第5話 チート精霊の片鱗

 ルナに先導してもらいながら走ること十数分。ようやく木々の終わりが見え少し先の方に家や柵などが見えてきた。


「はぁ、はぁ、はぁ。そ、そろそろ魔力回復してないか? いい加減腕の感覚が曖昧になってきたぞ」


 右手を庇いながら走り続けたせいで服は血まみれになっていた。痛みはほとんど感じなくなってきているが、血が流れ過ぎたのか頭痛と軽く目眩がする。

 逃げる時に使った魔法で魔力は殆ど空になったらしく、回復魔法が使えないでいた。


「まだヒールが使えるほどは回復していないわ。出来ればある程度回復するまで待ちたいところだけど。盗賊達の気配は感じないし、そのナイフを抜いて血止めをしましょう」

「……いや、ここじゃ何もない。せめてあの村に行って水と何か布をもらおう」


 今抜いたら血が止められないかも知れない。ヒールが使える様になるまでもうしばらくかかるなら尚更だ。それに針の怪我を治す魔法で魔力を三割も使ったんだ。本当に治るのか不安だ。村で手当して貰えるならその方がいいだろう。


「……分かったわ。でも、村でも私は姿を見せない様にするわよ。一人で大丈夫?」

「俺には見えるんだろ? なら一人じゃないさ。出来れば少し寝床も貸して欲しいところだな」


 体が怠くて仕方ない。動けるうちにさっさと村に行こう。

「そうね。少し休ませてもらいましょう」


 ルナは俺の肩に乗り微笑んでくれた。ルナは羽の様に軽いからまるで負担を感じない。それどころかルナに寄り添われているという事が俺に力をくれているようだ。



 村は柵に覆われていたが門が開いていたので普通に入ることができた。

 入って一番近い家を目指して歩こうとした時、その家の扉が開き中から若い女性が出てきた。

 緑色の髪に簡素な衣服をきた同い年ぐらいの女性だ。とりあえず鑑定。


ミサ・エフィード

村人Lv5


 村人か。スキルとか種族が分からんとホント役に立たんな。これ。


「あ、あの」


 俺の声にこちらに気付いた女性は驚きはしたものの俺の怪我に気付いて慌てて駆け寄って来てくれた。


「だ、大丈夫ですか! これは、腕ですね。他に怪我している場所はありますか?」

「い、いえ、これだけです。誰か治療できる方はいらっしゃいますか?」

「治療師はいませんけど、簡単な治療なら私の姉が出来ます。こちらに」


 女性は俺に軽く触れ先導してくれる。ルナの顔が少し膨れている気がするが気のせいだろう。



「ミオ姉さん! 怪我人です!」

「ミサ、もう少し静かに――人間ッ! どうしてここに!」


 家の扉を豪快に開けるミサさんに連れられ中に入ると机に紙を広げ仕事をしている美女がいた。

 ミオと呼ばれた女性は鋭い目つきで俺とミサさんを交互に見ていた。


「そんなことより治療だよ! 腕の怪我だけど、出血が多いの!」

 焦るミサさんを余所に、失礼と思いながらもミオさんの鑑定も行う。


ミオ・エフィード

村長Lv23


 村長ですか! しかし、人間呼ばわりってことは――くそ、種族が知りたいぞ。


「(ルナ、この人達の種族ってなんだ? 人間にしか見えないけど違うんだろ?)」


人間呼ばわりされたわけだから他種族何だろうけど、髪の色ぐらいしか違いがないぞ。いや、ミサさんもだけどかなり美人ではあるが。


「(ハーフエルフね。耳がホンの少し尖っているでしょ? それ以外は能力的にはほとんど普通の人間と変らないわよ)」


 いきなりエルフきた! ――って尖っているか? 美人の人間にしか見えないぞ。ハーフだからか?


「ミサ、そんなことではないわよ。まさか貴女が外から連れて来たの?」

「いえ、俺が勝手に入って来ました。森の中で盗賊に襲われて逃げた先にこの村を見つけました」

「私も驚いたけど、入って来れたってことは適正者ってことでしょ? なら怪我の治療もしていいでしょ!」


 適正者? 普通はあの門を通れないってことか? 


「(ハーフ種は迫害されているの。だから人里離れた場所に聖域を作って外敵から身を守っているのよ)」

「(迫害か。それで俺に敵愾心があるってことか。ここから離れた方がいいかな?)」


 もうしばらく待てばルナの回復魔法が使えるだろう。トラウマを負う者としてトラウマを刺激したくないものだ。


「――ここで見捨てたら私もアイツ等と同じになるわね。分かったわ、でも私は簡単な治療魔法しか使えないわよ」

「助かります。お願いします」


 向こうが折れてくれるのならお願いしよう。とりあえず傷が塞がってくれればどうにかなるだろう。

 左手で押さえていた右腕をミオさんの前に差し出す。「うっ」っと顔を引きつらせるミオさんは深呼吸し両手を右手に添えた。


「ナイフは自分で抜けるかしら? 無理なら私がやるけど、痛くても文句言わないでね」

「自分で抜きますよ。ふぅー。んッ!」


 ひと思いに引き抜いたが思った以上に痛く泣きそうだが、すぐに右腕に風と暖かい光が降りて痛みが和らいできた。


「癒しの風よ、かの者に安らぎを、ヒーリング」

「(癒せ精霊の息吹、リカバリー)」


 ミオさんの魔法に少し遅れてルナの魔法が流れてきて、傷は瞬く間に塞がっていき痛みもまるで感じなくなっていた。

 二人に回復して貰っているがルナの魔法が上だろう。ミオさんの魔法は恐らく裂傷を塞ぐほどの効果はないと思う。

現に俺の傷が塞がることに一番驚いているのはミオさんだ。


「ミオ姉さん、すごい……」


 ミサさんも唖然として見ていた。そりゃ血止め程度と思っていた魔法が傷を完全に塞いでいたらビックリするよな。


「(ルナ、魔力は足りたのか?)」

「(足りないから魔力を重ねてあの子の魔力を使ったわ」


は? 他人の魔力を使えるのか? というかバレないのか? 

……え、鑑定のスキルがないし自分の魔力も確認できないのか? ……まぁ自分の体力(HP)を数値として確認なんか普通できないか。


「(大丈夫なのか?)」

「(普通に生活する分には問題ないわよ。それなりの魔力を使ったから疲労感はあるだろうけど、その内回復するわ)」


 そういうものなのか? おっと、


「ありがとうございます。おかげで治りました!」


 二人の前で右手をグーパーして問題ないことをアピールしておく。

「え、ええ。どういたしまして。何だか魔力をかなり使った気はするけど、こんなに効果があるなんて……。新しい魔法覚えてみようかしら」

「それがいいよ! ミオ姉さんならもっとすごい回復魔法も使えるよ! 傷が完全に塞がるなんて私初めてみたよ!」


 ミオさんはまだ呆然としているが、ミサさんは興奮が醒めないのか大はしゃぎでミオさんの手を握っていた。

 とりあえず目的は果たせたけど、さすがに少し休みたいな。ルナとももう少し落ち着いて話しもしたいし。


「すみません。怪我を治してもらった上にこんなこと言うのも厚かましいんですが、少しの間休む場所を貸してもらえませんか?」


「ええ、もちろん。元々そのつもりよ。まさか完治するとは思ってもいなかったからね。私も少し休みたいからここを使っていいわ。隣の部屋に仮眠用のベットがあるから。私たちは一度家に戻って、村の人たちに貴方のことを伝えてくるからゆっくりしてていいわよ。後で、食べる物も持ってくるわ」

「ありがとうございます」


 二人は部屋の中を軽く片付けて後で来ると告げ出て行ってしまった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る