第二幕『宙船と球地図』





 それは遥か昔より続く。果てしなく広がる、空と海。


 そこには宙を泳ぐ船があった。その船は、帆のない船だった。


 その形容を言葉にするならば、“魚のような形”。

 金属でできたその船は、丸みを帯びた部分に

充満した気体によって宙に浮き、数本のオールが

舟をこぐように動くことで、前へと進む。

 赤茶色に金の装飾といったデザインで、

西洋のアンティークを思わせる。

 この船を見た誰もがきっと、不思議な感情を抱くだろう。


 そんな、不思議な船が空を飛ぶ世界――




 この物語の舞台である、とある世界があった。

 大陸は大きく分けて5つか6つ程あり、

それは青い海によって繋がれている。


 かつて、海賊が世界に猛威を振るっていた時代があった。

 それも今は終わり、文明は進んでいくとともに商工業は発達していった。


 波乱に満ちた時代を生き抜いた、現在かの偉人とされる海賊は、

時代の終焉とともにこう言ったそうだ。


『地球は青い地図である。それはこの手の中に――』


 まるで、“この世界は我のもの”とでも言うかのように。


 その言葉は、その偉人の莫大な宝のありかを示しているのではないか?

――それは一部の間で噂として囁かれたのだった。


 しかし海賊の時代は今終わりを迎え、いわゆる、世間的に知られる海賊は

空賊くうぞく』というものに変わっていった。

『空賊』は船で海を渡る事のみにその活動を限定しない。

 今、空を飛ぶ船というものがもてはやされている、そんな時代なのである。

 宝を求めて探し回るのは、今や海賊であるものは数少ない。

 そして、先述の偉人の孫も、とある空賊団を率いる人物となる。



――



 腰かけに体を預け、その人は足組みをしている。

 背の高い椅子に揺られながら、外の景色を眺めていた。

「今日も空はかいせー、海はあお!」


 左目に蝶の眼帯をつけたその人は、

目を閉じ、開かれた窓から吹いてくる風を楽しんでいる。

「風のいいにおい♪」


 心地よさそうに微笑み、ゆったりと脱力し、精神を集中させる。

 シャギーの入った柔らかい銀髪が、ゆらゆらとなびいた。


 手のひらの上で、地球を模した球体を弄ぶ。

 その様は、まるで

『この世界はこの手の中にある』

とでもいうような風だった。


 台も軸もない地球義は、手の上でくるりと回りながら浮かんでいた。




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