第23話 冒険者ギルド
フィロの店(正式名称アオイ工房)を出てフーカの案内で冒険者ギルドを目指す。
時折人とすれ違うがフーカの姿を見ても誰も気にした様子はなかった。
まだ何も入れていないから重くはないのだが、見た目はデカイ荷物を背負わせて虐待でもしているようだ。
「フーカ、やっぱりもう少し小さいのに変えないか?」
「大丈夫です! それに大きい方が沢山入りますし、便利だと思います」
それはそうかもしれないが、その分重量が増えるぞ? 機動性もなくなるだろうに。……アイテムボックスのこと教えるべきだよな。
「(しばらく好きにさせたら? 足でまといになりそうなら自分で言うでしょう)」
思いの外スパルタなルナの意見を聞き、更にやる気になっているフーカにため息を吐き、とりあえずやらせてみることにする。
「ここが冒険者ギルドです」
表通りに出て少し歩くとレンガ作りの三階建ての建物にたどり着いた。
看板に剣と盾をあしらった紋章があり、建物の外も他と比べて冒険者の数が多いようだ。
「思ったより普通だな。まぁ、想像の範疇を越えていないってところか」
俺が建物の感想を言っているとフーカが扉の傍に移動した。
「それでは私はここでお待ちしていますね」
「……なんでだ? 一緒に来たらいいだろ?」
俺は文字が書けないんだぞ? っと目で訴えると理解したようだが。
「えっと、いいんでしょうか? ジン様にご迷惑が掛からないといいのですが」
「来ない方が困ることになるかも知れない。だいたいフーカが来て迷惑になることなんてないよ。堂々と付いて来い」
「はい!」
自分の無能を棚に上げ言う俺にフーカは目を輝かせて頷いていた。ちょっと良い子過ぎないか?
とりあえずフーカの頭を撫でて冒険者ギルドに入ることにした。
冒険者ギルドは酒場も兼任しているみたいで、酒の匂いと男の笑い声が響いていた。
俺たちが入ると大半がジロジロとこちらを伺うような視線を向けてきた。
「(ちょっと感じ悪いわね。さっきみたいにジンが一発ぶちかましなさいよ)」
「(さっきって飯の時だろ? バカ言え、ここにどれだけの冒険者がいると思ってんだよ。下手な真似したら全部敵に回すだろ)」
ルナの意見を却下して奥にあるカウンターへ真っ直ぐ進む。カウンターには同い年ぐらいの猫耳の可愛らしい少女がニンマリとした笑みを浮かべ俺達を見ていた。
「いらっしゃいにゃー。ご依頼かにゃ? それともチームを探してるかにゃ?」
ネコ語キター! いやいや、そうじゃなくて。
「いや、冒険者になりたくて来たんだけど、どうしたらいいんだ? あ、これ紹介状みたいだ」
俺が受付に羊紙を渡した時、男達の笑い声が響いた。
「おいおい! 坊ちゃんが冒険者かよ! 冗談はお家の中でだけにしてくれよ!」
「がっはっはっは! 父ちゃんに買って貰った奴隷を自慢したかっただけだよな! でもな、どうせならもっと強そうなヤツにしてもらえよ! そんな小娘連れてどこに行くつもりだ? がっははは!」
「冒険者舐めんなよ? 死ぬ覚悟もねぇ坊ちゃんはお家に帰りなッ!」
「みんな苛めんなよ。彼は俺たちに笑いを提供しに来てくれただけさ。んー酒が上手いってな。ハッハッハ!」
好き勝手言ってくれる。俺の横で殺気が溢れている存在が二人いるんだが、こいつらは気付いてないのか?
「(ジン、殺すわよ。酔っ払っていても言っていいことと悪いことがあるって教えるべきよ)」
「(止めとけ。笑っている奴等は対して強くないが、向こうの剣士はレベル三十台だ。暴れて敵に回したくない。今は、な)」
俺の言葉にルナとフーカはぐっと我慢して目を閉じていた。
くそ、覚えてろよ。今にお前ら全員ぶち抜いてやる。それまでせいぜい酔っ払っていやがれ!
「なんだぁ、兄ちゃん? 言い返す言葉もないってかぁ? ブツブツ言ってないでハッキリ喋りやがれ! 文句ならこの俺が聞いてやんぞ!」
顔を赤くして酔っ払っている中年の男がフラつきながらこちらに近づいて来た。フーカが間に割り込もうとするのを手で止めて真正面から見据える。
かなり体格が良く、レスラーのような体付きだ。酔っ払っているせいで人相も悪く、日本で出会っていたなら速攻で逃げているレベルだ。
バルド・ロットス
人族LV25
冒険者LV19
階級「軍曹」
俺より大分上だな、って階級? 軍曹? え? 軍隊?
向こうの剣士を鑑定すると冒険者レベル三十三で階級が曹長になっていた。
周りの冒険者達を見ると、兵長だの、伍長だの上等兵だの皆階級があるんだが、何の冗談だ?
あれ? もしかして街で見かけた冒険者にも階級あったのか? 確かに階級があった人はいたけど、帝国軍の人だと思っていたんだが。
「……もしかして冒険者ランクって軍曹だの大佐だので表すのか?」
「そうにゃよ? そんなことも知らにゃいで来たのにゃ?」
マジかよ。これって昔来た日本人がやらかしてんじゃねぇのかッ!? 普通Sランクとか、一級とかプラチナとかじゃねぇのかッ!?
恐らく俺が登録完了すれば二等兵からだろう。向こうで肩身の狭そうな若者が二等兵だし。
はぁ、まぁそれはいいか。どうせすぐにこいつら追い越すつもりだし。さっさと元帥になるとしよう。
「おい兄ちゃん! なに俺を無視してんだ! コラッ!?」
うるせぇ。さてコイツどうしようか。レベルで負けていても力の指輪があるからパワーでは負けないと思うけど。
こんな人目のある場所でアイテムバックから山賊王の太刀を出すわけにはいかないし、ルナの魔法に頼るか?
視線を右肩に向けると小さな精霊はやる気十分だ。……ハーフの村の魔法は止めてくれよ。魔力足りないと思うけど。
「なにいっちょまえに睨んでんだコラ! 女の前でカッコつけたいなら相手を考えんかいッ!」
試しに威圧を発動してみたがまるで怯む様子はないな。流石に格上か。
オッサンは今にも飛びかかって来そうなほど興奮しているな。俺も万が一に備えて見えないよう空間に片手を入れいつでも山賊王の太刀を取り出せる様にした。
「バルド止めとけよ。弱い者イジメはカッコ悪いぞー。はっはっは」
「どっちに賭ける? 俺、バルド。お前も? ははは、賭けにならねぇな!」
「くだらねぇ。ガキ! さっさと出て行けや! 酒が不味くなんだろが!」
ギルド内の興奮が最高潮に達し、俺とバルドが一触即発の状況になったその時、俺が渡した手紙を読んでいた受付嬢の猫娘が声を発した。
「…………この子、フィロ姉の紹介だにゃ?」
「ッッ!」
「なッ!」
「――――」
「俺、帰るわ」
フィロの名前が出ただけでギルド内は騒然としていた。皆酔いが覚めたようにまじまじと俺達を見てくる。
バルドも数歩後退りし、先ほどとは打って変わって顔色がかなり悪い。
「フィロ姉曰く、彼は将校クラスに達する才能の持ち主である。その成長を助けるのがギルドの本分であることを願う。とのことだにゃ。ガルド冒険者ギルド支部は彼を冒険者と認め、適切な支援を約束するにゃ」
受付嬢の言葉にギルド内が静寂に包まれた。
ルナやフーカも回りを見て何が起こったのか分かりかねていた。フィロは何者なんだよ。
「……ふざけんなよ。フィロさんが認めたって言ってもこんなガキにデカイ顔されちゃ俺達の立場がねぇよ!
バルドは歯を噛み締めて唸るように言い一歩前に出た。その瞬間。
「バルドにゃん、それはギルドを敵に回すって意味かにゃ? ギルド内の喧嘩は御法度にゃよ? それとも――私を敵にするにゃ?」
受付嬢の言葉に寒気が走った。思わず鑑定して目を疑った。
ミニャ・シルバーク
猫人族LV65
冒険者LV38
階級「少佐」
デュランダル(神)
・疾風の加護Lv8・心眼Lv6・気配探知Lv4
恐らくこの街最強だろう。なんで受付嬢やってるんだよ。フィロを敬称で読んでいるけど、明らかにこっちの方が上だろう。
しかも聖剣デュランダルって、マジかよ。
オッサンはガタガタ震えてるぞ? 自分の娘ぐらいの子にマジビビリって可哀想だな。
「ま、待ってくれ! こいつはまだギルド員じゃねぇ! だから問題ないだろ!」
「にゃら、私の敵ってことでいいにゃーよ? フィロ姉が認めたにゃ、にゃら私が守るのが筋にゃん」
ミニャの眼光が鋭くなり、言葉使いもにゃが増えてきたし、殺気も尋常じゃない。
サッと音もなくカウンターから出てきたミニャに、もうギルド内は大慌てだ。
「ミニャが暴れるぞ! 逃げろ!!」
「支部長だろ!! 落ち着け! 職務を全うしろ! あと俺は何も言ってないからなぁ!」
「バルド謝れ! とにかく謝れ! いいから謝れ! 頼むから謝ってくれぇぇぇぇぇ!」
「あぁ、神よ。我を救いたまえ」
流石にちょっと悲惨だ。俺のせいってわけでもないが、俺以外に無事に収めれるヤツはいないよな。
「あー、バルド……さん、でいいのか? アンタ俺を認めないって言ってんだよな? 俺は別にデカイ顔がしたいわけじゃねぇけど、どうしたら認めてくれるんだ?」
「……冒険者が認めるって言ったら力以外ねぇだろ。俺を認めさせたいならテメェの拳で俺を納得させてみろよ!」
バルドは上着を脱ぎ筋肉隆々の肉体をあらわにして構えた。
「来いよ! 俺を納得させるだけの力があったら認めてやるよ!」
バルドは腹に力を込め筋肉が更に盛り上がっていた。これは腹パンして来いってことだよね?
ミニャは殺気を消して黙ってこちらを見ていた。
好きにやれってことかな? ならいっちょやってみますか!
「……本気でいいんだな?」
「ッたり前だ! 納得出来なかったら反撃するから覚悟しておけよ!」
それは嫌だな。なら俺の実力を確かめさせてもらおうかな。もちろん力の指輪有りですよ。これも俺の力だし。
「んじゃ行くぞ! 歯ぁ食いしばれ! ――覇殺拳!」 ※ただの正拳突き
レベルの差がある。手加減は無しだ。スケルトン相手じゃ全然強さが分からないかったからな。
恐らくこの世界に来て初めて本気で拳を握り、バルドに拳を叩き込んだ。
拳がバルドの腹にめり込み、バルドの足が浮いた。
あ、これヤバイかも。っと思ったが今更止まれず拳を振り抜いてしまった。
「ッ! 「そこまでにゃよ」」
ヤバイと感じた時ミニャが俺の腕を掴み止めていた。
バルドは止められたとはいえめり込むほどの拳を受けた為、そのまま後ろに吹っ飛び倒れ込んでしまった。
「流石はフィロ姉が認めた逸材にゃ。でも、力の制限はまだまだ未熟みたいにゃねぇ」
「あ、あぁ。その、すまん、助かったよ」
本気で振り抜こうとしていた拳を横から腕を掴んで止めたぞ。絶対に敵にしたくないな。
「ニャっはっは! イイってことよ! みんにゃも理解したかにゃ? まだ文句あるにゃらさっさと言えにゃ!」
フーっと威嚇しながら周りを見るミニャに文句が言える者がいるはずもなく俺は無事冒険者として認めて貰えるようだ。
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