第18話 奴隷契約と首輪
ドリオラさんと最初の部屋に戻って来ると先ほどのメイドが一枚の羊紙を持ってきた。
「こちらに奴隷の契約に関することが記載されています。注意するべき点としまして、帝国では年末に住民税が発生致しますが奴隷にも奴隷税が発生し、一人に対して金貨一枚が掛かります。これを払うのは主人の義務になります。これを払いませんと奴隷の所有権が無効化されるのでご注意下さい」
奴隷税なんてあるのか。それに住民税か、これは俺に対してってことか? でも冒険者とか一定の場所に留まらない人はどうするんだろうな。拠点となる場所を登録するのか? ……その内分かるか。
あと羊紙に書かれていることはルナに見て貰ったが最初に見た看板に書かれていたことと同じらしい。特に問題はないだろう。
「分かりました。金額は金貨八枚でいいんですよね? これで大丈夫ですか」
予め取り出していた大金貨を机の上に並べて置き、ドリオラさんを見る。
「はい。問題ありません。お買い上げありがとうございます。もうしばらくしたらフーカも来るでしょう。それから奴隷契約を結ばせて頂きます」
ドリオラさんの後ろに控えていたメイドが大金貨を受け取りお釣りの金貨を二枚置いて奥へ下がって行った。
奴隷契約って奴隷印の事だよな。俺がフーカの全権利を持つってことか。なんか緊張するな。
それからフーカが来るまでちょっとした雑談をして時間を潰していた。
その話の中にこの商店で魔獣の卵を扱っているという話があった。
魔獣は生まれた時から育てることで懐くペットのようなものだという事だ。
魔獣は魔物と違い普通は人を襲うことはない。野生の魔獣でも縄張りに侵入したり攻撃行為を行わなければ襲われることないらしい。
一部の魔獣は馬の代わりに馬車を引いたり、人を乗せて走ったりするそうだ。その魔獣の卵が定期的に入荷するそうで勧められたが、今は金がない。
魔獣の卵は一個金貨十枚、どの種類が生まれるかは運任せらしい。
いずれ買いに来ると話していると軽くノックがあり扉が開いた。
「――失礼します。遅くなって申し訳ございません」
部屋に入るなり頭を下げたフーカが俺の元にやって来た。
改めて見るが、頭の上にタレている犬耳以外は普通の人間と変わりないように見える。いや、普通に美少女だな。瞳がルナの言っていたように黒目だが日本人の俺からしたら違和感はまるでない。身長は130cmぐらいだろうか、顔つきが幼いから小学生ぐらいにしか見えないが歩き方や雰囲気が妙に大人びている。
服も綺麗な物に着替えているので助かった。奴隷は服が一枚しかないとか言われたら市場まで血塗れのまま連れて行くしかないかと思ったぞ。
というか、コイツは歩き回って大丈夫なのか? まだ血を止めたぐらいの治療しかしてないし、こんなに歩いたら傷口が開くだろうに。
「おいおい、お前は安静にしてろよ。傷口開くぞ?」
「お気遣いありがとうございます。ですが大丈夫です。ご主人様に治して頂いたので十分に動くことができます。これからよろしくお願いします」
膝を付いて頭を下げてくるフーカにちょっと驚いたが、僅かに体がふらついているのが分かった。
「ああ。よろしく頼む。それで怪我人なんだし、ここ座れ。床にいられると気になる」
「私は大丈夫です。ご主人様のお席を奪うことはできません」
俺が座っているソファの隣をポンポンしたんだが、一緒の席はダメなのか。ドリオラさんが見てるからか?
「(全然大丈夫じゃないだろうにな。ルナ一応見ててくれな)」
「(りょーかい。世話の掛かる子ね)」
少し嬉しそうなルナがフーカの肩に止まったのを確認してドリオラに視線を向けた。
「それでは早速始めましょうか。クジョウ様には血を一滴頂きたいのですが、よろしいでしょうか。フーカはこちらに」
「はい」
ドリオラさんに針を渡されたので軽く指に刺して血を出し、フーカの背中に垂らした。
「それでは主人の変更を致します」
ドリオラはフーカの背中に手を当てて何か呪文のようなものを呟き、少し光ったっと思ったらすぐに手を下ろした。
「これで終了です。所有者をクジョウ様に変更致しました。フーカの背に手を当てることで確認でき、また、服従させる条件を変える場合も手を当てて言葉にすることで変更できます」
「ご確認ください」
フーカがこちらに背を向けて膝を付いたので一応試しに手を当ててみた。
うん。柔らかい。――じゃなくて、手を当てると奴隷の情報のようなものが分かった。
フーカ(奴隷)
主人 クジョウ ジン
・奴隷印・服従
服従の条件ってなんかアバウトな感じだな。これを無効にしたら解放になるのか?
「確認できました。特にイジったりしなくてもいいんですか?」
「そうですね。基本的にはそのまま大丈夫かと思います。何か奴隷に特定の事柄を行わせる場合などに変更したりするものですね」
ならとりあえずはそのままでいいか。
「あとは、宜しければこちらから好きな物をどうぞ」
そう言ってドリオラが机の下から何やら首輪の様な物やスカーフ的な物を取り出して机に置いてくれた。
「……これは?」
まさかこの世界では奴隷はペットだから首輪とリードが必要です。とか言わないよね?
いくらフーカが犬人族って言ってもそれはないよね?
「これらは奴隷の印である、服従の印を隠す物です。フーカは首筋にありますので、こういった物になりますが、付ける付けないは勿論クジョウ様の自由です。わざと隠さない方々もおられますし、お好きになようになさって大丈夫ですよ」
「なるほど。そうですね――」
改めて見るとフーカの首筋に先ほど見た模様があった。ただ少し他の女の子達のより大きい気がする。それに他の子は肌の色に近い印だったのに対してフーカの印は白色で目立っていた。
「ハーフ種の印は白色でサイズも一回り大きくする決まりなのです。この子が何か罪を犯しているわけではありません」
ハーフ種だから、か。こんな所でも迫害の対象になっているんだな。……なら一応隠した方がいいよな。
「……フーカはどれか付けたい物はあるか?」
「私はご主人様がお選び頂けた物なら何でも大丈夫です」
「そ、そうか」
どうやら俺が選ばなくてならないらしい。
とりあえずスカーフを取って見るとフーカの表情が少し曇った。それから首輪を取ると僅かに微笑んでいる気がする。
……え? 首輪が良いの?
フーカの印は少し大きいので、合うサイズは限られている。それからフーカの表情を見ながら、あまり装飾のない黒いの首輪に決定した。
「よし、それじゃこれな。他に良いのがあったら交換していいからな」
「いえ、これがいいです。ご主人様に選んで頂いたこれが」
……ほとんど君が選んだよ? とは口が裂けても言えんな。こんな良い笑顔を見せられたら、な。
「ではご主人様、付けて下さい」
「……………………はい?」
首輪を手渡し首を差し出すフーカに、以前近所で飼われていた良く躾けられたレトリバーを思い出してしまった。耳の形が似ているなぁ。
ルナのムスっとした視線とドリオラさんの暖かい眼差しを受けつつ現実逃避をしながらフーカに首輪を付けた。
「……ふぅー何だが疲れた。フーカ、俺に従うならここに座れ」
ソファの隣をポンポンするとフーカは戸惑いながらも大人しく座った。
「あ、あの、私は立ってて大丈夫です、その、私が座るのはよくない、ことかと」
ソファに座ることをここまで嫌そうにする人を初めて見た。
ま、怪我人だし無視しとこう。
「これからフーカは俺の、……仲間になるわけだ。俺は今後ダンジョンにも行こうと思っているけど、問題ないか?」
「私はご主人様の忠実な下僕です。ご主人様が赴くと言うのに私に問題などありえません。いかようにもこの身お使い下さい」
あーなんだろう、このキラキラした眼差しは。この命に代えてでもお使えします! って感じなんですけど。この子コックさんですよ? 料理人ですよ? いや、剣の極み持ってるからちょっとは期待しましたけど、なに? なんかむしろやる気になってますけど。
「あー、問題ないならいい。詳しいことは後で話そう」
ここで長話するより終わったならさっさと宿に向かって治療するべきだよな。
「それじゃこれで手続きは終了ですよね? フーカを早く治療したいので今日の所は帰ろうと思いますけど?」
「はい。契約は無事終わりました。今後とも当商会をご贔屓にお願いします」
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