第2話 神様っているんだ。


「女なんか糞くらえだぁぁぁ!!!」




「――――これはまた活きのいいのが来たものだねぇ」


 気づくとそこは真っ白な空間だった。


 先ほどの女はもちろん、川や岩なども何もない。

 声が聞こえた方に視線を動かすと白いローブの様な物を纏う若い男がいた。


「え? ここは? アンタは――、って言うか傷が無くなっている? 痛くねぇ? 濡れてもいないし、なに、え? どうなって?」


 起き上がって刺された所を撫でてみたが痛みどころが服に破れた痕すらなかった。岩にぶつけたはずの頭にも痛みはなく、ふらつくこともないようだ。


 背中を刺された痛みは夢や幻なんて生易しい痛みじゃなかった。それがまるで何事もなかったみたいだ。


「安心したまえ、君の怪我は治っているよ。正確には治ったとは言えないかも知れないけどね」


「ならなんだよ。つかここは? アンタ医者――には見えねぇな。なら俺は死んだのか? アンタ神様?」


「おぉ、いいねぇ、それでこそ今時の子だね。話しが早くて助かるよ。――その通り、私の名はヘルトス、導きの神ヘルトスだ。君は死んでここに来ることに成功した。おめでとう。君は新しい人生を手に入れた」


 ただの冗談だったのだが、神を名乗るこの男から先ほどまでのお気楽な態度は消え威厳のある声、その言葉が嘘偽りを疑うことなく俺の中に染み込んでいくようだった。


 漠然と理解した。目の前にいるのは神なのだと。


 そして理解させられた。

 俺は川辺で死に、神に出会い、転生することを許可されたのだと。


「なるほど。それで俺はこれから異世界に転生されるってことですか。……転生なんですか? 転移なんですか? この肉体ですか? それとも新たな肉体? 武器は? スキルは? アイテムは?」


「あー、大丈夫だよ。説明はするし、質問にも答えるから。先ずは、最初の質問だ。転生、転移、答えはどちらでも大丈夫だよ。ただし、転生、子供として生まれ変わる場合は武器やアイテムはもちろんないよ。転移の場合は今の肉体のままで送ることになる。特典は一つ、ただし初めに教えるわけではないよ。君が選んだ結果に対して相応しい物をあげるよ」


「なるほど。異世界は魔法や魔物、スキルやレベルが存在するんですか?」


「もちろん。ただレベルに関しては存在はするけど、認識はできないね。それに特化したスキルがあれば分かるけどね」


 つまりはまんまゲームや小説の王道異世界ってことか。それなら転生して一から始めるよりはこのままの姿で転移して武器かスキルによるチート生活の方がいいか。


「であれば、転移でお願いします。スキルは武器を無限に生み出し、放つことができるもので」


「……転移は良いけど。スキルは――ムリかな。私はあまり世界に干渉できないからね。今のスキルを実現するには世界に大分干渉する必要があるよ。剣を一本あげるからそれでいいかい?」


「……絶対嫌です。では神様が用意できる内、チートになり得るスキル、または武具は何がありますか?」


「うーん、さっきも言ったけど先に教えていないんだよ? ……でも君なら。うん。君ならチート授けても良いかも知れないね」


 おっ、マジか。言ってみるもんだな。神様が認めるチート能力って凄そうだけど。



「……ただし条件があるよ。私の使徒になることさ」



 使徒? 俺は別に天使属性はいらんが。いや、天使なら魔族に有効か?


「あ、いや使徒と言っても天使じゃないよ。そうだね、私の手助けをしてくれる者といったところだよ。私の使徒となり私の手伝いを頼みたいんだ」


「……手伝いですか。それで、何をさせるつもりなんですか?」

 聞きたくないけどチートな異世界生活が俺を待っているからなぁ。


「は、ははは。ホント君は物怖じしないねぇ。うん、そんな君だからこそやり遂げてくれるだろう。実は今、異世界サザンクルは滅びの危機に瀕しているんだ」


「……死んだと言っても自殺願望があるわけじゃないですよ? そんなやばそうな所に行きたいとも思えないんですが」


「まぁ先ずは話を聞いてくれ。サザンクルには人族以外にも多種多様な種族が生活しているんだ。そして魔法があり魔物がいて魔素と呼ばれる物質が満ちている世界だ。この魔素と人々の生活は切っても切れないもの何だけど、ここ百数十年で魔素の量が大幅に増加しているんだ。原因は分かっている、地下迷宮と呼ばれているダンジョンのせいなんだ。本来は魔素の量を調整して世界を救うための措置だったんだけど、ダンジョンの数が爆発的に増えて今や世界を危機に晒すものに変わってしまったんだよ」


 なるほど。異世界と言えば冒険、冒険と言えばダンジョン、ダンジョンと言えば地下迷宮だと思っているし、むしろ多いのは大歓迎だけど。


「その考えはこちらとしても大歓迎だよ。世界が危機に陥っている原因はダンジョンにあるからね。元々は魔素と呼ばれる魔力の残滓を清浄する為に用意したんだけど、その数が異常に増えて大気中の魔力まで吸収しているんだ。そのせいで世界中に異常が起こり初めているんだ。魔物の大量発生とかね」


 何となく理解はしたけど、それなら俺に手伝えって言うのは、


「迷宮(ダンジョン)の破壊ですか?」


 数が異常に増えているから問題が起こっているなら迷宮を間引けば問題が解決するってことだよな?


「端的に言うとそうだね。迷宮自体は最下層にあるダンジョンコアを破壊すると機能を失うんだけど、中々上手くいかないみたいだ。……実は、ね。これまでサザンクルに送った転生者の生存率は一割以下なんだよ」


「――今、なんと? 一割以下? 十人に一人しか生きてないってことですか? そんなに過酷なんですか?」


 そりゃ、冒険者としてダンジョンに潜っていれば命を賭けることになると思うけど、武器やスキルを貰えるんだよな? それでそんなに生存率が低いのか?


「武具やスキル、アイテム何かを一つ授けてはいるよ。それに私も出来るだけ助言はしていたんだけど、私とキミ達では認識に齟齬があるみたいでね。殆ど意味を成していないんだよ」


 いや、成していなんだよ。とか言われましても。

 もうちょっと頑張ってくださいよ。こちとら本当に命掛かってるんだから!


「本来はこういった世界に関する説明はしないんだよ。いや、してはいけないことになっているんだ。ただキミは私の使徒になれる素質があるみたいだからね、良い機会だと思ったんだ」


 素質ねぇ。スキルや伝説級の武器を持ってしても大半が命を落とす、か。

 国同士で戦争が行われている様な世界より過酷なのかは分からない、――だけど、


「面白そうではあるな」


「うん。キミならそう言ってくれると思っていたよ。もし使徒になることを拒否する場合は今の話しは記憶から消去させてもらうよ」


「さいですか。……それで? 使徒になって異世界でダンジョンを攻略するに当たって、神様が授けてくれるチート能力とか、その辺りはどういう物なんですか?」


 面白そうであってもどうしようもない世界なら行きたくないし、貰える特典が微妙なものだったとしても無理だ。


「ハ、ハハ。まぁ安心したまえ。私が授けようと思っている恩恵と君の素質があれば十分に使命を全うできるよ。先ずはサザンクルの現状を説明する必要がある。さっきも言ったけど、サザンクルには魔素を処理するための施設としてダンジョンが無数に存在しているんだ。これまではここに辿り着いた者達をサザンクルを救う為にダンジョンに挑ませようと、ありとあらゆる神具を持たせて送り出したんだ。――ただそれが失敗だった。転生者の死後、サザンクルに使用者が居なくなった神具が溢れ返ってしまい、世界のバランス――神気のバランスが乱れてしまったんだ」


「神気? それが乱れたらどうなるんですか?」


「すぐに何かが起こるわけではないんだけどね。現状では迷宮の異常と重なって災害の頻度が上がっている程度かな。でもこのまま放置しておくわけにはいかないんだよ。所有者以外が持っても能力が制限されるんだけど、それでも神具は強力だからね」


「それなら神様の力で神具を回収したら良いんじゃないんですか?」


「私もそうしたい所なんだけど、私は世界に直接干渉することが出来なくてね。私が干渉すると本当に世界が崩壊しかねないんだよ。だから私の代わりに使徒としてサザンクルを救って欲しいんだ」


「つまり地下迷宮を攻略しつつ、過去の転生者が残した神具を集めろってことですか?」


「そういうことだよ。私が頼みたいのは迷宮の攻略と転生者達に持たせた神具の回収だ。一応地上に残された持ち主不在の神具に付いては精霊達に回収をお願いしているんだけど、人手に渡った物や迷宮内に残された神具が問題でね。それらの回収もお願いしたい。一応迷宮の制覇や神具回収の報酬として何かスキルを授けるようにするよ。……それと神具の一つに「ルテクの宝玉」と言う魔法石があるんだけど、それの回収を最優先でお願いしたい。この魔法石は放っておくと本当に世界が滅ぶかも知れないからね」


 はははっとニコやかに笑っているがそれは笑って済ませれる問題か?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る