ねなくとは言っても奴隷の私に対してジン様と同じ生活をするように言うのです。

私はそんなことをしてもらえるほどお役に立っていません。頑張ってお役に立とうと思っていたのですが、最初から大失敗をしてしまいました。


 武具屋さんに案内して欲しいとお願いされて私はまずフィロさんのお店を思い浮かべました。

でも、ジン様は尊きお方です。奴隷剣士などが利用するお店に案内するのはダメだと思ってこの街で一番大きなお店に案内することにしました。

ドリオラ様にこの街で一番稼いでいる商会はそこだと教えて貰ったことがあったのです。

 でも、お店に入るととても胡散臭そうな店員さんがジン様に駆け寄りました。ジン様は一目見て「帰る」っとおっしゃいました。

私は目の前が真っ白になってしまいました。取り返しのつかない大失敗をしてしまったのです。

 ですが、ジン様は優しく私の頭を撫でて殺されても仕方がない大失敗をした私を許してくれたのです。

 

フィロさんのお店にジン様はとても感激してくれました。私も自分が褒められたように嬉しくなってしまいました。初めからこちらに来たら良かったのですね。

奴隷以外には厳しく接するフィロさんがジン様には丁寧に接していたように思います。フィロさんもジン様の偉大さに気付いたんだと思います。

 ジン様は奴隷の私に装備品を用意してくれました。初めての贈り物です。絶対に大事にします。


「いいご主人に会えたわね。朝方に貴族と揉めたって話が来た時は心配したのよ? でも大した怪我もないみたいで良かったわ」

「ご心配おかけしてすみませんでした。怪我はジン様に治して貰えたのでもう大丈夫です。これから精一杯恩返ししたいです」

「ん? 頑張りなさい。おにーさんなら酷い扱いはしないでしょう。……もっとも慣れるまで大変かも知れないけどね。おにーさんが治したってことは治癒師なの? 武器も持ってないみたいだけど水属性の魔法師なのかしら?」

「あ、えっと。はい」

 治して頂いたのはルナ様だけどルナ様のことは秘密なのでジン様が治してくれたことにしました。

 でもジン様は武器を持っていないけど本当に魔法師なのかな?

「そう。ならフーカが前衛頑張らないとね。サービスで私のお古もあげるわ。頑張りなさい」

 フィロさんは奴隷には甘いのです。でも甘えてばかりはいられません。ジン様のお役に立っていつかフィロさんにも恩返しがしたいです。


 冒険者ギルドは最悪でした。

 私が一緒だとジン様に迷惑がかかるかと思ってはいましたが、彼らはジン様の悪口まで言ったのです。私のことはいくら罵ってくれてもいいけど、偉大なジン様が罵られるのは我慢できません。

でも、私が動くとジン様にご迷惑を掛けてしまうし、私では力不足です。早く強くなりたいです。

 でもジン様は私と違ってとてもお強かったです。私が盾になろうと思っていると優しく止め私を守るように前に出てくれました。立場が逆だと思いつつも感激して胸が締め付けられる思いでした。

 受付の方ミニャ様がフィロさんの名前を言うとギルド内はとても騒がしくなりました。フィロさんはとても偉い方だったみたいです。

 でもミニャ様もとても強そうでした。私が知る限りジン様を除いて一番強いんだと思います。

ジン様は魔法師の方だと思っていたのに大きな人を一撃で倒していました。凄い動きに力でした。ミニャ様が邪魔していなければ確実に仕留めていたと思います。

ジン様を馬鹿にしたんだから簡単に殺してはいけないとは思いますけど、少し納得行きません。

ジン様が当然のことですが冒険者になられました。あれほどお強いのにダンジョンに潜ったこともないとのことです。これからは私が一杯勉強してジン様のお役に立つんです。

 

市場では色々な物を買いました。ジン様は私に料理をさせるつもりです。料理の経験はないのでこれから頑張りますけど、ジン様はダンジョンで何を食べるおつもりなのでしょうか?

普通は保存食や軽く火を通すだけの物を食べるものだと思うのですが、ジン様が購入していた物は生モノや普通に食材を買っていました。夕食は宿で食べるので、ダンジョンで調理するのでしょうか。

調理器具も買いました。ダンジョン内に本格的な調理器具を持って行く冒険者はいないでしょう。普通の冒険者なら料理中に魔物が発生して全滅してしまいます。

 ジン様はお尋ねすると「え? だって温かい方が美味しいだろ?」と当たり前のように言われました。

流石はジン様です。ルナ様も頷いていましたから、私が間違っているのでしょう。私ももっと色々覚えなくていけません。

 

宿屋では夕食の時、同じテーブルで同じメニューを食べました。いえ、ジン様の料理はルナ様も食べていたので私の方が多いぐらいでした。

 私の料理をルナ様に渡そうとしましたが、「フーカは一杯食って大きくなれ」とジン様が言われたので一緒に食べることにしました。とても美味しかったです。奴隷は残飯などを貰えればいい方なので、奴隷商でも質の悪い物や空腹でも耐えれる訓練を受けていました。だからこんなに温かく美味しい物を食べれるなんて夢のようです。

 周りの方も私がテーブルで食事をしているからか何度もこちらを見ていました。チラリとジン様を見ると「気にするな。ゆっくり食べろ」と、微笑んでくれました。

 もう幸せ過ぎて涙が出そうでした。


夕食の後にはお湯まで用意して頂けました。もしかしたら臭かったのかなと思ったのですが、ルナ様も一緒に入ると言って桶の中でバシャバシャはしゃいで疲れたのか私の頭の上で休んでいました。「汚れていますよ」と言うと「えー、フーカいい匂いするよ」と私の髪をクンクンしていました。

とても恥ずかしかったですが、ルナ様のお邪魔はできないので頭を動かさないように桶のお湯を使って体を綺麗にしました。最後に髪を洗っていると「これだけじゃ少ないよね? アクロガ」っとルナ様の魔法で水を頭から被りました。ちょっと冷たかったですけど、全身を流すことができました。


 部屋に戻るとジン様が一人で笑っていました。ルナ様は呆れた様子でしたが、慣れているようです。

 偉大なジン様はどんな表情でも素敵です。少し濡れていた私の頭を優しく拭いてくれました。普通奴隷がご主人様のお世話をするものなのですが。

 ベットはとても寝心地が良かったです。今までは石畳の上で寝るようにしていたので包み込んでくれる優しさにルナ様との会話も忘れて意識が遠のきます。

 明日起きたら謝らなくてはいけません。でも今は髪を撫でられる感触とベットの柔らかさを感じて眠りたいです。

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