1章 ~異世界冒険始めます!~
第11話 ダンジョン入ります。
ハーフの村を出てかれこれ二時間ほど歩いた頃、俺達の前に土が盛り上がって出来たカマクラの様な形のものがあった。
「なんだこれ?」
「ダンジョンよ。これは入り口ね。中に入るとすぐに階段があるわよ」
ルナに言われ中を覗くと土で出来た階段の様なものが見えた。
「ダンジョンは生きているのよ。だから時間と共に地下で成長するわ。三階層ほどになったダンジョンはこうして入り口がせり上がってくるのよ」
「へぇ、便利だな。このダンジョンは出来たばかりなのか?」
「ルナも詳しくないけど、土と草木の状態を見るにまだ出来て時間が経っているようには見えないわね」
ルナに言われて入り口の周囲を見ると、土がせり上がった時に零れたような土が散らばっていた。
「これって本当に出来たばかりみたいだな。……ちょっと入ってみようか?」
武器はあるし、レベルも上がっているからそれなりに戦えるんじゃないかな?
「んー、ダメって言いたいけど、出来たばかりのダンジョンなら丁度いいのかしら。……無理はダメよ。一応体力は回復させるけど、魔力が無くなりそうになったらすぐに出るからね」
ルナのヒールで体力を回復してもらい、俺達は初のダンジョンに入ることにした。
ダンジョン内は薄暗いが周りが見えないようなことはなかった。壁の一部がほんのり光っていて、全体を照らしているみたいだ。
ダンジョンは魔物を生み出すという。地上に居る魔物も全て元はダンジョンから生まれた魔物が地上に出て変質したものらしい。
壁はとても硬く、山賊王の太刀で切りつけても傷が入るぐらいだ。ただ、ルームになっている場所同士の壁なら壊すことができた。絶対に壊れないのはダンジョンの一番外側の壁だ。それ以外の壁は一部は壊すことができた。恐らく魔物が生み出される壁は壊すことができない壁になっているのだろう。
ダンジョンコアは最下層にいるダンジョンボスの魔石らしい。倒すことで機能が停止するらしく、倒すことでダンジョン制覇となるのだ。
そしてダンジョンコアをダンジョン内から外に持ち出すとダンジョンがゆっくりと崩壊していくらしい。
「……ジン、気配が近づいているわ。気をつけて」
「了解。さて、と。初の魔物はいったい何だろうな」
山賊王の太刀をしっかりと握り締め、ルナが示す場所を見る。心臓の鼓動が想像以上に早い。流石に緊張しているみたいだ。
そして現れた魔物は、骸骨だった。
「……スケルトン? うわ、なんか気持ち悪いな。つかどうやって動いてんだよ」
ガチャガチャ骨を鳴らしながらゆっくりした動きでこちらに近づいていた。特に武器も持っていないし掴み掛かるつもりなのか?
「特に強い感じもしないわね。ジンなら大丈夫だと思うけど油断はしないでね」
「あぁ、もちろんだ。……ふー、よし。それじゃいっちょやるとするか!!」
ルナの言葉もあり、怖いと思うことはない。でも油断もできない。俺がこの世界で戦って行けるのか、どれくらい強いのか分からない。
だから先ずは一撃だ。この一撃で簡単に倒せれば俺は強いと思えるはずだ。
山賊王の太刀を盛大に振りかぶり、歯を噛み締め骸骨を睨む。
そして目の前まで進んで来た骸骨に、全身全霊を込めた一撃を振り下ろす。
「うおぉラァぁ!!!」
「ちょッ!! ジン!!」
ルナの焦る声が耳に届く前に俺が放った渾身の一撃は骸骨を軽々と粉砕し、――ダンジョンの床に穴を開けた。
そう、俺の足元にある床を。
「うおぉぉぉぉ!! 落ちる、ちょ! マジかッ!!」
「ジンのバカ!! なに叩きつけてるのよ!!」
床に亀裂が走り次の瞬間には俺は浮遊感を感じていた。ルナは俺の肩に捕まり一緒に落ちていた。
「ッ! ルナ! 俺から離れろ!」
下を見るとすぐに地面が見えた。飛ぶことが出来るルナを肩から離して、俺は床を転がるように側転して衝撃を流し、どうにか無事着地することが出来た。
「ジン! 大丈夫!」
「あぁ。どうにか無事だ。……でも下に落ちちまったな」
最悪の場合は下には降りないで一階層でレベル上げをしようと思っていたんだけど。
「終わった事だからあまり言わないけど、もう少し慎重に行動してよ」
「はい。すみません」
まさか骸骨があれほど脆いとは思わなかった。ほとんど抵抗なく切断してそのまま地面まで振り切っていた。
あれなら力の指輪が無くても倒せたレベルだな。
「反省したなら良いわ。――左から四体、右から三体、正面が一体ね」
ルナの感知は凄いな。これなら不意打ちを食らうこともないだろう。
「とりあえずもう少し練習したいから正面に行こう。一体なら問題もないだろう」
「ええ。それじゃ急ぎましょう。集まられた大変よ」
ルナの言葉に頷き、正面の通路を駆け抜けると俺達に気付いた骸骨がのろのろとこちらに歩きだした。
「コイツなら全然問題ないだろ。食らえ! 骨砕き!」
太刀を横になぎ払うように斬ると骸骨は上半身が砕けちった。
本当に脆いな。これが魔物って言うなら楽勝だろう? 山賊王の太刀が強すぎるのか? 神具だしな。
「あ、ジン。あれ、何か落ちてるわよ」
ルナに言われ骸骨が倒れ崩れ去っている所を見ると水晶の欠片のような石が残っていた。大きさはピンポン球ぐらいなのだが、ルナは良く気付いたな。
「なんだこれ? 鉱石?」
「魔石ね。これは小さいから使えないけど、大きな魔石なら魔法を使うとき魔力の変わりに使えるわよ」
「へぇ。魔物は皆、死んだら魔石を残して消えて行くのか?」
「ダンジョンの魔物は死んだら消えるわ。ダンジョンに吸収されているって言われているの。その時に稀に魔石やその魔物の体の一部が残る事があるみたいね。魔物の素材は街で買い取ってくれるはずよ。武具の材料とかになるみたい。魔石は素材より希少な物のはずよ。今回は運が良かっただけだと思うわ」
なるほど。ならこの魔石は街にでも持って行けば良い値段になるだろう。大事にしよう。
空間の腕輪を使い魔石を中にしまう。……念の為、二度ほど出せるか入れ直してみたが問題はないみたいだ。
「よし、それじゃ奥に進もうか」
「ええ。――この先には気配はないみたいね。でも用心は忘れないでね」
骸骨は死んでいるんだし、気配があるのもおかしい気がするが。いや、動いている以上気配はあるのか?
「ほらバカな事考えていないで行くわよ」
「うぃーす」
肩に座っているルナにジト目で睨まれ先へ進んだ。
「って、階段かよ。しかも下りって」
次のルームに行くとポツンと部屋の真ん中に下りの階段があった。
穴から落ちたとはいえ、もう三階層かよ。
「……正直今のジンの装備でダンジョンボスと戦うのは心配だけど」
まぁ、山賊王の太刀と力の指輪があるとは言え、防具は制服だしな。防御力ゼロでボス戦とか自殺行為だろうな。でも、
「骸骨が相手なら行けるんじゃないか? この太刀の性能なのか分からんけど、一撃粉砕だぞ? ボスとは言え骸骨のボスなら問題なさそうだけど?」
「それが油断と言うのよ? ……でもこのまま地上を目指すのも勿体ないわね。――――いざとなったらルナがどうにかするしかないかな」
最後の方は小声だったが静かなダンジョン内だった為、ある程度は聞き取れた。ルナは切り札があるのかね。
「いざとなったら逃げればいいさ。多少の怪我は覚悟の上だし、ルナが治してくれるだろ?」
「はぁ。分かったわ。でも絶対油断はしないでね。そうやって死んでいったのが、転生者達なんだから」
う、その言葉は重みがあるな。転生者が死にまくって今の現状なんだろうし。うん。油断はしないぞ。
「俺にはルナが居るからな。他の転生者みたいなことにはならないさ」
「……さっさと行くわよ」
プイッと顔を背けたルナに笑いかけ、階段を降りていく。
このダンジョンが本当に出来たばかりなら三階層だろうけど、もし時間が経っていたら四階層、五階層と続く可能性があるのか。
余力を残しながら戦わないとな。まだ二体倒しただけだから全然問題ないけど、この後数十体を倒す必要があったら流石にキツイかもしれない。
「大丈夫よ。この先に強めの気配があるわ。たぶんボスだからこの階層で終わりよ」
……俺の思考はなぜこうもバレバレなのだろうか。
「だって分かるんだもの」
「――何も言っていないぞ?」
それからルナの案内で階層を進み、更に十体の骸骨を倒した。
全て一撃で倒せたし、力の指輪のおかげで太刀を振り回しても殆ど疲れが溜まることはない。
これなら数十体倒しても問題ないだろうな。
それと骸骨を倒して魔石を更に四つ手に入れた。ルナが首を捻っていたが、本当に希少な物なのだろうか? この短時間で五つ手に入れたんだが。
あとは骨が三本残った。……そう、骨だ。骸骨が落とせる素材なんてほかに無いだろう。
ただ、二本は三十センチほどの骨だが、一本は五センチほどの小さい骨だった。残る素材はどういう基準なのか本当に不明だ。
ちなみにレベルも一つ上がっていた。
レベルの上昇で体力や魔力も上がっているみたいだけど、一、二上がっても強くなった実感はないな。
「――この先よ。準備は良い?」
ルナに言われて次のルームに視線を向けると少しゾワッとするものがあった。
これまでの骸骨とは違う何かがいると俺でも分かる。
「一応、体力を全開にしてくれるか? 少しは魔力も回復しているし大丈夫だろ?」
「ええ、分かったわ。――癒しの光よ、ヒール」
ルナのヒールを受けて僅かにあった疲労感が抜けていくのが分かる。
万全の状態にはなった。あとは俺の力がどこまで通じるか、だな。
「ありがとう。――それじゃ、いっちょダンジョン制覇と行こうか!」
不安はある。恐れもある。だけど、これほど楽しいと感じたことは今までなかった。
この先にいるのは強敵だろう。だけど、これこそが冒険。これこそが異世界ファンタジーだ! なら、楽しまなきゃ損だろ?
「ふふ、緊張が解けたみたいね。良い笑顔よ。それでこそルナのパートナーよ」
嬉しそうなルナの顔を見ていると、不安や恐れもどこかへ行ってしまったみたいだ。
「後悔はさせないさ。先ずは第一歩だ。このダンジョンから始まる俺の輝かしき冒険の日々。退屈はさせないぞ」
「ええ。楽しみにしているわ。それじゃ行きましょう。ジンのことはルナが守ってあげるわ」
今は、ね。そう聞こえた気がした。でも、必ずそうしてみせるさ。
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