第23話 不思議な挨拶

「住人に挨拶しろって言われてもなぁ…、オレはどうやったら良いのか分からん」

由岐はそう言ってアパートの住人表を見る。

歩賀寧、小川明月、フレス、バル子、あとは麻くらいしか知っている住人はいない。つまり、大半がはじめましてということになる。

誰からあたっていけばいいだろうか。

それじゃあ、とりあえずこの雑賀司っていう住人からあたっていくか。


ピンポーン。と由岐がチャイムを鳴らすと中から

「はーい、少々お待ちくださいー!」

と声が聞こえてくる。言われたとおり少々待ってみるとドアが開いて茶髪の元気な女性が出てきた。

「どのようなご用件でしょうか?」

「挨拶に来たんだ。オレは、蛇ノ目由岐という。一応このアパートに住んでいる」

「えーと、部屋は……?」

「地下室だ」

「え、なにそれ。そんなところあるの…ですか!?」

「まぁ、オレの他にもトラベレイターというのが住んでいてな、人見知りなのであまり顔は合わせないと思うが」

「そ、そうなんだ…ですね、あ、私は雑賀司って言います!よろしく」

「了解だ。よろしく」


終盤の方敬語ガッタガタだったな。まあ、敬語を使われてもこっちはそれをあまり使えないので意味はないが。

次は、天野碧。


「はーい、なんでしょうか?」

こちらは待つこともなくすぐに出てきた。服装は「ディオ至高」と書いてあり、部屋着のまま出てきたのがわかる。正直言って深く探っても意味がないだろう。

「このアパートの住人で、挨拶に来たんだ。蛇ノ目由岐という。よろしく」

「よろしくおねがいします。私、天野碧って言います!由岐さん、であってますよね」

「あぁ。あと、同じ部屋にトラベレイターというのもいる。そっちもあまり会う機会はないだろうがよければよろしくやってくれ」

「わかりました!ありがとうございます!」


こっちはスムーズだったな。というか、このペースで一人ひとりに挨拶をしてまわったら必要最低限のことしか伝わらないと思うが。

その後も、木叢峩えりや、黒江ふみにあたっていく。匿名希望はどうやら出掛けていていないようだ。

あとは、夏樹みかん。くらいだろうか。モスカは子供だから別に挨拶はなくていいようだ。麻がそう言ってた。


チャイムを鳴らすと、こちらは金髪の割とまともそうな人が出てきた。

まともそうというかさっきからそこそこまともな人が出てきているような感じはしている。自分が入ってきたときは不思議な人が多かったから。

「それで、どのようなご用件でしょうか?」

「あぁ、このアパートに住んでいる蛇ノ目由岐という。あと、同じ部屋にトラベレイターというのも住んでいる。それで、挨拶に来たんだ」

「そうなんですか。私は夏樹みかんです。よろしくおねがいします」

と、ふと玄関を見るとダンボールの中にさつまいもが入っていることに気がつく。

さつまいもが入っているダンボールに釘付けになっている由岐にみかんが気づく。

「あ、これ私の実家から送られてきたんですけどいくつかおすそ分けしようと思って……。よければ、由岐さんとトラベレイターさんでさつまいも食べますか?」

「もらってもいいのか?」

「もちろんですよ!たくさんもらったので一人じゃ食べきれませんし」

そういうと、みかんはさつまいも二つを新聞紙にくるんで由岐に渡した。

「ありがとな。恩に着るよ」

由岐はそういうとさつまいもを持ってみかんの部屋から離れていく。その姿は、とっても喜んでいるようにも見える。


それを見て、みかんもなんだか笑顔になったのであった。

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