第17話 フーカ・クロイム
ドリオラ様と若い人族の男性が部屋から出て行き、部屋には私とリムリンの二人だけが残った。
「さっきの方が私を助けてくれたんだよね? 私のご主人様になるのかな?」
優しい目をした方だった。ドリオラ様も一目置いている感じだったし、きっと凄い人だよね。
「そうだよ! すっごいの! 無詠唱で回復魔法を使ってたの! あっという間にフーちゃんの傷が塞がっちゃたの!」
「無詠唱の回復魔法? イタタ、まだ完全には治ってないけど、でも血は完全に止まってるね」
無詠唱が使える人物は帝国内でもそんなに居ないって話だったよね。それに回復魔法。この傷、正直よく生きてたって思うけど……痕残っちゃうかな。嫌われないかな。大丈夫だよね、瀕死の私を助けてくれるほど優しい人なんだし。
「フーちゃん本当にごめんなさい! 私のせいで、それに傷も。本当にごめんなさい!!」
「いいよ、リムリンが無事で安心したよ。あの後何もされなかった?」
「うん。すぐにダン爺が止めに入ってくれたの。それでドリオラ様と貴族の人が話して、すぐに帰ったんだけどフーちゃんは治療に連れて行ったらダメだって言われたの。それで私が治療してたんだけど、全然塞がらなくて。そんな時にあの人が来てくれたの! 私たちがハーフだって聞いてもまるで気にしてなかったの! それどころかフーちゃんを斬った貴族に対して怒ってたの!」
それは凄いな。ハーフの奴隷なんて消耗品みたいに扱うのが普通なのに。ドリオラ様に引き取って貰ってなかったら私も既に死んでいたと思うし。それに貴族に対して奴隷のことそれもハーフのことで怒りをあらわにする人がいるなんて。
私はとてもいい人に買われたんだろうね。早く傷を治して役に立たないと。ううん、すぐにでも役に立たないと!
「リムリン、まだ回復魔法は使えるかな? 出来るだけ迷惑にならないように荷物持ちぐらいはできる様になりたいの。あと布ないかな。傷口を固定したいんだけど」
私たち奴隷に私物はない。正直言って布を手に入れること何てできない。でもどうにかしたい。
「分かった。他の人たちにもお願いしてくるから待ってて」
リムリンはすぐに部屋を出て別の奴隷に聞きに行ってくれた。私はその間に体を綺麗にしとかないと。幸い私の顔を拭いてくれていたのか水桶と小さな布切れが置いてあった。十分ではないけど、水浴びをさせて貰えるわけがないのでこれでどうにかしなくてはならない。
「ただいま! フーちゃん戻ったよ。あんまり集めれなかったけど、これ。もう時間ないけどギリギリまで魔法使うね。外にリンサ姉さんが待ってるからノックがあったら私のことはいいからすぐに行ってね」
「……ありがとう」
リムリンは恐らく魔力がほとんど残っていないと思う。それでも倒れるまで使う覚悟でリンサ姉さんを呼んだんだと思う。リムリンは私に責任を感じているんだと思うけどこれまでの奴隷生活ではリムリンには世話になりっぱなしだ。責任を感じて欲しくないけど、でも今はリムリンを頼らせて貰うよ。
リムリンのヒーリングが傷口に当たる中一番深い肩口の傷に布を当てて固定する。その後新しい服を用意して貰っていたのでそれに袖を通していると扉が二回叩かれた。
「時間だね。それじゃリムリン行って来るね」
「……」
リムリンは床に横になり静かに眠っていた。魔力の限界を越えて使用したことで気を失っているのだ。
「本当にありがとう。行ってきます」
私が寝ていた場所にリムリンを寝かせて私は急いで扉に向かった。正直動きたくないほどの激痛が走るが弱音を吐くわけにはいかない。
リンサ姉さんに遅れたことを謝り少し急ぎ足で応接間に向かう。持ち物はない。奴隷の私はこの身が全てだ。これからはこの身全てを捧げてご主人様に仕えるのだ。
部屋の前に着き深呼吸してリンサ姉さんを見た。リンサ姉さんが頷き、扉を開ける。
「――失礼します。遅くなって申し訳ございません」
ここから私の新しい生活が始まるのだ。
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