第5話 不思議な女子力

「おーい、寧いるか?」


そう呼んだのは麻。休日を持て余した彼女はどうやら私の部屋の前にいるようだった。

私は目をこすって玄関まで行く。ゴロゴロしてたいんだけどなぁ。


「おはよ、麻さん」


「おそようだな。もう一時こしてるぞ」


「早起きだねぇ、それで、何のよう?」


「いや、ちょっと…あれだ。化粧をな」


「あれ、目覚めた?」


「ちげぇよ、最近向こうの大学で学園祭があるから、少しくらい化粧しないとまずいなって」


「と、言われましてもこちらには化粧品ないよ」


「大学生だろ!?」


そんな事言われたって…。普段から無気力キャラで通ってきたから化粧なんてしたこと無いし。


「まあ、確かに化粧しなくても、肌はきれいか」


「そうかもしれない」


それはともかく、結局根本解決にならないし、こういうときは現役生を呼ぶのが一番手っ取り早いか。

そんなわけで、スマホで詳しそうな人にメッセージを送ると、一瞬で既読がついた。


それから5分。


「おっじゃましまーす!」


そう言って二人の女子が入ってきた。

一人は黒い髪を後ろで結んだおとなしめの子、黒江ふみ。

もうひとりは無造作に垂らした茶髪の元気な子、雑賀司ぞうがつかさだ。


私が呼んだのはふみの方だったが、ふみと司は仲がいい。きっと二人で遊んでいたのだろう。


「それで、私は何をすればいいですか…?」


ふみが小声で言う。


「麻さんのメイクをお願いしてもいい?」


そう言うと、ふみは頷いた。

すぐにふみは化粧セットを取り出して、麻に化粧をする。


「なんかくすぐったいな」


「化粧中にしゃべると崩れるよ」


「ぐぅ…」


司の一言で麻はすぐに口を閉じた。

ふみはあまり喋らないが、こうやって司がフォローしてくれているのが頼もしい。


そして、10分程度で化粧が完成した。


「これで、どうですか…?」


「凄いわー麻イメチェン」


「似合ってるんじゃない?」


「鏡鏡」


そう言って麻が鏡を見ると、麻は目を見開いた。


「これが、オレ?」


麻が見とれていると、いきなり後ろから司が麻を押し倒す。


「ちょ、何するんだ」


「メイクだって私もできるから!」


「やめろそれ油性ペン」


「でいやー」


********


当日送られてきた写真にはヘビメタメイクの麻さんがギターをかき鳴らしていました。


「雑賀ァ!」


今日も平和です。

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