第三幕『盗賊団』





 果てしなく広がる空と海のあを。


 そのどちらとも一線を画す、孤高の姿があった。

その宙船は浮かび、一直線に前を目指す。


 凪いだ風の中、肩にかかる金髪を後ろに束ねた少年がいた。

 どこか冷めたような蒼の目をした黒服の少年は、船の甲板に佇む。

 真っ白な手袋を装備した、いかにも神経質そうな少年は、

丸メガネ越しの歪んだ世界を俯瞰している。


 突如、背後から女の声。

「は~い、ジャック! お・は・よ!」


 陽気にやってきたのは、髪を高く結んだ女。

紫色の花で染めたように色鮮やかな髪が、その尾を引く。


 女は少年の背中に手を触れようとした。

「ひっ」

――刹那、女は思わず悲鳴をあげる。


 少年は氷のような恐ろしく冷ややかな目で女を睨んでいた。

 言葉を発するでもなく、その目で告げる。


『触るな』


 心底冷や冷やした苦笑いを浮かべ、女は後ずさりした。

「わっ、悪かったってば!

そんな、汚いものを見るような目をしないでようっ」


 そうしていると、その後ろからさらにもう一人。

「何なに~? 何の騒ぎ?」


 またもや意気揚々と、その人物はやってきた。

「なんだか楽しそうじゃな~い? アタシも混ぜて~?」


「団長!? 聞いてよ~!」

 女はその人物に泣きついた。

「ジャックの奴ったら、またあたしのこと汚いもの扱いするの!」


「そう嘆かないの、ミカエラ」

 その人物は、よしよし、と女のおでこを撫でた。

「ジャック、彼女に悪気はないのよ。許してあげてね?」


 金髪の少年――ジャックは視線を下に、納得のいかないような顔だ。

 しかし、それからすぐ『仕方ない』といった風に眉を上げる。

 

 そして視線を戻すと、いつもの冷淡な様子で、ようやく言葉を発した。

「僕は女なんか嫌いだ。近くに寄られるだけで寒気がするんだ。」


 それは二人のどちらかに言うわけでもなく。

 ジャックはその一言を言い放ったきり、その場から立ち去った。


 その後の行動は、大体の予想がつく。

自室へと戻り、小説でも読むのだろう。


 バタン――


 ドアの閉まる音がし、その場の空気の静けさをより強調する。


「大丈夫よ、ミカエラ」

 ミカエラと呼ばれた女は肩をすくめ、

小さく“お手上げ”のポーズをしてから微笑んだ。


「ま、あたしだけにじゃないなら許してあげる、かもね」

 ジャックの態度を全く気にしていないかのように、悪戯にウィンクをする。


「……でも、潔癖症で女嫌いなのに盗賊なんて大変ね。そう思わない?

 ね、だんちょー?」


 何の問題も心配も無いかのごとく、問われたその人は微笑んでいた。


「天は人を最初から、完璧なものにはしないんだよ。

そんなものの集合体だから、人は人を好きになるし、

人生はきっと楽しくなるのさ。大丈夫だよ」

 その人は、隣人の肩を優しく抱き寄せた。


 ”だんちょー”と呼ばれたその人物。

かの偉人である海賊の孫、盗賊団の長である。(※第二幕参照)


――その名は、『ライラ・リック・リリー』。


 その名前から連想されるのは花のような人だとかなんとからしいが、

肩にかけられた布の下はたくましい体つきをしている。

 盗賊ならば名前を偽っていようが性別を偽っていようが、

よくあることである、というのはまた別の話だが。

果たしてその名が本当の名であるかどうかは、その人のみが知る所。


 そして――その盗賊団の名は、飛空盗賊団『マスカレード』。

 彼らは、一国を騒がせることとなる――とある事を計画していた。



「明日の事なんだけど――」


 宙船の中心部、その船長室は時に会議室として使われる。

 一味の者は円卓を囲み、何やら集まっていた。


 盗賊団長『ライラ』は、その部屋の一番奥、背もたれの高い椅子に腰かけている。


 がっしりとした丸テーブルいっぱいに、

筒状に丸まっていた地図は広げられた。


 そこで団長は、ある計画を口にした。


「狙いは、『花の都・オレリア王国』だ。

王女レナ姫を誘拐する! ――」

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