第24話 不思議なオカルト

「あれ……?どこにやっちゃったかな?」

そう言ってアパート中を探しているのは匿名希望。

確か昨日は持っていたはずだったのだが、今日になって見つからない。なくて困るものではないが、自分が一番愛読していた本だったのでこうやって探しているのだ。

とはいえ、部屋を探しても見つからなかったし、当然のことながら住人の誰かが持っているなら、さっき聞き込みをしたときに教えてくれるはずだ。

しかし、このアパートの中でも唯一探していない場所がある。

「物置」と書かれた部屋。位置づけとしては三台しか車が止められない駐車場の後ろ、アパートとの位置関係で言えば地下部分に当たるのかもしれない。このあたりは地形が複雑かつ説明下手なのもあって伝えるのが難しい。

とにかくその部屋に入ればもしかしたらあるかもしれない。仮にも「物置」なのだから。


入ってみると、結構暗い。とくに外の明るいのに目が慣れてしまっているのでより暗く感じる。

少しづつ目を慣らしながら探索していく。いくらばかりかさっきよりは物が見えるようになり、次第にだいぶ探索が楽になった。

しかし、探していたものは見つからない。畳まれたダンボールや、雪かき用の大きいスコップ。少なくとも本が入っていそうな場所はなかった。

さらに奥へと探索を進めていくと、さらに扉があることに気がついた。

どうするべきだろうかと、扉の前で考えているとその扉は勝手に開いた。

___________いや、向こう側から誰かが開いたのだ。その人は、ここのアパートの住人として見たことはなかった。

その瞬間、一気に思考がぶっ飛んで思わず叫びそうになる。

しかし、それすらも許さないかのようにその人は、希望の口をふさいだ。

希望はもう恐怖で体中が震えている。オカルト好きな希望も、まさかここまでのことが起きるとは想像していなかった。

しかし、希望の口をふさいでいたその人は、ゆっくりと希望の口を自由にしていく。

希望は、自由になった口で息を吸い込んだ。それと同時に、その人は希望に向かってこういった。

「……………あまり、大声を出さないで」

その声を聞いた瞬間、希望は自分だけでなく、相手も恐怖であったということに気がつく。

「あまりにも、いきなりだったので……」

希望は少しづつ冷静さを取り除いていく。相手は思ったよりも小柄で、希望よりも恐怖を強く感じていそうだった。希望はこう声をかけた。

「わたしの名前は、匿名希望。あなたの名前は?」

「……………、わたしの名前……。……………トラベレイター」

「トラベレイターさん、でいい?」

「……………うん」

トラベレイターは小さくうなずくと、希望に部屋へ入るように扉を開いた。

トラベレイターと希望は少しの間見つめあったが、ふたたびトラベレイターがうなずいたので、部屋へ入ることにした。


「……………あなたはどうしてここに来たの?」

「あ、実は探しものをしてて……」

「……………探しもの、……………どういうもの?」

「ほ、本なんだけど、オカルト系の」

「……………もしかして、……これ?」

そう言ってトラベレイターが出したのは、希望がなくした本だった。

「あ、これです!ありがとうございます」

「……………昨日、アパートのベンチにこれがおいてあったの」

どうやら、昨日は晴れていたので外でこの本を読んでいたのだが、そのままベンチに置いてきてしまったらしい。それで、トラベレイターさんが持っていったのだが、誰のかもわからないのでどうしようか迷っていたらしい。

トラベレイターさんはオカルトが好きらしく、少しの間そのことで希望と盛り上がった。

少しすると、扉が開いて誰かが入ってくる。その人は、新聞紙にくるまれたさつまいもを持っていた。

「とりあえず、こんなもんかなって、オマエ誰だ?」

「あ、あの……」

「……………カクシナノゾミ。わたしが入れた」

「そうか。なら別にいい。俺は、蛇ノ目由岐だ。よろしく」

「よろしくおねがいします……」

希望はふたたび緊張してしまったが、由岐さんもトラベレイターさんも希望を受け入れてくれた。

本も見つけたし、オカルトな話ができる人がまた一人増え、なんだか希望は充実していた。

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