第20話 クロボロ串

それからフーカの案内で街中を歩くことにした。

ドリオラさんのお使いなどで街中を歩くこともあったらしく、商店などの場所はある程度分かると言うことなので案内役を任せた。


「こちらに冒険者の方が良く行く武具屋さんがあります。私は入ったことないのですが、評判がいいみたいです」

「ならそこに行くとして、その前に、こっちに来いフーカ」

「え? あ、はい!」

前を歩いていたフーカが立ち止まる俺に気付いて慌ててこちらに来たので俺は右を指さした。


「……どれが食いたい?」


「え? ……あ。え、っと。わ、私はごしゅ、ジン様の残された物で、十分ですが、あう!」

フーカがとんでもないこと言い出したので思わずチョップしていた。

え? これって奴隷の常識なの? 露天の店主も特に気にした様子はないけど。

「はぁ。なら俺が選ぶ。嫌いな物があるなら言えよ?」

「大丈夫です。食べられる物なら何でも食べれます」


それはいい事なんだろうけど、フーカが言ってることと俺が思っていること同じだよね? 俺も好き嫌いなかったけど、流石に虫とか無理だよ? フーカもだよね? だよね?

考えていると食欲無くなりそうだから辞めて、さっさと選ぼう。んー。なんだろ? 何かの肉を串刺しにして焼いてるみたいだけど、焼き鳥みたいなもんか?


「おっちゃん、これ何なんだ?」 

「あぁ? 普通にクロボロの串焼きだよ。お前さん王国出か? あっちでもそこまで珍しいもんでもないだろうけど」

ふむ。知ってて当然の物だったか。フーカの表情を見るに人気の食べ物なのだろう。

「これでいいか? そっちに饅頭みたいなのもあるけど? ……こっちがいいみたいだな。おっちゃんこの串二本くれ」

フーカの表情を見ていると饅頭を指差した時、少し残念そうな顔をしたのでこちらにすることにした。

「はいよ。熱いから気を付けろよ」

おっちゃんから串を受け取り値段を見るが読めないので、串と一緒に銀貨一枚と大銅貨を二枚フーカに渡すことにした。


「あ、ありがとうございます。えっと銅貨四枚ですね。大銅貨でお願いします」

フーカは何も言わずに理解したようで、すぐにお金を払ってくれた。

「お釣り銅貨六枚だ。ありがとよ。また来てくれよ」

「ジン様お釣りです」

「ああ、それはフーカが持ってて、今みたいな時にそれでフーカが払ってくれ」

ポケットから取り出す様にしてアイテムボックスから布の袋を取り出しフーカに持たせた。

「はい。分かりました。預からせて頂きます」

「じゃ行くか。おっちゃん美味かったらまた来るよ」

おっちゃんに手を振って歩きながらクロボロとやらを食べてみる。


「おぉ、意外と上手いな。……ん? フーカどうした? 腹減ってるんだろ? 食えよ」

「え? よろしいんですか? まだ全然食べておられませんけど?」

ん? なにが? 

「(ジンがさっきお腹減ったって言ってたからでしょう。フーカはジンの残した分でいいとか言ってたし。……うん美味しい)」

俺の串を食べている精霊の言葉で意味が分かった。

つまり先ほどのありがとうは食べ残しを貰えるとして、自分の好きな物を選んでくれたことに対するものなのね。

「……それはフーカの分だ。俺は一人で飯を食うことはないんだ。だから俺が飯を食う時は必ずフーカも食え。いいな?」

俺の手に捕まり串を食べている精霊がいる為、一人で食っているわけではないが、フーカは頷き美味しそうに串を食べていた。

「美味しいです! 前にここを通った時にリムリンと食べてみたいねって言ってたんです! とっても美味しいです、ありがとうございます!」

さっきまで緊張してか顔が強張っていたのが嘘のように良い笑顔だ。やはり食事は偉大だ。美味しい物は皆を笑顔にする。

「そうか。これからは遠慮しないで食べたい物が合ったら言えよ?」

フーカの頭を撫でながら、子供らしい一面を見せてくれた露天のおっちゃんに感謝した。また機会が合ったら行くことにしよう。



「こちらが武具屋さんになります。この辺りでは一番質の良い武具を扱っているらしいです」

クロボロの串を食べてフーカの案内で武具屋についた。二階建ての建物なのだが、周りと比べても一回り以上大きな建物だ。外装にも金が掛かっていて門の様な大きな扉に、ドラコンをあしらった彫刻まである。

正直あまり資金がないので安上がりな店が良かったが、せっかくフーカが案内してくれたんだ行くしかない。……見るだけはタダさ。

「(何かイヤな感じの建物ね。妙な結界が張られているし、危ないと思ったらすぐに出るわよ)」

「(りょーかい。ここだけ街の景観とも違うしな。何か感じたら教えてくれ)」

黒光りする両開きの扉に威圧感を感じるが、見てても始まらないので中に入ってみることにする。


「いらっしゃいませぇ。本日は何をお探しでしょうか。先日入荷したばかりの神玉の太刀がおすすめですよ。かの宝具に匹敵する伝説級の武器です! 今買わないと一生後悔します! ぜひご検討を」

店に入るなり、胡散臭そうな男が奥にある剣を勧めて来た。鑑定してみるか。


ウソット・ダマッソ

人族LV7

詐欺師LV5


はい、アウト!


「帰ろうか」

「ちょっとちょっと! お客様! 何でいきなり帰ろうとしているんですか! まだまだウチの商品の紹介は終わっておりませんよ!」

回れ右をして扉を開けようとしたら詐欺師が周り込んで来た。

「もう十分だ。俺にはこの店は合わないようなので帰らせてもらう」

「そんなこと言わずにちょっと見てって下さいよ。奴隷を調教する道具もありますよ!」

「帰るぞ、フーカ。店を出るまで耳を塞いで目を瞑れ。お前にこの店は早過ぎるみたいだ」

犬耳を押さえて目をぎゅっと瞑るフーカの体を支えて扉を出ようとするが、それでも詐欺師は擦り寄って来ようとしていた。


「(フーカを連れているからお金持ちって思われてるのね。少し武器を見たけど神具はないと思うわ)」

店内を軽く見て回っていたルナの報告を聞いてこの店の価値は完全に潰えてしまった。

「――そんなに薦めるなら見て回ってもいいけど、俺――武具鑑定のスキル有るよ? 全部調べていいんだな?」

「当店にはお客様に薦めれる商品はありませんね。それでは今後二度とご来店なさらないようにお願いします」

適当に言ったスキル名だが効果抜群だった。にこやかに追い出そうとする男を一瞥して店を出る。



「申し訳ございません!」


 店を出るなりフーカが土下座する勢いで謝ってきた。

「ど、どうした? 落ち着け、話せば分かる」

「ジン様のお気に召さない店を案内してしまい、本当に申し訳ありません。如何なる罰も「いや、良いから。マジでいいから」し、しかし」

フーカがこっちが申し訳なくなるほど取り乱していた。

少しぐらい店の中を見た方が良かったかな。詐欺師にしか目が行かなかったし、フーカに悪いことしたな。

「(フーカ落ち着きなさい。怒ってないし、罰するつもりもないわよ。むしろこの程度のことで何か言うような主人だと思っていたの?)」

「いえ! そのようなことは決して!」

「なら気にするな。俺もいきなり出てすまなかったな。別にフーカのせいじゃないし、気にしないでくれ。それよりフーカが行ったことのある店に案内してくれないか?」


オロオロするフーカを慰め、別の店に向かうことにする。ドリオラとも取引のある店ならここの店よりは安心だろうし。

それにしてもフーカを連れているだけであそこまで食いつくほどなのか。まぁ、本来なら金貨八十枚だしな。日本で八百万円の高級車に乗って店に行ったようなものか?

「わ、分かりました。裏通りにあるお店で、その、ジン様のお考えのお店じゃないかも知れませんが……」

「ドリオラさんも使ってる店なんだろ? なら大丈夫だろ。とりあえず行ってみよう」

「はい。それじゃこちらです。裏通りは少し複雑になっているのではぐれないように気を付けて下さい」

「そうか。ならこうしよう「え? あ、は、はぃ」……嫌だった?」

 はぐれないようにフーカと手を繋いだんだがフーカが顔を背けモジモジしていた。

「嫌だなんてことありえません! そ、それじゃ行きます。手を離さないでくださいね」

 真っ赤になったフーカに引っ張られて裏通りを進んで行く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る