第15話 奴隷商

奴隷商、主に犯罪者や食い扶持減らしに売られた者などが奴隷となりそれを販売する商店。

奴隷に人権は無く、所有者に生殺与奪全てが任せられている。奴隷には奴隷印が刻まれており、これによって所有者に逆らう事ができない。ただし、服従の縛りは所有者が自由に変更することができる。奴隷は所有者の所有物となる。故に、他人の奴隷に乱暴を働くことはその所有者に行ったものとなる。

奴隷を解放することは可能だが、奴隷印の痕は残る。所有者変更は国に認められた奴隷商でしか行えない。


――これが奴隷商の店前に置いてあった看板に書かれていたことの大まかな部分だ。

なぜ大まかかと言うと文字が読めないのでルナに簡単に説明してもらったからだ。

「(ま、だいたい分かったし、実際に入ってみようか)」


ここに来る前に市場などを見て周り、ある程度相場が分かってきた。

基本的に農作物は安いみたいだ。魚は作物の数倍、肉類は十倍近くしているから結構高い。

通貨としては帝国通貨で、大金貨、金貨、銀貨、大銅貨、銅貨、小銅貨とあるみたいだ。

商品の価値を考えると日本円で言うと大金貨が百万円、金貨が十万円、銀貨が一万円、大銅貨が千円、銅貨が百円、小銅貨が十円と言ったところだ。

ハーフの村で渡されたのは大金貨一枚と銀貨十五枚だった。つまり百十五万円だったわけだ。

あと街の市場では使われないけど王金貨と言うものがあり、王金貨は歴代の王様の顔が刻印された金貨で一千万円になるみたいだ。

ちなみにさっきの料理屋の普通のメニューが銅貨六枚。クロカスペシャルは大銅貨二枚と銅貨三枚だった。銀貨で払ったのでお釣りが沢山。俺は空間、もといアイテムボックスがあるので問題ないが、普通の人はお金だけで結構な重量になりそうだ。

市場で魔石と骨を三つずつ売ってみると銀貨五枚になった。これが高いのか安いのか分からない。だけど、少しダンジョンに潜っただけで銀貨五枚つまり五万円稼いだと考えると良い稼ぎだ。

それから相場を調べる為に少し買い物もしたので現在大金貨一枚、銀貨十五枚、大銅貨三枚、銅貨五枚。日本円で百十五万円相当。小金持ちになったが――奴隷、つまりは人を買うことができるほどの金額なのだろうか? 


「(見るだけはタダよ)」

「(タダより高いものは無いんだがな)」

「(タダより安いものもないわ)」

そうでもない気もするが。これ以上言っても営業妨害になるだろう。既に店の前でブツブツ言っている為、怖いオジさんがこちらを伺っている。

「では、行くか。――奴隷を見に来た。通して貰えるかな?」

ニッコリっとオジさんに笑みを見せるが表情がまるで変らない。


「――ようこそ、ドリオラ商会へ。店主がお待ちです。こちらへどうぞ」

オジさんと睨めっこしていると隣から声がかかり、苦笑した若い男が誘導してくれた。

「あのオッサンは石像か? 全然表情変わらなかったぞ?」

「いえいえ、れっきとした人間ですよ。剣闘会で優勝した猛者です。おすすめですよ」

「え? あのオッサンも販売中か?」

「もちろん。この商会では店主以外全て奴隷であり、商品です。私を含めて、です」

奴隷に門番をさせて、店員をさせ、掃除など雑務もさせる、か。特に束縛しているものは無いようだが。奴隷印で束縛されているのか?

「あのオッサンが無表情なのは奴隷印のせいか? 舐められないように表情を変えないようにっとか」

「いえ、あれは地ですね。もちろん奴隷に無表情で過ごすように命令することも、奴隷印を使い強制的に無表情にさせることもできます。ドリオラ様はお優しいのでその様なことはされておりませんが」

そんなこともできるのか。店に入ってこの男と門番以外に二人のメイド服を来た女の子とすれ違ったが皆いい服を着ている。いや、いい服かは分からんけど、少なくともズタボロの布切れ一枚ってことは無いようだ。最も今出会ったのは店で働く者だから見窄らしい格好はさせていないだけかもしれないが。


「こちらです。店主はすぐに参りますので少々お待ち下さい」

男は扉を開けると、深々とお辞儀したまま動かなくなった。これは俺が部屋に入るまで止めないな。

「ありがとう。ゆっくり待たせて貰うよ」

「(よく教育されているみたいね。清掃も行き届いているし、いい店かしら?)」

定位置にいるルナが歩いてきた廊下と入った部屋を見て感想を呟いている。清掃って姑か。

「(全然分からん。全員が奴隷とか言っていたけど、実際の奴隷を見ないと、な)」

案内した男はクルトと言い、スキルなし。LVも俺より低かった。

門番のオッサンはヴォゴロ。LVは少し高いがスキルは一つしか持っていなかった。二人とも職は奴隷となっていた。


「お待たせしてすみません。ようこそドリオラ商会へ、店主のドリオラです」

軽いノックの後、ウサ耳メイドを連れた小太りのおっさんがやって来た。


ドリオラ・コロット

人族LV23

奴隷商LV20

・種族鑑定LV5


鑑定してみたが、中々にLVが高い。奴隷商としては一流なんだろうか。 

メイドの方は特にスキルもなく、お茶を置くとお辞儀して部屋を出て行ってしまった。

「九条仁です。よろしくお願いします」

「クジョウ様。今のメイドはおすすめですよ。良ければ呼び戻しますが?」

俺そんなに見てたか? ……ルナが怒っているみたいだから見てたんだろうな。仕方ないじゃないか! ウサ耳をピコピコしながら大きなお胸様をゆさゆさしてるんだから! 呼び戻してくれるなら是非お願いしたいが、ルナが怒りそうだ。

「――いえ、大丈夫です」

「そうですか? ふむ。見たところ冒険者の方の様ですね。本日はどのような者をお探しで? 荷物持ちでしょうか」

「あー、そうですね。荷物持ちと言うより雑務を任せられる者ですかね」

「(料理ができる人よ。そこは譲れないわよ)」

「(分かってるよ。でも最初からスキルの話しとかしたら足元見られるかも知れないだろ。俺が見て調べるよ)」

ドリオラさんはブツブツ言っている俺を目の前にしても表情を変えず、思案顔で手を挙げた。

「クジョウ様、ダンジョンに潜り荷物持ちなどの雑務を任せることができる者、というご要望にお答え出来そうな者が男女数名おります。こちらに連れ「男はいいです」分かりました。では、女性のみという事でこちらに連れて来ましょう」

「こちらから出向くのはダメですか? 生活環境の確認や他に目に止まる逸材がいるかも知れませんし」

「分かりました。それでは西館の二階に向かいます。当店では男女別々の館に住まわせておりますので、男性の方も確認したい場合は仰ってください」

「今回はいいです」

「分かりました。それではこちらにどうぞ」

来た時と反対の扉を開けて誘導してくれているが、あっさりだったな。奴隷の様子を見せても問題ないってことか。


「(ちょっとジン、ちゃんと探す気あるのよね?)」

「(もちろんだ。料理と言えば女性、奴隷と言えば少女、仲間と言えば女の子、ハーレムと言えば美女! きっちり探し出すよ。俺、たちのパーティー(ハーレム)メンバーを!)」

「(――いい度胸ね。いいわ、今回は料理人だから女性でも。ただし、能力で選びなさい。容姿で選んだら許さないわよ?)」

「(ハッハッハ、モチロンワカッテイルサ!」

ドリオラさんの後ろをブツブツ言いながら進むと両側に扉が並んだ廊下に出た。数は両方で二十部屋ぐらいだろうか。


「ここが奴隷達の部屋になります。五人ひと組で生活しておりますが、ひと部屋づつ見て回りますか? それとも全員を廊下に立たせましょうか?」

流石にひと部屋づつ見て行くのは大変だよな。全員並べて一気に鑑定するか。

「そうですね。ひと部屋づつは大変ですし、呼び出して貰えますか?」

「分かりました。――皆、お客様がお呼びだ」

パンパンっと手を叩きトリオラさんが呼び掛けると次々に扉が開き廊下の両側に少女達が四十人ほど並んだ。

獣人や人間、小学生ぐらいの子までいる。皆、薄着ではあるがしっかりとした服を着ている。髪の毛も整っているし、肌が荒れているという事もないようだ。

「クジョウ様が想像している様な奴隷は私の店にはおりませんよ。私は奴隷商です。私にとって奴隷とは商品であり、品質を保つ義務があると思うのです。ボロボロの商品を欲しがる人は少なく、価値も低くなります。故に私の店では他店の様な扱いはありえません」

他の店は奴隷を人として扱っていないってことか。ふむ、初めにここに来たのは当たりだったのかな? 奴隷達がこちらを見る目も絶望した眼差しなどではない。普通にどこにでもいる女の子達だ。


「ドリオラさんの考えは俺も同意するところです。奴隷だからと人権を無視する行為は納得出来かねますので」

「そう言って頂け私共も大変嬉しく思います。しかし、それは外で言ってはいけませんよ。この国に奴隷に対する人権はありません。それは国民皆が理解していること。クジョウ様がどちらから来たのかは存じませんが、郷に入れば郷に従えっという事です」

ドリオラさんの声が少し穏やかに感じたが、その言葉は重い。

周りの奴隷達も表情が少し柔らかくなったようだが、ドリオラさんの言葉に奴隷の立場を再認識させられたようだ。

「忠告ありがとうございます。でも、奴隷は所有者の所有物でしょう? なら俺の奴隷をどう扱おうと俺の自由ですよね?」

奴隷達の表情が硬くなる者と嬉しそうに微笑む者とに分かれた。

「仰る通りです。しかし、それでも貴族の方の前では奴隷との立場をお考え下さい。奴隷だけではなく、クジョウ様も大変な目に合うことになります」

貴族か。上下関係にうるさそうだもんな。ま、成るようになる。今考えても意味が無い。

「覚えておきます。それでは少し見て回ってもいいですか?」

「もちろんです。気になる者がいたら申し付けて下さい。先ほどの部屋に連れて行きますので。どうぞごゆっくりと品定めして下さい」


ドリオラさんから離れ少女達の前を歩きながら鑑定を使うが、これは中々に恥ずかしい。両側に美女、美少女と言って問題ないレベルの女の子達が並んでいるのだ。

しかもさっき俺がドリオラさんに言った言葉のせいか、キラキラした目で見てくる子も多い。「私一生懸命ご奉仕します!」っと身を乗り出して言ってくる子もいる。もうこの子で良いんじゃねぇっと思うがその度に肩の方から衝撃が走るのだ。

そうしながら見ていると女の子達の首元や手首などに小さな模様があった。

これが服従の印みたいだ。この服従の印は罪の大きさなどでサイズが変わるとのことだ。大きい物になると手のひらサイズのものもあるらしい。

ここにいる子達は犯罪を犯したわけではないので一番小さいサイズになっているみたいだ。

通路の端まで行き一通り鑑定をしたが、料理のスキルを持っている者はいなかった。それどころかスキルがない者が大半だった。

「(この街にきてから色んな人を鑑定で見たけど普通スキルって持っていないのか? スキルを持っているのがレアなのか?)」

「(ルナは人間の常識は分からないわよ。でも普通スキルは鑑定で見ないと分からないから、スキルを持っていると知っている者も少ないでしょうね)」

ドリオラさんにスキルを持っている子はいるのかっと聞いてみると、「スキルは帝都の教会でしか鑑定できないので分からない」とのこと。教会にはスキル鑑定のスキルを持っている人物がいて、料金を払ってスキルの有無を教えてくれるとのこと。そこで優秀なスキルが発見されると帝国で召抱えられるらしい。

試しに少女達にスキルを持っているか聞いてみたが、五人が手を上げ二人は持っておらず、二人は持っているスキルと全然違うスキルを言っており、一人だけ本当のスキルを言っていた。スキルの認知度はかなり低いみたいだ。


「女性はここにいる者で全部なんですか?」

「いえ、他にもおります。ここの者たちは一部のお客様にのみ紹介しているのです。――奴隷を道具としか見ていない方には紹介しておりませんので、クジョウ様も他言無用でお願い致します」

「そういうことですか。どうりで綺麗な子ばかりだと。……という事は他の女性は他店と同じ扱いですか?」

先ほどのドリオラさんの発言がこの子達に対してだけ言っている可能性もある。

「まさか。私が先ほど言ったのはこの店全ての奴隷達に対してです。他の奴隷達もここの奴隷達と同じ服を着ております。ただ怪我がある者や少々年を取った者、過去に奴隷として仕えたことがある者やまだ教育が行き届いていない者などになり、クジョウ様にはおすすめし難いかと思った次第です」

「なるほど。それじゃ「(ジン、そこの部屋にも人の気配があるわよ。二人分、多分回復系の魔法を使っているわ)――ドリオラさん。この部屋は?」

俺が指差した部屋を確認してドリオラは言葉に詰まり「そこは空き――「俺の気配探知に二人引っ掛かってます。魔法の気配もありますけど?」…………」

俺の言葉に周りの少女達も少し騒がしくなったが、ドリオラさんが手を叩くとすぐに静かになった。

「皆は一度部屋に戻りなさい。クジョウ様。お隠ししたこと申し訳ございません。この部屋の者は今朝に怪我をしており、紹介しておりませんでした。……ご覧になりますか?」

「そう、ですね。ちょっと気になりましたし、多少なら私も治療の魔法が使えます。お願いできますか?」

治療の言葉に少し驚いたようだったが、特に何も語らず静かに扉を開け中に入った。

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