第24話 冒険者になりました。


「それじゃ、ここに手を置いてにゃ。冒険者カード発行するにゃよ」

 ミニャの大号令で散らかったギルド内を皆で掃除してバルドは治療所に運ばれて行った。

 それから改めて冒険者の手続きを開始することになった。

 ミニャが取り出した水晶のような宝玉に手を当てると淡く光りミニャが置いたカードに文字が刻み込まれていく。

「クジョウ・ジン、にゃね? これで冒険者登録終了にゃ。これ冒険者カードにゃ。無くさないように管理しにゃよ」

 ミニャから受取ったカードにはこの世界の文字が刻まれているのだが、何故か俺にも意味が理解できた。


「冒険者、ランク二等兵、クジョウ・ジン。すげぇな。自動で記載されるってことか?」

ミニャの話ではこれは数百年前から使われている古代魔法具で詳しい仕組みは解明されていないとのことだ。

文字が読めない者でも意味を理解できる為、身分証として抜群の効果があり、複製、偽造、成り代わりなどが絶対にできないとのことだ。

更に、ギルド全体と繋がっており、賞金首などを倒した時は自動で報告が行くようになっている。そして迷宮を制覇すると冒険者カードに制覇数が記載される。

最深踏破数や制覇数は冒険者のステータスらしい。その他にもギルドが指定している魔物を討伐した場合なども冒険者カードに記載されるみたいだ。

 そして、一定の成果を上げた者はランクが自動的に上がるとのことだ。


 ランクは上から大将、中将、少将、大佐、中佐、少佐、大尉、中尉、少尉、准尉、曹長、軍曹、伍長、兵長、上等兵、一等兵、二等兵となっている。 

この世界で少佐以上のランクに就いている者は二十人にも満たないらしく、少佐以上に上がった冒険者は貴族や王族から引く手数多になるらしい。


「私も貴族の養子に入って支部長になったんにゃ。フィロ姉にはその前から色々と世話になったにゃ。フィロ姉が認めたんにゃからお前は絶対に将校まで上がるんにゃよ」 

簡単に言ってくれるがこの街に少佐ランクより上はミニャ一人だけらしい。フィロは奴隷の為冒険者としてのランクは持っていないらしい。

 現在帝国には少将ランク以上の冒険者はおらず、大佐、中佐、少佐の冒険者が数名いるだけだ。曹長ランクで一人前と言われているが、大抵の冒険者が曹長以下で日銭稼ぎの冒険者ばかりが溢れて困っているらしい。

 帝国内のダンジョン数がここ数年増加傾向にあり、中堅冒険者の手が足りてないのだ。ちなみに将校は少尉以上の者のことだ。

「あーそうにゃ。一応冒険者の試験を受けてもらうにゃ。バルドにゃんを倒したし、問題ないと思うけど一応にゃ。えーとにゃー、ここでいいにゃ。ここを制覇してくるにゃ」

 ミニャから渡された地図にバツ印が付けられており、そこにあるダンジョンを制覇することが試験だという。

「六階層のダンジョンにゃん。期限は三日でいいかにゃ?」

三日? そんなに掛かるのか? 三階層で数時間だったけど。

「――ダンジョンは初めてだからよく分からん。期限はそっちで決めてくれ。そこは誰も入ったことない場所なのか?」

「そうにゃよ。新人用の低層ダンジョンにゃ。将校クラスまで上がったら十階層以下のダンジョンには入れないにゃよ」   

 ダンジョンの深さは古代魔法具で調べることができて、発見されたダンジョンは冒険者なら自由に潜っていいとのこと。ただし低層ダンジョンはギルドの管理化に置かれ新人修練用に確保されている。その他のダンジョンの制覇は早い者勝ちだ。

……俺三階層勝手に制覇したんだが。うん。黙っていよう。

「――分かった。それじゃ早速明日から行かせて貰うよ」

「はいにゃ。入口に警備がいるから入る時に声を掛けてにゃ」

 

それからギルドの使い方などを軽く教わってギルドを出ることにする。

出る時に掲示板に貼られていた賞金首の中に以前倒したヴァオとエルットがいた。エルットは貴族暗殺の犯人で金貨五十枚になっていた。そのことをミニャに話したが。


「冒険者カードに記載されてにゃいと払えにゃいね。首とか持って来てくれたら判別して払うこともできるにゃよ?」

真顔で言われたが本気で言っているのだろうか。そもそも識別できないほどグチャグチャになっていたからそれも無理だが。

ミニャに改めて挨拶して今度こそ冒険者ギルドを後にした。




 ジン達がギルドを出てしばらくした頃、ジンとミニャの会話を聞いていた男達が酒を飲みながらコソコソと話をしていた。


「あのガキども六階層だってよ」

 通常冒険者の試験をする場合は指導も兼ねてギルド職員が同行して三階層ダンジョンの一階層にて実地訓練を行っていた。

入り口から入り魔物との戦い方、ダンジョンの探索方法、休息や罠の回避方法、ダンジョンの詳細などを二階層の階段に辿り着くまで行うのだ。決して制覇をすることではなく。


「あぁ。ミニャさんもひでぇよな。バルドを倒したんだから腕っ節は本物かもしれねぇけど、素人のガキ二人をいきなり六階かよ」

 ギルドが推奨している攻略基準にはソロ、もしくは六人以下のパーティーは五階層以下のダンジョンに行くように記載されていた。

 五階層以上は実績を積んだ六人パーティーを編成して挑むのが常識であった。

 そして将校クラスが入っては行けないのは五階層以下のダンジョンだ。


「しかも期限三日って。ミニャさんも怒っていたのか? 説明も結構いい加減だったよな」

軍曹ランクの六人パーティーが初の六階層を制覇するのに掛かる日数はおよそ十五日。

数日を掛けてダンジョン内の地図を作り、魔物の傾向を調べ、その対策、最短ルートの作成。そしてすべての準備を終えて、三日から五日を掛けて最下層のボス部屋を目指す事が普通であった。


「あぁ、もしくはあのガキがマジでミニャさんの目に止まったからか」

 ミニャ・シルバーク、フィロ・ドルイク、この二人であれば単独であっても六階層を一日で攻略することが可能であった。

 しかし、それは規格外。通常の冒険者達からしたら在り得ないことであった。

 男達は先ほどの一幕を思い出し、腕を組んで唸っていた。


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