顔のない彫刻

映国紳士

第1話

 第二外国語の時間はいつも睡魔との戦いだった。昼食後一発目の授業は決まって眠気に襲われるが、中でも第二外国語は飛び抜けて手強い。

 教員が一方的に話す授業スタイル。窓際の席に差し込む陽光。フランス語の抑揚のない響きが心地よさに拍車をかけ、私を深い眠りの中に引きずり込む。

 抵抗も虚しく、肘をついてうつらうつらと夢現を漂っていると、遠くから、かーん、かーんと何かを叩く音が聞こえてきた。

 朦朧とする意識で窓の外を覗き込む。100メートルほど向こうに芸術専門学部の工房らしき建物があった。

 その中庭には彫刻が並び立ち、数人の学生がノミを打ち込んでいる。庭木に囲まれて今まで気付かなかったが、5階からはよく見える。

 工学部の私には馴染がない光景に、眠気も忘れてまじまじと覗き込んでいた。


 ふと、その中の一体に目が留まる。次の瞬間、ぎょっとして思わず仰け反った。それが明らかに他の彫像とは違う、異様な造形をしていたからだ。

 わずかに膨らんだ胸から、それが女性像だとわかった。右手を腰に当て、左脚に体重をかけ、リラックスしたポーズをとっている。

 それだけを見れば何の変哲もない彫刻作品だろう。異質なのは、その頭部だった。

 首から上がなのだ。

 石を切り出した状態のまま手つかずなのだろうか――、箱を被っているようにも、異形の化け物のようにも見える。

 彫像の作者らしき人物が見当たらなかったので、それが既に完成しているのか、制作中なのかは分からなかった。

 見れば見るほど不気味に感じられたが、不思議と目が離せなかった。

 授業の終わりを知らせるチャイムが鳴る。はっと現実に引き戻され、ようやく彫像から目を離した。


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