第26話『高機動車ハナちゃん』

妹が憎たらしいのには訳がある・26

『高機動車ハナちゃん』    



 平穏な日々が続いた。

 校舎屋上でのねねちゃん爆殺事件は、里中副長と幸子の手際の良さでだれも気づかなかった。

 

 情報衛星が一機、爆殺の瞬間をサーモグラフィーで捉えていたが、調子に乗った生徒が、ちょっと多目の花火遊びをやったということでケリが付いた。

 当然甲殻機動隊が手を回したことだけど、ご丁寧に大量の花火の燃えかすまで撒いていった。

 おかげで、全校集会で生徒全員が絞られ、屋上は当面生徒の立ち入りは禁止された。

 向こうのサッチャンは姿が消えた。グノーシスの誰かがリープさせたようだ。しばらくして『当方の幸子は、こちらで預かる。義体化はしない。グノーシス評議会』というメールが入った。


 ブログが炎上した。


 と言っても、屋上の事件とは関係ない。


 幸子のモノマネは、マスコミでも頻繁に取り上げられて話題になった。特にAKRのセンター小野寺潤と、初代オモクロの桃畑律子のモノマネが人気だ。前者は過激なファンから、後者はアジア問題を気にする有象無象から。それぞれ賛否両論のコメントが数千件も来た。

「なんだか昔のわたしみたいね。でも、頑張ってね!」

 と、モノマネの大御所キンタローさんからも応援を頂いた。


「サッチャン、がんばってね~」


 練習を終えたばかりの演劇部の子達が、ブンブン手を振って送り出してくれた。

「幸子、ほんとにこの調子でやってくつもりか?」

「うん。このお陰で、神経回路がすごく発達してるような気がするの。幸子、ニュートラルの状態でも笑顔になれるようにがんばるわ」

 幸子は、学校とモノマネタレントとしての使い分けを見事にやりこなしていた。学校の授業はもちろんのこと、演劇部とケイオンの部活も休まず。放課後と土日だけを、タレント業にあてている。


 まいったのは俺の方だ。俺は、テイのいい付き人。

 マネージャーはお母さんがやっている。


 放課後と土日だけのスケジュールなので、お母さんはラクチン。車の運転さえしない。車はガードを兼ねて甲殻機動隊が貸してくれた完全オートの高機動車。音声を女の子にして「ハナちゃん」と名付けられた。

『オカアサン、編集のラフできました~』

「ありがとうハナちゃん。助かるわ」

『いえいえ、ハナも勉強になりま~す』

 ハナちゃんは、目的地まで運転している間に、お母さんのアシスタントまでこなしている。

「ハナちゃんの学習意欲は、よく分かるわ。今のわたしといっしょ」

『そんなあ~、幸子さんとハナとでは機能が二桁違いますからね。ま、励ましのお言葉として受け止めておきます。太一さん起きて下さ~い。あと一分で到着ですよ~』

「☆○×!!……その電気ショックで起こすのは止めてくれないかなあ」

「これが、一番効果的だと学習したの~」

 ハナちゃんとお母さん・幸子は相性がいいようだが、俺は、もう一つ馬が合わない。


「おはようございます。今日は小野寺さんと共演になりましたのでよろしく」

「え、やだあ。わたし緊張、チョー緊張!」

 プログラムモ-ドの幸子は、憎たらしいほどに可愛い。衣装をかついで控え室へ。お母さんは幸子を連れて、ゲストのみなさんに挨拶回り。


 控え室には先客がいた。寝ぼけ頭の俺は一瞬部屋を間違えたかと思った。


「少しだけ時間を下さい、太一さん……」

 モデルのようにスタイルのいい女の人が、部屋間違いでないことを間接的に。で、次の言葉で直接的な目的を言った。

「この二人を預かっていただきたいんです」

「あ、どうぞ掛けてください……あ、あんたは!?」

 ボクは、ナイスバディーの女の人のヒップラインで気づいた。

「美シリ三姉妹……」

「の……ミーです。でも今は敵じゃありませんから」

「その二人は……」

 二人は、ニット帽とパーカーのフードをとった。

「き、君たちは……!」


 俺はフリーズしてしまった……。



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