黄金池の下

カゲトモ

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「こんばんは」

「うわっ!」と出てしまいそうになった声を寸でのところで飲み込む。だってまさかそんなところに居るとは思っていなかったから。って言うかいつの間に入って来たの? ベルの音鳴った?

「ちゃんと正面の扉から入って来ましたよ」

「そ、そうでしたか。失礼しました」

 ってことはBGMに紛れてベルの音が聞こえなかったとか? 店内にはお客様は少ないって言うのに。もしかして魔女かと思っていたけど、実はくノ一の生まれとか? 今日もいつもと同じ全身黒づくめだし。

「あぁ、ついに気づかれてしまいましたか」

「え?」

 カウンターへ腰かけた占い師のミクリさんは、両手の指を組んで真っ直ぐに俺の顔を見て言った。

「分かってしまったんですね、私が普通の人間ではないと言うことが」

「えっ・・・」

「いつか花菱さんには気づかれてしまうかもしれないと思っていましたけど、ついにその時が来てしまったのですね」

「え」

 え? え、何の話? そんなマジトーンで、え? ミクリさん、マジで人間じゃなかったの?

「そうなんです。今まで黙っていましたが私、実は本当に魔法の薬を作ることが出来るんです」

 ・・・まじか。

「そんなわけないでしょう」

「え」

「何を本気にしているんです。この現実に魔法なんてものがあるわけないじゃないですか」

「・・・ミクリさんでも冗談なんて言うんですね」

 最初から最後までほぼ表情変わっていないのに、そんな冗談を言えるだなんて俺、知らなかったよ。あんまりにもいつもと変わらない表情だったから、ガチかと思った。

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