第14話 クロカスペシャル
「いらっしゃいませ~! お一人様ですか? 空いてるお席にどうぞ~!」
店に入ると元気な声で猫耳を生やした獣人らしき女の子が笑顔をくれる。良い、これぞ異世界ファンタジー!
獣人族だよな。猫人族か? 普通に可愛いし、周りのレベルも高い。異世界サイコー!
「ありがとう。あ、適当におすすめ持ってきて」
「おすすめですね、分かりました。少々お待ちくださーい!」
ネコ語使わないんだな、「○○にゃー」的な。
「(変なこと考えてないで席に座りなさい。棒立ちした変な人みたいよ)」
「(怒るなよ。ルナも可愛いぞ)」
「(う、うるさいわよ! バカ!)」
近くの席に座りながら赤くなったルナを見ていると周りから視線を感じ、見渡すと数人の男がニヤニヤしながらこちらを伺っていた。
「(なんだ? ルナのこと見えてるのか?)」
「(それはないわね。……見ない顔のやさ男が一人、特に荷物も持たず、しかし着ている服は珍しそうな物。そして時折ブツブツ呟き、ニヤける。頭のおかしい人に見られているんじゃないかしら?)」
「(辛辣なお言葉ありがとう。もう人前ではルナに話しかけるの止めようかな)」
「おい、兄ちゃん! なーにブツブツ言ってんだ?」
ルナが口を開く前にスキンヘッドの男がドガっとテーブルの上に腰掛けた。
「おっさん、そこは座る場所じゃねぇ。さっさとどけ」
「へへ、威勢がいいじゃねぇか。どけて欲しかったらちょっと金貸してくれねぇか? いい服着てんだ、儲かってるんだろ? 貧乏冒険者にちょっと恵んでくれよ」
俺を行商人とでも思っているのか? とりあえず小悪党決定。レベルは10か。俺と対して変わらねぇし。
「生憎アンタにくれてやる金はねぇ。どきたくないならどかしてやるよ」
「あぁ? てめぇが俺様を――うぉ! ちょ、が、ま、待って。お、おおい」
椅子から立ち上がりざまに男の首を掴みそのまま持ち上げてみる。
力の指輪のおかげで百キロはありそうなオッサンでも軽々と上がった。この街に来るまで魔物相手に試して分かったことだが、俺の筋力は力の指輪によって十倍程度上がっているようだ。握力も十倍ぐらいになっているので、やろうと思えばこのまま首をへし折ることも容易いだろう。
周りからもどよめきが上がりルナはため息を付いていた。
「おっさん、黙って席に戻るか、首をへし折られるか、それとも店の外に放り投げられるか、どれがいい? 俺的には二つ目が簡単だ」
指に軽く力を入れつつ、覚えたての威圧を試すことにした。
発動は簡単。相手を睨むだけ。相手の方が強い場合は効果がないみたいだけど。
「ッ! まてまて! 戻る! 戻るから! ちょっかいかけてすまね!」
どうやら威圧は成功しているみたいだな。オッサンの動揺が指を通して伝わってくる。
魔物や獣相手に使っても効果がなかったから不安だったけど上手く行って良かった。
首を掴まれ息も絶えたえに懇願するオッサンを床に落とし、席に座り直した。
「な、なんなんだお前」
「黙って戻れって言ったつもりだったけどなぁ? ま、アンタと同じ貧乏冒険者だよ。今後ともよろしく」
俺の言葉に顔を引きつらせてオッサンはすごすごと店の隅の席に戻っっていった。
「(目付けられるわよ?)」
「(ある程度実力を見せとけば、絡んで来るヤツも減るだろ? 強い相手だったら逃げるよ)」
「なーんか騒がしかったですねぇ。はい、私のおすすめ、クロカスペシャルでーす!」
先ほどのウエイトレスの子が満面の笑みで差し出して来たそれは大皿に焼き魚、煮魚、揚げ魚、刺身など魚料理が所狭しと乗っていた。
「おい、アイツ只者じゃないと思ったらクロカスペシャル頼んでるぞ」
「私クロカスペシャル初めて見たわ」
「クロカスペシャルって小骨一本でも残したら罰則があるって言うあれ?」
「クロカさんのオリジナルで値段も普通の料理の数倍だろ?」
「クロカちゃん可愛い」
「猫らしさを殺してウエイトレスしているって言ってたけど、おすすめは猫らしさ抜群だな」
「クロカさんマジ猫」
なんか店中から囁きが聞こえて来るんだが……。
「ありがとう。フォークか、箸ってないのかな?」
「にゃん? お兄さん、東方の人ですか? ありますよ。持ってきます」
「クロカさんにゃんって言ったぞ!」
「クロカさんのにゃん頂きました!」
「今日はいい日になりそうだ」
なんか人気者だなクロカさん。東方の人、か。日本転生者はやっぱり東から来たって言うんだな。
「はい。ハシです。ホントよくこんなの使えますねぇ。たまーにいるんですけどね」
クロカさんはそれだけ言うと厨房の方に戻って行った。
「(それじゃ三日ぶりの飯、頂きます)」
「(頂きます)」
ルナはフォークを握ってテーブルに座り俺の反対側から食べ出した。
え? ルナが座っても怒らないのかって? 可愛い女の子のお尻がテーブルに乗ることに怒る男がいるのかい?
「(変なこと考えてないで食べなさい。無くなるわよ)」
「(ルナがこれ全部食べられるならそれはそれで驚きだな)」
軽く三人分はあるだろう。ま、腹減ったし色んな種類があるのは有難い。魚オンリーだけど。
ルナは反対側にあった煮魚をバクバク食べていたかと思うとすぐに他の種類を少しずつ食べてフォークを置いた。
「(ごちそうさま)」
早いな! いや、ルナのサイズ的にそんなものか。お腹一杯になりそうだからってちょっとずつ食べるか。まぁ別にルナの食べかけでも気にしないが。
「(また変なこと考えているでしょ。私はもう食べられないからね)」
「(はいはい。あとは俺が食べるよ。……骨は残していいよね?)」
骨は残して食べ終わるとクロカが笑みを浮かべてお皿を下げに来た。
軽く身構えたが「おぉ~流石ハシ使い、綺麗に食べるね! 残っていたら文句言おうかと思ったけど問題なかったね!」っと褒めて去っていった。
食べ残しって身が残ってたら問題だったのか。周りの目も俺を賞賛しているようだ。
「(それじゃ次行くか)」
「(ええ、奴隷商で料理人を探すわよ!)」
俺とルナは新たな仲間(料理)を求めて奴隷商へ向かうのだった。
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