第5話
さあ、私たちも早いことドアをくぐりましょう隊長!
「まあまあ落ち着け、フィー。今日わざわざ出迎えに来てくれた皆さんへの挨拶を忘れるな。こういうのも大事なことなんだぞ。」
確かに私たち隊の周りには知らないうちに結構な人だかりができていた。
隊のみんなの兄弟やら親やら、たまに野次馬だったりがそこらかしこにいて私たちを見送りに来ていた。
おっとおっとあれはバッツさんの奥さんではないか、相変わらずおきれいですね~。何でこんな人と結婚したのやら・・・。息子さんもどこぞの父親に似て堅物そう・・・。
まあ余談はこのくらいにして挨拶をさっさと済ませたら早くドアをくぐろう!冒険は待ってくれないよ!
「はーい。それではみんな、私たちはきっと無事に戻ってきます!今まで本当にありがとうございました!行ってきまーす。」
我ながら完璧なスマイルとお言葉!だったはずなんだけど・・・。
ゴツッ・・・・・・
「痛ったー!ちょっとなんで殴るのよ!?」
「何もう勝手に行こうとしてんだコラ。俺の挨拶もまだだし、『今まで本当にありがとうございました』ってもう帰ってこないみたいじゃねえか!」
バッツさんはすごい人だし、尊敬もしてるけど私に少し厳しすぎやしないかしら?他の人にはこんなこと絶対言わないでしょ。
隊長の挨拶にとどまらず、なんかどこぞのお偉いさんが出て来たりと、かれこれあってやっと閉会。
ついに私たちはドアをくぐり、新界へと旅立つこととなった。
私はこの後のことを想像すると思わず武者震いしてしまった。
「やはりさすがのお前でも緊張するか?」
バッツさんは少し口の端を上げて言った。
しかし、無論そんなはずはない。
「いやいや何を言ってるんですかバッツさん。もう私ワクワクが治まりませんよ!」
私が自信をもって大きな声でそう言うと周りは少しざわつき、バッツさんは大きなため息をついていた。
『ちょっとあの子何なの?どんな育てられ方したらそんなこと言えんのよ?』
『本当よ、非常識にもほどがあるわよ。』
知らぬ間に私は野次馬おばさんたちの井戸端会議の餌になっていたようだ。
なんだか無性にむかむかする。
「お前もうちょっと自重という言葉を覚えた方がいいぞ・・・。今まであれをくぐったやつは誰も戻ってきてないんだぞ、そんなところに行くことを喜ぶ奴なんて普通はいないんだよ。
もうさっさと行くぞ、俺はこんなことで注目の的にはなりたくない。」
バッツさんは私に諭すように言ってくる。でも当の私からしてみればだから何よ、という話であって。
「でもやっぱり、私は行きたいです。誰も戻ってきてないからこそ、いや戻れなくてもいいのかもしれません。
私はもっと知りたいんです、もっともっと、もーっとたくさんのことを知りたいんです。だから私は人から何と言われようと思われようとかまいません。
この気持ちがわからない人はずっとわからないままでいいんです。別に無理にわかってもらおうだなんて思ってませんから。」
私は言いたいことを一息でバッツさんに、いやそこにいた聴衆全員に言い放った。
これまでここにあった応援や叱咤激励も暴風に吹きとばされたようにどこかへ飛んで行ってしまった。
隊のみんなもやれやれまたかという表情で私を見ている
するとバッツさんは少しばつの悪そうな顔をして私にそっとささやいた。
「俺はお前の事はもう長いこと知ってるからいいけどな・・・。その、なんだ、ここにいいる人の何人かは大切な人を自ら手放す決断をしたんだ。きっと苦渋の決断だったんだと思うぞ。
かくなる俺も妻子持ちだ。妻や子供、親友たちと離れなければいけないのはやはり断腸の思いだ。今だって後悔がないと言ったら嘘になるだろう。
この俺だってそうなんだ、さっきのお前の発言を聞いてあまりいい気分をするもんじゃない人が大勢いるのは当然のことだ。お前だって人の心を曇らせていい気分はしないだろう?」
「それはわからないことはないですけど・・・・・・。」
バッツさんの言いたいことは私も重々承知の事だ。
それでもどうしても譲れない何かが私の中でずっともやもやを生み出し続けていた。
「そんな暗い顔をずっとしているようではいいことも起きないぞ、いつもの元気なお前はどうした。さあみんな新界へ出発だぁーーっっ!」
「「はい!」」
そうだ、やっぱり私はずっと前を向いていないとね!いちいちこんなことで足を止めてられるもんですか!
そう心の中で呟いて私は新界へと足を一歩進めた。
まだ私の物語は始まっていない、そんな確信が私にはあった。
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だいぶ彼女の個性を出しちゃいました。フィーの気持ちもわからなくもないんだけど・・・。でもでもどうか彼女を見守っててあげてください!!
やっと次話からは新界です!なんかここまでがプロローグな気もするが・・・。
後自分で書いててなんですどバッツさん可哀想・・・。
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