第22話 カッコいいと思うんだけど?


「(ルナも装備いるか?)」

「(ルナはいいわよ。それよりジンの装備を揃えなさいよ。武器はあるからいいけど、軽装でもいいから防具を買いなさい。そこにいい鎧があるわよ、それにしなさい)」

「(フルプレートを俺に着ろと? 力の指輪があるから動けると思うけど、あんまりだろ。すげぇピカピカだけど、これでいくらだ?)」

「(えっと、…………金貨七十枚)」

「ぶッ! ちょ、高!」

 奴隷買えそうだぞ。は? まさかここにある武器って高額?


「おにーさん。その鎧は物理・魔法軽減や鎧の重さを減らす魔法が付与されているの。上級者向けだけど、金額的にはお買い得だよ?」

 フィロが顔を出して説明してくれるがそれどころではない。


「(ルナ、この店で安い商品はどれだ?)」

「(……よくよく見るとどれもいい品よ。あっちにある杖、あれこの前送った神具にも匹敵しそうな魔力を感じるわ。値段は……千枚」

どの硬貨だ? 何て聞くまでもないだろうな。途方も無いな。売れるのか? むしろ売るつもり、商売するつもりあるんだよな?


「(あ! あっち側は安い商品が並んでるわ。高いのでも金貨十枚よ)」

「(金貨十枚が安く聞こえるのは俺の気のせいだよな?)」

フーカの装備は金貨一枚ちょいで足りるのか? 枚数勘違いしてないか?

「(ジンならすぐにそのくらい稼げるようになるわよ。それよりこのコートがいいわ。魔力が込められているみたいだし、今のままよりいいわ。金額は銀貨八枚だから足りるでしょう)」

 

冬にスーツの上から着るような真っ黒なロングコートが商品の合間に畳んで置いてあった。

 魔力は分からんけど、結構格好良いかも。下は制服だしおかしくはないだろう。

「フィロ、このコートは何か魔法付与されてるのか?」

「んー? あぁそれね。それ店主が初めの頃に作ったんだけど、人気なくてね。防斬と耐熱が付与されてるわ。それに魔力が込められているから安物の防具より遥かに防御力あるわ。当時は金貨十枚で出してたし、お買い得よ」 

人気ないのか。結構高いけど、魔石で稼げたしダンジョンに潜るなら最低限防具はいるしな。これは買うべきだよな。……格好良いし。

「ならこれも買おうかな」

「(ジン、あとこのブーツと小手も買いなさい。金額は二つで銀貨十二枚だけど、その靴でダンジョンは危ないわ。それにジンは咄嗟に腕でガードするからこれもいるわ)」


ルナが見せてくれたブーツは何かの鱗を使った厳ついブーツだった。確かに今履いている靴は学園指定のただの革靴だからな。もう長いこと履いているし、結構傷んでいるからな。変え時だろう。

ブーツは見た目はかなり硬そうで窮屈そうだったけど、触ってみると驚くほど柔らかく、履いてみるとサイズがピッタリになった。履いている感じが全然なく、足首の動きが制限されることもない。これは凄い。

小手の方も革に金属が編み込んであるのに驚くほどしなやかだ。腕と手の甲を覆っているけど、手首に負担もなく、指は自由に使えるから日常的に付けていても問題なさそうだ。


「その蛇鋭のブーツと土竜の小手もお買い得よ。どちらも防斬と硬質化の魔法が付与されているわ。衝撃を受けた時、自動的に硬質化して身を守るわ。それにどちらも魔物の素材を使ってあるから耐久性が良いし、魔法耐性が少しあるわ。本来ならそれも金貨十枚以上の一品よ。何故か店主の初期作品は全然売れなかったのよね」

なるほど。つまり掘り出し物だな。駆け出し冒険者には十分過ぎる装備だろう。


「よし、ならこれも買うよ。コートが銀貨八枚でブーツと小手で銀貨十二枚だよな? フーカのと合わせて金貨三枚と銀貨五枚だな」

「二人でいろいろ買ってくれてるし、初回特典で金貨三枚と銀貨三枚でいいわ。はい。フーカの分も完成」

「どうでしょうか、ジン様」

 二人で更衣スペースから出て来るとフーカがくるりと回り新しい装備を見せてくれる。


先ほどまでの奴隷服ではなく少し厚手のシャツにズボンを着て、革の胸当てと腕当てを身に着けていた。

腰には短剣があり、靴も俺のと同じようなブーツを履いていた。

「似合っているぞ。可愛い冒険者の出来上がりだな。フィロも無理言ったみたいですまんな」

 赤くなってモジモジしているフーカは置いておいて、店にある装備を見たところフーカの分だけで金貨二枚を超えていそうだ。


「気にしないでいいわ。私が前に使っていた物もあるし。ダンジョンで稼いで今度はもっと大金を使ってくれたらいいわよ」

「長い付き合いになりそうだな。これ代金だ。色々助かったよ。明日にでもダンジョンに潜ろうと思ってるから帰って来る時に寄らせて貰うよ」

「ええ。分かっていると思うけど無理は禁物よ。フーカも本調子じゃないみたいだし、危ない真似はさせないでよ」

「分かっているさ。無理をするつもりはない。簡単なところから徐々にやって行くよ」

 フーカは料理人として連れて行くつもりだしな。もちろん戦えるなら後ろは任せるけど、フーカを危険な目に合わせるつもりは毛頭ない。

「それならいいわ。……駆け出しって言ってたけど冒険者ギルドには登録しているのよね?」

 あ、やっぱりあるんだな冒険者ギルド。

「いやまだだ。これから行ってみるよ」

「呆れた。登録もしないで冒険者名乗ってたの? ギルドから怒られるわよ。いいわ、ちょっと待ってなさい」

 フィロが呆れ顔でため息をついて羊紙になりやら書いている。


「フーカはダンジョンに入ったことあるって言ってたな。ギルドに登録しているのか?」

「いえ、奴隷は登録できませんので。以前入ったのはドリオラ様が戦闘奴隷の適正を見る為に行かれた時に一緒に付いて行ったからです。私はほとんど戦っていませんけど、戦闘の才能はあると言われました。ですからジン様のお役にも必ず立ちます」

 両手を握り締めてやる気満々のフーカの頭を撫でているとジト目のフィロが羊紙を差し出してきた。

「全く、フーカに怪我させたら怒るからね。はい、これ。冒険者ギルドで受付嬢に渡しなさい。それで問題なく登録出来るはずよ」

「助かるよ、ありがとう。それじゃちょっくら冒険者になってくるか」


コートを着て店を出る。

ふと後ろを見るとフーカがデカイバックを店の扉に引っ掛けて動けなくなっていた。

首を振るフィロに笑っているルナ。俺はこの状態のフーカを連れ回して本当にいいんだろうか?

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