第3話

そんな時だった。


 ついに隊員の一人だった男が瀕死ながらも帰還した。

 この男は帰って三日もしないうちに亡くなってしまったが、この男が死ぬ間際ギリギリまで残した話から分かった新界の情報は大いに役に立った。


 ドアをくぐってまず隊員たちの眼下に広がったのは、乾いてひび割れ、どこまでも続いているのではないかと思うほど広大な地だった。

 しかし、十キロほど先からとても深い霧が広がっていてその先はよく見えないという。

 だが、誰も見たことのないであろうこの未開の土地の景色に隊員たちは大いに喜び、興奮はなかなか冷めあがらなかったそうだ。

 

 しかし、もうその時にはドアは濃霧に飲まれて跡形もなくなっていた。


 彼らはその日は簡易テントを立て、後は今後の日程を確認する作業を行った。

 当たり前なことだが、翌日は隊員全員が起床時間にきっちり起きて探検にすぐに出かけた。

 

 しかし、拠点を出発して五分と経たないうちに隊は一人の生存を残して全滅した。

 それはじわじわと隊に襲いかかってきたという。最初は少し咳き込むぐらいでみんなあまり気にしてはいなかった。

 しかし、次第に隊員たちの足は止まっていった。

 この男も最初は他の隊員の気遣いをしていたものの、少しずつ息が荒くなっていったそうだ。


 ひとまず隊を霧に入る手前で一休憩させることにした。

 各自寝っ転がったり軽く体を動かしたりしながら休んでいたそんな時だった。

 突如ビュゥオッッと突風が吹き、固まって休んでいた隊はみな霧の中に覆われた。


 この男も一瞬にして濃霧に覆われて、周りの隊員の位置を確認しようとした。

 すると、自分の体が自分の物でない、まるで金縛りにあったように身体が動かなくなっていた。

 逃げようとしても足に重りがついているかのようで、誰かを呼ぼうとしても口をふさがれているようでどうすることもできなくなっていた。

 また、霧に毛の先からつま先まで体をくまなく調べられているような気がし、間もなく得も言われぬ吐き気がこの男、いやここにいた全員そうだったのだろう、に襲い掛かってきた。


 少し霧が薄くなった気がする、そう思い横目で周りを見ると仲間の隊員たちが霧に飲み込まれるようにスウーッッと音もなく静かに消えていったという。

 もう何もかも諦めそうになったが、必死にもがいているとなんだか少しずつ呪縛が解けたような気がして、後はもう無我夢中で走っていた。


この時どこかで誰かが見ていた気がしたのはきっと気のせいだろう。

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