エピローグ

1

 放課後、階段を一生懸命駆け上がっていく女子がいた。名札によると六年の先輩。

『ノートを忘れると、宿題できない……担任の先生、ネチネチうるさいおばちゃんなのに。宇佐田じゃなくてウザ田だよ』

 ランドセルがないところを見ると、一度帰った後で忘れ物を取りに来たみたい。一番上の階は普通に上がっても大変だから、急げばなおさらだ。時間が遅いので、すれ違う生徒はいない。

 やっと教室に着いて、職員室で借りてきたカギを使った。ドアを開けて、中へ。

 駆け込んですぐに立ち止まった。何かおかしい。むしろ何もかもおかしい。

 カウンターがあって、横に肉まんや温かいお茶。周りには棚がたくさん。並んでいるものは飲み物やお弁当やお菓子。マンガや雑誌も並んでいる。

『コンビニ? 私、教室に来たはずじゃ……』

 振り返ると、後ろにあるのは自動ドアだった。

『いらっしゃいませ!』

 カウンターから元気な声をかけてきたのは、知っている人? 普段とは違う顔つきと服装だ。

『ウザ田……じゃなくて、宇佐田先生?』

『何をお求めでしょうか?』

 ふざけているだけ、というレベルじゃない。その女子はオロオロするばかり。

『あの、私、ノートを忘れて……』

『忘れたノートは品切れとなっております。注文いたしましょう』

『そうじゃなくて、机の中に入ってて……』

 宇佐田先生は電話の受話器を手に取った。

『もしもし、来々軒らいらいけんですか? 忘れたノート一丁』

『先生、今ラーメン屋さんに電話しました?』

 自動ドアから鳥が入ってきた。クチバシが大きくて、下の部分がたるんでいる。ペリカンだ。クチバシから小包を出して、先輩に渡す。よだれつき。

『この中に、ノートが?』

 先輩がしめった包装紙を恐る恐る指先で外すと、中からぱあっと光があふれた。

『まぶし……』

 目を閉じてしまって、次に開いたときもうそこは普通の教室だった。手には忘れたノート。

『今の何……これ、ちょっとしめってない?』


 何って、もちろんヘンななフシギだ。私たちは、ゆーま君の部屋からそれを見ていた。

「『夜の教室に閉じ込められる』ってななフシギがあるけど、迎えられたら変で面白いよね!」

「さすがのあたしも、どこから突っ込めばいいのかわからないぞ」

 ヘンななフシギが完成してから何日もたった今、私たちはまだヘンななフシギを作っていた。

「それにしても、ハルさんがもっと作るといったときは驚きました」

「ボックも七つできて安心してたところだったっシュよ」

 ツキちゃんやゆーま君がいったとおり、私も七番目ができたところでやめるはずだった。でも、アイデアはときどき浮かんでくる。今回の〈先生が教室でコンビニ経営〉は十番目だったかな?

「ななフシギが七つだけなんて、決めつけはダメだよ」

「無茶苦茶いいやがる」

「ハルさんの意見自体は否定できませんね」

 ツキちゃんはスマホを操作していた。

「学校のななフシギをよく調べたら八つも九つも発見、という場合もあるみたいです。『七つ知ると不幸になる』なんて設定付きだと、数が多ければ七つ知ってしまう可能性アップですね」

「ここは違うことにしようよ。七つ知ったらラッキーセブンでいいことがあるとか。たくさんあれば、ラッキーセブンになりやすいよ」

「残念だけど、ボックはそこまでコントロールできないっシュ」

「ラッキーセブンって噂だけ広めておけばいい。七つ知ったとき、何となく気分がよくなるぞ」

 ただの気休めだけどなって、アミちゃんは苦笑い。でも、そういうのって楽しいかも。

「そろそろ時間ですね。わたくしたちも帰らないといけません」

 ツキちゃんがスマホの時計を見ながらいって、私たちは急いでソファーから腰を上げた。

「じゃあ、また明日!」

「いつでも来るといいっシュ!」

 ゆーま君と手を振り合って、部屋を出た。

 新しいアイデアがどこかから生まれたとき、またヘンななフシギを作ろう。そうすれば毎日がもっと楽しくなる。私たちはそんなことを話しながら、笑顔で家に帰った。


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ヘンななフシギ 大葉よしはる @y-ohba

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