第3話 精霊神ルナ
「やることは分かりましたけど、結局チート能力って何なんですか?」
最強の武器とかスキルって事か? でも今の話を聞いていると伝説の武器をもらっても扱えないならあまり役に立たない気もするな。
スキル系の方がいいのか? 武器自体は迷宮内に落ちてるわけだし。いや、能力が落ちるなら貰った方がいいのか?
「残念ながら、今渡すことができる神具やスキルには君の想像を越えることができる物はないんだ」
「ないって。武器もスキルも無しで異世界に行けってことですか? 多少の喧嘩なら自信もあったけど、人間の女に殺された身ですよ。魔物どころか野犬相手にだって殺されるかも知れない。そんな危険を冒すぐらいなら別の世界の方がいいと思うんですけど?」
「そこで大いなる力だよ。常人では扱う事ができないから私の使徒にしか授けられないんだ。ただしこの力は君が使徒にならないと見せることもできないよ」
「じゃなります」
これ以外武器もスキルもないならそれ以外言えませんよ?
異世界に武器もスキルもなしに行くとか財布を持たずに観光行くようなものだろ。神様が大いなるとかチートとか言っちゃてるし大丈夫だろう。
神具の回収と迷宮クリアの報酬にスキルが貰えるって言うなら待遇も悪くないしな。
「キミはなんと言うか……まぁいいか、宣言も受諾したことだしキミを九条仁を私ヘルトスの使徒に承認する」
その瞬間体に電気が走り何かが体中を駆け巡っている様に感じた。
「っ? なんだ今の? 俺に何かしたんですか?」
「私の力が僅かだけどジンに流れたんだよ。これで契約は完了だよ。ジンはこれから私の使徒だ。神具探しで必要になるから神具鑑定のスキルは授けておいたよ」
使徒になるって簡単なんだな。特に体に変化はない。スキルもあるかないか分からないのはキツイな。
「目に見える変化はないよ。体も人間のままだから刺されたら死ぬからね?」
「ちょっ! 大いなる力はどうなったんですか!」
「もちろん授けるよ。さぁ、これが大いなる力だ――守護精霊召喚dy神」
神様が両手を天に掲げると魔法陣が広がり光が辺りを覆い尽くした。
そして光が消えるとそこには少女がいた。
かなりの美少女だ。ただ――小さい。
身長は三十センチぐらいだろうか。銀髪で青い瞳の少女が宙に浮いていた。守護精霊と言っていたし精霊なのだろうか。
背中に半透明な羽を生やし空中で神様を睨んでいた。
「――ルナを強制召喚するなんて誰かと思ったら――アンタ馬鹿なの? ルナに精霊のお守り押し付けといて何召喚してくれてるの? これ契約召喚でしょ? ルナに複重契約させるつもりなの? アホなの? 精霊契約って分かっているの? ハゲなの? ハゲでしょ? ハゲな――」
「そろそろ落ち着こうか、さもないとその羽ちぎっちゃうよ?」
まくし立てる精霊ルナ? にニッコリと微笑みかける神様にゾワっとした。
そしてルナの方も少し顔を引きつらせて視線を逸らし、視線の先にいた俺と目があった。
「人族――よね? 何か変な気配がするけど? ――なるほどコイツとルナを契約させるつもりってことね? ここ神域よね? ならコイツは転生者、人族ならルナと釣り合わない――使徒にしたのね。という事は狙いは神具の回収、いえ、迷宮の方ね。やっとあれをどうにかするつもりになったのね。なら現契約は完了。再契約でこの人間に力を貸せということね?」
俺と神様の顔を交互に見ながら推理するかの如く次々と結論を出し自分が呼ばれた理由を理解したようだ。
「頭の回転が早くて助かるよ。まずは紹介しよう、こちら今回私の使徒にした九条ジン君だ。見ての通り人間だよ。素質のある、ね。そして彼女はサザンクルに三体しか居ない精霊神の一体、精霊神ルナ。見ての通り小さいクセに何かと口やかましいちびっ子精霊だ。これでもサザンクルでは最高峰の一角だけどね」
「誰がチビよ! ビビ達より大きいんだからね!」
大いなる力ってサザンクルの精霊の頂点をお供に付けてくれるってことか。確かに破格の待遇だな。なんか裏がありそうだけど。
「精霊神が小精霊達と背を比べるのはどうだろうねぇ。それはともかくルナ、ジンと契約をしてくれ。いくら君でもこの空間に長くいるのはマズイのでね。あぁ以前の契約は解いてあるから安心したまえ」
「フンッ! アンタもこんなのの使徒になる何てどんな精神しているのよ。まぁ転生者なら仕方ないけど。――まぁいいわ。手を出しなさい」
神様をこんなの扱いか。まぁ、気持ちは分かるけど。
スーっと俺の前に移動してきたルナは俺の手に触れ、――隠し持っていた針を指に突き刺した。
「ッッッテぇぇ!! っ何すんだ!?!?」
完全に油断していた。まさか守護精霊とか言いながら俺を狙う刺客だったとは。
……冗談はさておき、深々と刺さった指からピューと血が吹き出している。我慢出来ないほどの痛みじゃないけど、さっきの今だ。思わず背中に意識を向けてしまう。
傷口を押さえる俺から視線を逸らしながらルナが「け、契約に血がいるのよ」っと冷や汗を流しオドオドと言っている。
「知るか! 血がいるだけなら軽くさせよ、つか事前に言えッ! 思いっきりぶっ刺しやがって、軽く死んだ時のトラウマ思い出したぞ! クソ、これだから女は!」
「え、あんたホ――」
「ちげぇよ! なにちょっと嬉しそうな顔してんだよ! そっちはなに爆笑してんの神様!」
「はっはっは、いやー、ただの精霊契約でこんなバタバタすること何てないから面白くてね。っと、時間がないね。ルナ緊張しているところ申し訳ないけど、早く済ませてくれないか」
「わ、分かっているわよ! ほらジン、男の子でしょ我慢して手を出しなさい」
「――さっさとやりやがれ」
血がドクドク流れる指にルナが触れると僅かに痛みが引き、次いで指から全身に熱が伝わってきた。
暖かい、全身を包み込む様にルナから力が流れてくるのを感じ取れる。
「ここに契約は完了する。――癒しの光よ、ヒール」
ルナの手が淡く光り指の傷が瞬く間に消えた。すげぇ完全に治った。さっきまでの痛みが嘘みたいに消えている。これが魔法か。
「こんなあっさり治るなら契約する前に治してくれれば良かったのに」
「血と傷口に触れる必要があったのよ。……その、痛い思いさせてごめんなさい」
俺の顔の前で宙に浮いた小さな少女が頭を下げていた。こんな小さい子にグダグダ文句いうのは違うよな。
女にも容赦しない生き方を目指す俺だが、これからパートナーになる小さな女の子には寛大であろう。
申し訳なさそうに謝る姿にこれ演技ならこれから苦労しそうと思いながら小さな頭を撫でてみる。
「……必要なことだったんだろ、なら気にするな。……その、なんだ。異世界生活は楽しみ何だが、多分分からないことだらけで苦労かけると思う、これからよろしく頼むよ」
「ふ、フン。仕方ないからルナが面倒見てあげるわよ! 感謝しなさい」
「さて、契約は無事完了したね。ただ思ったより時間がないようだ。ルナには神具の返還の為のスキルを授けてあるから、神具を見つけたらルナに渡してくれ。あとはそうだね、使徒にはしたけどジンはジンの生きたい様に生きて構わないよ。その途中で役目を果たしてくれればそれで良い。君の新しい人生だ。後悔の無いようにね」
突然の言葉に唖然とした俺に神様はニッコリと微笑んでくれる。
「さあ時間だ。新たな旅路に幸あらんことを」
「――行ってきます」
暖かい言葉に感謝をして俺は新たな世界に旅立った。
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