第13話 何を見ているの?
仔犬の頃の君は、何もないところをじっと見て、吠えることがあったね
何か悪いものでもいるのかと、家族で軽口を叩いたっけ
成長していく君は、おもちゃの一つひとつ、草花の一つひとつに目を輝かせていたね。
かじがじ噛むものだから、おもちゃははあっという間にボロボロに
草花はがんがん蹴散らして
鼻先で風を切って、ずんずん進む君は頼もしかった
家族の風景の中にいつだって君が寄り添っていた
覚えてる? 私のメガネの弦を噛んでダメにしたこと
君の誕生日には犬用のケーキを買ってお祝いした
せっかくのかわいいケーキを一口でぱくりと食べてしまう食欲旺盛な君の動画をとるのは一苦労だったな
君は抱っこするといつも気持ちよさそうに目を細めた
まん丸のビー玉みたいな目には私の姿が映っていた
君の肉球からはまるでポップコーンみたいな香りがして
でも、嗅ごうとすると嫌がったね
そして、今――
もうすぐ17歳を迎える君は、何を見ているの?
年を経て白く濁った瞳は、少し潤んでいる
お願いだから、まだ、そこに虹の橋や天国みたいなきれいなものを映すのは待ってくれないか
まだ、心の準備ができていないんだ
君を喪う準備が
夜、君が寝てしまうたびに不安になる
明日の朝は、目覚めないんじゃないかと
増える粗相
若いころは必要なかった薬
昨日、ネットショッピングでマナーウェアという名の犬用おむつを買った
いっぱいいっぱいあるから
使い切っても、また買うから
だから
涙が出る
のどがつまる
息が熱くなって
それでも、君への想いを綴っていたい
その間は、君はどこにも行かない気がするから
君は何を見ているの?
幸せな夢?
小さいころ少ししか一緒にいられなかった母犬の夢とか
私は君を見ている
ずっと、ずっと君を、見ているよ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます