第21話 アオイ工房
フーカと手を繋いで想像以上に複雑な道順を通りしばらく歩くと小さな家の前でフーカが止まった。
「ここです。店主さんが自分で作った武具を販売しているんですけど、表には出てこられないのでいつも奴隷のフィロさんが店番をしています」
普通の家だ。いや、普通よりボロいかな。ちょっとした小屋を改造したような家だが、奥の方でハンマーを叩く音も聞こえている。裏通りとはいえ、こんなところでカンカン叩いて苦情が出ないんだろうか。
そもそもこの街は区画整備がされていないようだ。ここもそうだが、住宅街の傍に鍛冶場があったり、裏通りの一部がスラム街になっていたりする。
表通りは商業施設などが立ち並び華やかな雰囲気だが、裏通りは随分と陰湿な雰囲気だ。
「それじゃ入ろうか。……普通のドアだし、看板もなしって商売するつもりあんのか?」
裏通りの奥まったところにあるし、見た目ただの家だし少なくとも客は少ないだろうな。そう思いながら店に入り考えを改めることにした。
「――こりゃ凄い」
ドアを開け一歩中に入ったところで足が止まってしまった。
正面のカウンターにツリ目の少女が座っているが、そんなことを気にするより店内を見渡してしまった。
ぐるりと壁を覆うように剣、槍、杖、盾、鎧などがところ狭しと並べられていた。先ほどの詐欺店の方が商品の数は多かったようだが、ここの品は思わず目が吸い寄せられてしまう魅力を感じる。
これらを全て一人の職人が作っているとしたら俺はその人物を尊敬せざるえない。
「いらっしゃいませー。……ってフーカじゃない。――あれ? もしかして買われちゃったの?」
俺の後ろにいるフーカに気付いた店員がカウンターから出て、とてとてと歩いてきた。
身長はフーカより小さいけど、顔付きや話し方は大人びてる。
「はい。今日からこちらのジン様の「仲間」に、あ、「仲間」に、その、なりました」
フーカが奴隷と言う度に被せて仲間と連呼しているとフーカが苦笑いして、店員フィロは笑っていた。
「ふふふ。いい人に買われたみたいね、冒険者でしょ? フーカは前潜ったことあるって言ってたわよね? 相性ばっちりじゃない」
フーカはダンジョン経験者だったのか。それで剣の極みのレベルが上がっているんだな。
「私はフィロ。ここの店主の奴隷で店の管理をしているわ。店主は表に出てこないから御用は私にどうぞ。これからよろしくね」
フィロは俺の前まで来ると手を差し出してきた。
「あぁ。俺はまだ駆け出しだからな。分からない事だらけなんだ。色々とよろしく頼むよ」
ニッコリ微笑むフィロの手を握り返すと驚いた表情でフーカと俺を見ていた。
「駆け出しが奴隷を購入したって言うの? 変わった人ね。初めて会った奴隷にこんな口の利き方されて気にもしない人なんて店主以外初めてよ。まぁ改めるつもりはないから、そこんとこよろしくね」
見た目は子供だが随分と大人びた性格をしているようだ。……とりあえず鑑定しとくか。
フィロ・ドルイク
小人族Lv51
戦闘奴隷Lv45
・観察眼Lv6・危険察知Lv8
この街に来てからそれなりに鑑定してきたが一番強いな。上級冒険者とやらを見てないから分からないけど、この街で上位に入る実力じゃないだろうか。
戦闘奴隷でスキルも二つ持ち。……怒らせないようにしよう。
「仕事をきっちりしてくれれば問題ないよ。とりあえず少し商品を見せてもらうぞ? ……それと見たところバック類がないみたいだけど、扱ってないのかな? 荷物運搬用に欲しいんだけど」
「ここは一応鍛冶屋だからね。裁縫類は置いてないわよ。……ちょっと待ってて、前使ってたヤツが奥にあるから聞いて来るわ」
フィロはカウンターの後ろの扉から奥へ行ってしまった。扉を開けた時熱風が入ってきたのですぐ奥に鍛冶場があるのだろう。
「フーカ、フィロって小人族だよな? フーカと同い年ぐらいなのか?」
大人びた態度が気になるが身長を抜きにしても幼い顔立ちだしそんなに変らないよな。
「えっと、その、たぶんジン様より年上だと思います」
え? マジで?
「(小人族は老いが遅いのよ。その代わり五十ぐらいから急激に老い始めるわ。多分だけどあの子は二十代後半だと思うわよ)」
おおぉ、合法ロリキタコレ。絶対年下だと思って対応していたのに。これが異世界か。他種族バンザイ。……ロリコンじゃないよ?
「お待たせ。…………女の年齢を気にするのは止めておきなさい」
「はい。すみません」
ジト目で睨まれてしまった。部屋の空気が変わっていることに気付いたか、俺の顔に出てたか。……俺だろうな。
「あんまり考えずに普通に接していいからね。立場はこっちが下なんだから」
いくら年上だと言われても見た目は子供にしか見えないし、今まで通り接しよう。そう、女は若く見られたいだろうし、年上だろうと年下に見てやろうという俺の優しさなのです。
「あとこれ、店主がいいって言ってるから使っていいわよ」
フィロが持ってきたバックは登山家が背負うようなリュックを三倍にしたような大きな物だった。
……これをフーカに担がせて連れ回したら俺は鬼畜じゃないだろうか?
「前は私が背負っていたからフーカでも大丈夫でしょう」
「はい! 頑張ります!」
フィロから受取ったフーカが嬉しそうに背負っていた。
あれ? 俺がおかしいのか? この世界では子供体型のヤツに自身より大きいバックを担がせるのが常識なのか?
「変なこと考えているでしょう? 奴隷に荷物を運ばせるのは常識よ。……なんで前に店主に言ったことをおにーさんにまで言わないといけないのよ」
そうか店主は常識人だったんだな。というかフィロに持たせないように俺に押し付けたんじゃないのか? いや、有難いけど。
「ああ、それとこのバックあげるからダンジョンで魔石拾ったらこっちに回して欲しいって言ってたわ。もちろん適正の値段で買い取るから安心して」
「そういやそうだった。えっと、ほい。とりあえず、これ買い取ってくれないか?」
素材と魔石を買い取ってもらうのをすっかり忘れていた。魔石はポケットから取り出す様にしてアイテムバックから出したけど、流石に骨をポケットから出すのは無理があるだろうからまた今度にしよう。
「これどうしたのよ。えっと、ひのふの――七つね。この一つだけ大きい魔石はボスのでしょ? おにーさんダンジョン制覇したの?」
あ、ボスの魔石は出さない方が良かったのか。でも金もいるしな。
「あー。これは両親の遺産だ。冒険者していたみたいでな。これとあと素材が少し残っていたんだよ」
「……へぇ。ま、深くは聞かないわ。――純度が少し悪いわね。これ低層の、それもまだ新しいダンジョンで手に入れた物ね」
見ただけで分かるのかよ。え? もしかしてダメな感じ? さっき市場では買い取ってくれたけど。
「小さい魔石が一つ銀貨三枚、大きい魔石が金貨一枚と銀貨二枚でどうかしら? 合計で金貨三枚よ」
さっき市場で売った時は魔石と骨三個ずつで銀貨五枚だったからかなり高いな。
というか、今後は市場で売るのは止めよう。絶対知らないと思って安く買いやがったぞ。
「それでいいよ。これからも見つけたら持って来るよ」
「ええ。出来るだけ高く買い取らせてもらうわ。……少しおまけしとくわ」
フィロがそう言って金貨三枚と銀貨六枚を机に出してくれた。
「小さい魔石を銀貨一枚上乗せするわ。まとめて持って来てくれたからね」
「ありがとう。助かるよ。あとフーカの装備を見繕ってくれないか? 相場が分からないんだけど、金貨一枚で足りるか?」
「奴隷の装備ってことならもっと安くでもいいと思うけど、おにーさんはそれなりの物を考えているわよね? ……あと銀貨五枚出せない? それで初心者程度の装備は整えるわ」
「助かる。それじゃフーカ行って来い。俺は商品を眺めているから」
「はい、ありがとうございます! フィロさんよろしくお願いします」
「OK。それじゃこっちに来なさい。何か聞きたいことあったら声掛けてね」
フーカを連れて部屋の隅にある更衣室替わりのスペース(仕切り板で見えないようにしているだけ)であれやこれや話ながら装備を決めているようだ。
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