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「知りませんでしたか? 私って意外とユーモアに溢れているんですよ?」

 グラスに注がれた怪しい深緑色のカクテルを口から離してミクリさんが言った。

 知らないも何も、今まで冗談の一つ聞いたことなかったような気がするけれど?

「これでもまだお喋りになった方なんですけれどね」

 つい「そうなんですか」と言いそうになって口を噤む。さすがに失礼だ。

「もともとあまり喋るような人間ではなくて、家でも外でもほぼ口を開くような子供ではなかったので。まぁ花菱さんならご想像通りだと思いますが」

 ぎくっ。

「別に仲良くしたくなかったわけじゃなくて、ただ私は他の子よりも喋るのが下手で。他の子は意味の分からない言葉でもペラペラ話すことが出来るでしょう? でも私はそうじゃなかったから。上手く話せなかったから私と遊んでいても面白くなかったのだと思います。そうしたら自然と本を読むことが多くなって今の仕事をするきっかけにもなったので、まぁ結果的には良かったんですけれど」

 そこまで言ってミクリさんは猫背気味の姿勢のままもう一口、カクテルを飲んだ。

 そうか。ミクリさん、色々苦労されたんだな。子供の時ってそう言うの、はっきりしているって言うか何と言うか。いろんな面で正直な時期だから。

「でもまぁ正直」

「正直?」

「クラスメートと話せなくても、その子に憑いている人と話せていたから退屈はしなかったんですけれどね」

「あーっ・・・なる、ほど」

 そっか、そっちね。そういうこともあるよね。実体がなくてもお喋りは出来るもんね。そっか、さすがだね。

「ちなみに私、走ると結構速いんですよ。多分、花菱さんより」

「え、本当ですか?」

 そんなにいつも部屋に引きこもっている感じがするのに? 絶対俺より運動不足だよね? これも冗談?

「今度試してみましょうか」

「俺、言っておきますけど結構速いですよ」

「そうですか、でも怪我しても知りませんよ」

 なんてニヤリ、と口角を上げて見せる。これ、笑っているんだよね?

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