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とりあえず今日は終わりってことになって、私とツキちゃんもゆーま君の部屋から出た。
帰りがけに体育館の中をのぞいてみると、さっきしっぽ玉越しに見た子たちがいた。一人は幽霊が出たことを一生懸命に説明している。他の子は笑っているだけ。
私たちが見たものは幻なんかじゃない。本当に起きたこと――私の考えが起こしたことだ。
私が住んでいるのはマンション。帰ってからしばらくすると、ご飯の時間。そのころにはお父さんも帰ってきていて、一家三人での晩ご飯になった。
今日はカレー。私の大好物。明日の朝も食べられるから、今朝より元気よく学校に行けるかも。
テレビではニュースをやっていて、相撲で誰が勝ったとかいっている。スポーツには興味ないけど、次に始まったのは私が好きな動物番組。〈特集! トラとライオンどっちが強い?〉だとか。
でも、私はカレーの味もトラ対ライオンも気にしているどころじゃなかった。
(私の考えたものが人を怖がらせたなんて、お兄ちゃんが知ったらどう思うかな)
私はずっとそれが気になっていた。
お兄ちゃんは私とたくさん遊んでくれた。いろんなことを教えてくれた。兄弟がいない私には、とても楽しかった。
絵だって、中学校で演劇部に入ったお兄ちゃんがこんなお芝居をしたら面白いかもとか考えて始めた。お兄ちゃんはそれを見て笑ったり喜んだりしてくれた。私もそうしもらえてうれしかった。
今まで同じクラスだった子の中にも、私の絵で笑顔になってくれた人がいる。その一人一人も、体育館の幽霊が原作・私だと知ったらどんな気分になるだろう。
今日は、カレーのお代わりをする気になれない。
私は、お風呂に入って自分の部屋へ戻ってからもベッドに寝転がって考え続けた。受け取った折り紙をときどき見る。
(どうすればいいかなんてわからないよ)
お風呂でもリラックスするどころじゃなかったし。
(アミちゃんが最初にいってたっけ。やっぱり妖怪なんて住ませたら……でも、住むところがないのはかわいそう)
あの弱気さを思い出せば、さまよいながらビクビクしていたってわかる。私たちに頼んだのは、ゆーま君なりに勇気を振りしぼってのことだったのかもしれない。
短冊ができたときの顔を思い出せば、今までうまくいかなかったのが嘘じゃないってわかる。できなかったことが初めてできた瞬間って、すごくうれしいものだ。
どうしておけばよかったのか、おぼろげな形が私の中にある。全然まとまらないけど。
「ああもう、こういうときは!」
私は跳ね起きた。イスに座りながらつかんだのは、勉強机の棚にはさんでいたスケッチブック。そして筆立てのエンピツ。
スケッチブックを開いて、エンピツを動かし始めた。どうすればきれいに描けるかなんて考えず、ひらめくままにエンピツを走らせていく。
(ゆーま君は住むところがない。ななフシギを作って私たちの学校に住もうとしてる)
私は国語や算数ならともかく図工じゃ通信簿がいい点ばっかりで、絵には自信がある。でも今は上手さなんか求めていない。
(だから私はななフシギを考えた。でもそれで誰かが悲しい目にあったら嫌)
ただひたすらに、頭の中のイメージを吐き出す。今の私が絵に必要としているのはそれだけ。
(ゆーま君も、学校のみんなも、誰も悲しませないためには……!)
私が手を止めたとき、スケッチブックには何匹かの動物がいた。
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