第4話 イントロダクション③
「これがRAD搭載・新型軍用小銃−−Magical-GUN(マジカル-ガン)だ」
「えっ,ちょちょちょ」
拳藤さんはそういって,真っ白なハンドガンを俺に手渡してくる.これ,どう考えても学生が受け取っていいものじゃなさそうなんですが.その気持ちだけが頭にあり,間抜けな声がでてしまう.間抜けな声が部屋のコンクリート打ちっ放しの壁に反射して響いて,間抜けさが倍増して感じられる.この部屋に来る際に,随分と長くエレベーターに乗った.先ほどのテレカン部屋があったフロアは地上8階.一方,今いる部屋は地下50階である.部屋というか,射撃場である.俺と拳藤さんがいるところには,入り口のそばに棚があり,イヤーマフがある.だが,他に拳銃らしきものが見当たらない.
「いいから受け取れ.大丈夫だ,特に問題ないから」
「わ,わかりました.−−ん」
「よしよし.盾くん,銃を撃ったことは?」
「一応,韓国で.サークル旅行で行ったんですけど」
「それは重畳.−−少し重いと思わないか?」
たしかに,記憶の中のハンドガンより重く感じた.文芸サークルの旅行で韓国に行ったときに,射撃場で拳銃を使ったことがある.綺麗な思い出よりキモいネタ,インスタ映えする写真より資料用の写真撮影を優先する集団である.サークル旅行は,①日本に近くて旅費が浮くアジア(『僕たち日本人だから,アジア系外国人のキャラって逆に描写難しくて勉強したいんだよねぇ』),②銃が撃てる(『やっぱり小説を書くなら拳銃くらい撃ってないとダメじゃない?』),③カジノがある(『打つ・飲む・買うは小説家の基本だゾ!』),などの理由で韓国となったのだ.そこで当然のようにして,射撃場へと向かい,サークルメンバーで誰がもっとも高得点を取れるか? というゲームをしたのだが,もうはるか昔のことのようだ.去年の今頃だしな,旅行に行ったの.
「Magical-GUNはRADを搭載している.私たちの首についているものと同じだが,教師データのドメインが異なる」
「GUNとGANがかかっている,ってことですね」
その通り,と拳藤さんはふふっと簡単に笑った.Magicalは当然,マジカル−−魔法の,という意味だとして,GUNはガン,つまり銃である.一方で,RADに搭載されている機械学習のモデルはMagical-GAN.発音だけなら,同じマジカル-ガンだ.ただ,こちらのGANはGenerative Adversarial Networkの略なわけだが.しかし,「教師データのドメインが異なる」?
「通常のMagical-GANは,人間の会話データや,
「はい,この学習済みのモデルを用いて,ユーザの詠唱を補正して,World APIに対し干渉するってことですよね」
「そうだ.我が社−−ディープ・アリア社は,コモンAPIを782は発見・公開している.現時点で世界で発見されているコモンAPIは,934なので比率からいって圧倒的であることがわかると思う」
コモンAPIを発見するとは,すなわち
「こういったコモンAPIは,基本的に発見したと同時にある程度の期間を経て,世に公開するというのが主流となっている.どうせ,
「−−学習済みのMagical-GANが搭載されたRADを持ってさえいれば,ですよね」
そうだ,そこで我が社は儲けている,と拳藤さんは悪びれることなく堂々と言う.そう,
「しかし,
「軍事目的のもの,とかですか?」
公開する意味がないのは,どこかから漏れてしまう恐れがあるからだ.しかし,その可能性がある程度,無視できるなら? たとえば軍事目的なら,「漏れる」なんてことなはない.漏れる前に「消す」からだ.あるいは,漏らす意味がない場合だ.たとえば,ディープ・アリア社の社員からコモンAPIがリークされることは珍しい.ほぼ無いといっても過言では無い.なぜなら,普通に働くだけで十分な給料や福利厚生が得られるのだ.リークという危険を犯す必要性がない.
「その通り.そして,Magical-GUNも,そうだ」
「......それって,僕が聞いて大丈夫なことなんですか?」
インターンとはいえ,俺は学生だ.「俺」を人前で「僕」に変える程度には,わきまえているつもりだ.というか,軍関連のことをなぜ学生に教えるんだ.
「今回のインターンの裏目的がそれにあたる.『学生が使えるか?』を確認することだ」
はぁ,と拳藤さんはため息をつく.頭をぽりぽりと書きながら.
「機械学習エンジニアはまだまだ人が少ないんだよ.それもセキュリティ関連となればなおさらだ.だから学生でも優れた人材であれば使いたい.しかし,本当に使えるか? 学生の段階で雇って問題ないか? −−その試金石が今回のインターンでもある.盾くん,君で試すつもりだ」
「いきなり軍事,それも週替わりでテーマ変更しながら,ですか......」
「そうだ.それくらいできなくては,『優秀』とはいえない.それにいざという時の備えもある」
それはそうかもしれないが,だからといってコンプライアンス的に問題ないのだろうか? ......ん?「備え」?
「ちょうどいい.サービスだ.実際に『備え』を見せて−−魅せてやるか」
「え!ちょ,」
拳藤さんはスーツのジャケットを脱ぎすて,ブラウスのボタンも外し,下着を見せ−−
かちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃん!
何か軽やかな−−ステップを踏むような−−音が聞こえたと同時に,意識が遠のいていく.
「
ディープ・アリア @writer_AZ
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